ここから本文です

「育休3年制」が無意味な3つの理由――経済学で考える「家族の幸せ」のウソ・ホント

8/18(日) 16:00配信

本がすき。

「帝王切開なんてダメ、あんなの本当のお産じゃない」「赤ちゃんには母乳が一番」「子どもが3歳になるまでは、お母さんがつきっきりで子育てしないとダメ」……よく聞く言説ですが、近年の経済学の研究によって、これらはすべて間違いであると証明されています。現在東大で経済学を研究し、本人も子どもをもつ山口慎太郎先生が、データ分析から分かった結婚・出産・子育ての真実を語る『「家族の幸せ」の経済学』(7月18日発売・光文社刊)より、「育休3年制」が導入された場合に女性の出産や就業行動がどのように変化するかをコンピュータ上でシミュレートした結果と、筆者の予想する今後の展開をご紹介します。

※本稿は、山口慎太郎『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

◆今の日本で育休3年制が実施されたらどうなる?

日本でも「育休先進国」並みに、3年間の育児休業を認めることが女性の就業を増やすのではないかという議論があります。

経済学やデータ分析の立場から、この育休3年制の是非について何が言えるのでしょうか。

すでにあるデータを活用し、女性の出産や就業行動について分析することで、その行動原理を数理モデル化しました。

その上で、「育休3年制」が導入された場合に、女性の出産や就業行動がどのように変化するかをコンピュータ上でシミュレートし、何が起こるのかを予測しました。

データ分析から、女性の就業行動原理を理解する上でいくつかの重要な発見がありました。

第一に、正社員の仕事を見つけるのはかなり難しいということです。

たとえば、ある年に主婦であった人が、翌年、非正社員の仕事に就く確率は10パーセントほどですが、これが正社員になるとわずか1パーセントにとどまります。

本人のスキルや雇用形態についての志望といった要素を考慮しても、正社員として就業するのはかなり難しいという結論は変わりませんでした。

いちど正社員の仕事に就いたら、在職中に次の仕事を見つけるのでもない限り、正社員の仕事を辞めないことが、女性のキャリアにとって重要になります。

これは、育休による雇用保証が重要であることを示唆しています。

第二に、幼い子どもを育てながら働くのはもちろん大変ですが、子どもが1歳になると、そうした負担は大きく減るということです。

この理由の一つには、0歳児保育を見つけるのに比べると、1歳児保育は比較的見つけやすいことが挙げられます。

また、子どもが1歳になるまでは、子どもの発達や母子の感情的な結びつきを重視して、自らの手で育てたいと感じているお母さんが多いことも関係しています。

そうしたお母さんにとっては、子どもがまだ1歳にならないうちに、子どもを預けて仕事に出るのは精神的な負担になります。

子どもを育てながら働く大変さは、子どもがいくつになってもなくなるものではありません。それでも、子どもが大きくなるにつれて、その負担感が少しずつ減っていくことを実感される方が多いようです。

そして、その負担感は、0歳児と1歳児で大きく異なるというのがここでのポイントです。

子育ての負担感がとりわけ大きな時期を、制度的にサポートしようという現行の育児休業制度が、働くお母さんの大きな助けになっていることが示唆されています。

第三に、大多数の人にとって、育児休業によって大きくスキルを失ってしまう心配は当てはまらないということです。

たしかに、育休を取ることでキャリアを諦めなければならないくらいの失点になってしまう人もいないわけではありません。そうした人々にとって重大な問題であることは間違いのないことです。

しかし、数カ月から1年程度の育休がキャリアにとって「致命傷」になってしまうのは、ごく限られた高度な専門職、管理職などにとどまります。

もちろん、育休から復帰して仕事のやり方を思い出し、調子を取り戻すのには苦労をともないます。それでも、育休取得のために職業上の能力の多くを失ってしまうのは一部の人にだけ当てはまるようです。

賢明な読者のみなさんには、何を当たり前のことをいまさらとお叱りを受けそうですが、こうした論点をデータできちんと確認することは、間違いのない判断のためには必要ですし、これらの論点の重要性を定量的に踏まえることは、シミュレーションを行う上で不可欠なのです。

「常識」を数値化するのは、回りくどいと感じるかもしれませんが、最善の予想を立てる上では避けて通れません。

1/2ページ

最終更新:8/18(日) 16:00
本がすき。

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事