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「税金の無駄」を一変させたダムカードの逆転力

8/18(日) 12:29配信

ニュースイッチ

マニアの一言、行かないともらえない記念品が欲しかった

 全国169カ所のダム管理事務所はいつもと異なる賑わいを見せていた。2―5月のことだ。来訪者の目当ては「天皇陛下御在位30年記念事業」の一環として期間限定で無料配布した「ダムカード」。ダムの愛好家だけでなく一般の認知度も高いアイテムの期間限定品とあって求める人であふれた。各地のダム管理事務所からは「いつもの2―3倍の人が連日来訪した」や「想定以上の早さで配布が終了してしまった」という声が聞かれ、配布枚数は3ヶ月で約67万枚に上った。

 この反響に特別な感慨を抱く人たちがいた。ダムカードの生みの親たちだ。ダムを愛するライターのふとした一言がダム行政を司る国土交通省の職員の耳に入り、ダムカードは半年足らずの製作期間を経て2007年7月に誕生した。ダムが税金の無駄使いの象徴のように扱われていた当時、急ピッチで作業した当事者たちはその後の12年間で680種類以上生まれ、ダムに好意的な関心を持つ人を増やし、「天皇陛下御在位30年記念事業」にまでなるダムカードの成長を想像だにしていなかった。

 「ダムに行かないともらえないカードがあったらいいな」。ダムライターの萩原雅紀さんが発言した。06年8月15日、東京・新宿で開いたDVD「ザ・ダム」発売記念トークイベント「ダム祭」の席だ。なんとなく出た言葉だが、常々思っていたことでもあった。

 「ダムを訪問した際の記念品があればよいと思っていましたが、当時は唯一手に入るアイテムがパンフレットでした。それも大きさはまちまちでデザインはバラバラ。収集してもかさばらない仕様が統一されたものが欲しいと思っていました。管理事務所の職員が配布する形であれば、ダムの疑問点などについて職員に聞くきっかけができる期待もありました」(萩原さん)。

 萩原さんは99年頃にドライブ中に宮ヶ瀬ダム(神奈川県相模原市)の建設現場に出くわし関心を抱いた。その後通い続けて完成したダムにたどりつき、下から見上げたときの圧倒的な存在感に魅了された。その魅力を広く伝えようと00年にホームページ(HP)「ダムサイト」を開設し、ダム情報を発信していた。イベントで発した意見の背景にはHPの情報更新などを目的に全国のダムを巡っていた自身の経験があった。

 萩原さんの意見は、国交省河川環境課流水管理室の三橋さゆり建設専門官(当時、現・国交省関東地方整備局利根川上流河川事務所事務所長)に伝わり、ダムカードの製作は動き出す。その際に萩原さんの発言を三橋さんに伝達したのが、イベントの客席にいた水資源機構下久保ダム管理所の金山明広管理第一係長(当時、現・岩屋ダム管理所所長代理)だ。

 金山さんはダムを使った地域おこしの方法などを考える担当者として「ダムサイト」運営者の萩原さんに連絡し、以前から情報交換していた。萩原さんからイベントの案内を受け、足を運んだ席での発言に「(ダムの魅力を広く伝えるには)これしかない」と思ったという。そこで2ヶ月後の10月にダム水源地の環境整備に関わる調査研究などを行う水源地環境センター(WEC)が開いたダムによる観光振興をテーマにした勉強会で萩原さんの意見を報告した。その勉強会に出席していたのが国交省の三橋さんだった。

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最終更新:8/18(日) 12:29
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