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軽減税率の穴埋め、フリーランスや小規模事業者に「実質増税」 インボイス制度にどう対応すればいい?

8/19(月) 8:57配信

税理士ドットコム

10月からの消費税増税に伴い軽減税率が導入されます。軽減税率は、生活する上で欠かせない食料品などの税率を通常の消費税率よりも低くするというものです。しかし、この軽減税率の導入に伴い、フリーランスや小規模事業者への実質増税がはじまるのをご存じでしょうか。

政府・与党は弱者救済として「軽減税率」を掲げていますが、そこで減った分の財源は他で確保しなければなりません。その1つが「インボイス制度」です。

今回は、実質増税となる「インボイス制度」とはどういうものなのか、また、フリーランスや小規模事業者はどのような選択をすべきなのかについて解説します。(ライター・メタルスライム)

●弱者救済のための軽減税率、穴埋めのしわ寄せは結局弱者に

消費税増税の理由は、少子高齢化による社会保障費の財源確保にあります。景気変動に左右されにくく、現役世代だけでなく広く税を徴収できる消費税が適していることから、消費税の増税が決まりました。

社会保障費の財源が必要なため消費税を増税するのに、他方で軽減税率を導入するのは矛盾する行為と言えます。それなのに軽減税率を導入するのは、政治家らが自らの実績をアピールするためです。

表向きは、「社会的弱者の救済」と言っていますが、そのしわ寄せは、社会的弱者に向けられていることは意外と知られていません。というのも、軽減税率の導入により減る税収は「1兆890億円」と試算されています。それを穴埋めするために、①所得税の増税で900億円、②たばこ税の増収で2360億円、③インボイス制度の導入で2480億円、④総合合算制度の見送りで4000億円、社会保障費の抑制で1070億円の合計「1兆810億円」が充てられる予定です。

この穴埋め財源ですが、高所得者の負担がダイレクトに増えるのは、①の「所得税の増税」のみです。②のたばこ税は、厚生労働省の「国民健康・栄養調査(2010年)」によると、所得が低い人ほど喫煙率が高くなっているので、低所得者の方が、影響が大きいと言えます。③のインボイスは小規模事業者が影響を受け、④と⑤は社会的弱者への給付を減らすものです。つまり、1兆810億円の財源のうち、高所得者の負担増となるのは900億円(8.3%)だけで、残りの9910億円(91.7%)は、結局、社会的弱者へのしわ寄せになっているのです。

●インボイス制度とは

インボイス制度とは、税務署長に登録を受けた事業者が交付する請求書でないと消費税の仕入れ税額控除が受けられないというものです。消費税は、事業者が売り上げたときに消費税を受け取り、仕入れの時には消費税を支払います。その差額が消費税の納税額になります。インボイス制度の導入後は、登録を受けていない業者から仕入れた場合、仕入れ税額控除が認められなくなるため、その分の消費税を控除することができなくなります。

たとえば、売上に係る消費税が100万円あり、これまでは仕入に係る消費税額が50万円だったとします。この場合、消費税の納税額は「100万円 - 50万円 = 50万円」ということになります。ところが、インボイス制度導入後は、仮に仕入れ先の業者が全てインボイスの登録を受けてないとした場合、仕入れ税額控除が受けられないので、消費税の納税額は「100万円 - 0万円 = 100万円」ということになります。

こうなると、インボイスの登録のある業者以外とは取引したくないという動きになる可能性があります。また、仕入れ控除ができない分、値引くよう圧力が掛かる可能性もあります。それでは、インボイスの登録を受ければよいのではないかと思うかもしれませんが、登録を受けるためには、課税事業者である必要があります。

●なぜフリーランスに影響があるのか

フリーランスや小規模事業者は、売上高が1000万円以下ということが多いため、免税事業者であることが多いと思います。しかし、免税事業者はインボイスの登録を受けることができません。つまり、フリーランスや小規模事業者は、免税事業者のメリットを捨てて課税事業者になるか、免税事業者のまま継続して、それを受け入れてくれる事業者とだけ取引をするかの選択を迫られるわけです。

免税事業者が課税事業者になるということは、消費税分の収入を失うことを意味します。売上が300万円である場合、消費税が10%になるので、30万円の収入が失われることになります。その上、厳格なルールによる適格請求書の作成義務とその写しの保管義務が課されます。当然、消費税に合わせた会計処理をしなければならず、これまで不要だった消費税の申告もしなければなりません。

消費税分の収入減少はしかたがないとしても、フリーランスや小規模事業者は、一人で業務を行っていることも多いので、事務処理負担の増加が最も頭が痛いところです。所得税の確定申告だけでも大きな負担なのに、それに加えて消費税の申告もしなければならないとすると、事務処理に慣れていないフリーランスエンジニアや売上が少ないフリーランスなどは、事業の継続自体を断念せざるを得ないかもしれません。

●フリーランスはどのような選択すべきか?

免税事業者のままだと取引を継続するのは難しいし、課税事業者になれば、収入が下がり、事務処理負担が増大するので、どのような選択をすればよいのか悩まれている方も多いと思います。

個人的な見解としては、将来的に事業を拡大したいと思うなら課税事業者になることを選択した方がよいと思います。取引拡大のためには、インボイス登録業者の方が有利だからです。事務負担についても事業拡大を視野に入れているなら、早めに対応しておいた方がいいからです。

他方、小遣い稼ぎ程度で事業を拡大するつもりはないという場合には、免税事業者のままで構わないと思います。課税事業者になると事務負担が大きいので、それに見合うだけの売上がないのに課税事業者になることは効率が悪いからです。また、企業との取引はなく、免税事業者同士の取引しか行わないというのであれば、免税事業者のままで構わないでしょう。

インボイス制度は、令和5年(2023年)10月1日から導入される予定ですが、免税事業者であってもインボイス制度導入後3年間は仕入税額相当額の80%、その後の3年間は 同50%の控除を可能としています。したがって、ただちにどちらかを選ばなければならないということではありません。免税事業者がどれだけ課税業者になるのか見極めた上で、大多数が課税業者になるような場合には、課税業者になればいいし、大多数が免税事業者のままでいるような場合には、免税事業者のままでいるというスタンスでも良いかもしれません。

●財務省の「弱者狙い撃ち」に厚労、経産省も手を出せず

働き方改革によって、副業が認められる会社も増えてきており、専門知識を活かしてフリーランスとして活躍している人も増えてきています。人口が減少する中、日本が経済力を維持するためには、知識や技術の有効活用が不可欠であり、それに水を差すような政策は避けるべきです。

本来であれば、厚労省や経産省がクレームを言うところですが、相手は霞が関最強の財務省なので、手も足も出ないというのが実状でしょう。企業相手の増税であれば経済団体が猛反発しますが、フリーランスにはそのような組織はないため、弱者狙い撃ちという感が否めません。

今回のインボイス制度の導入は、「軽減税率の導入」による税収ダウンという財務省にとってのピンチを「免税事業者の排除」という増税のチャンスに見事に変えたものだと言えます。インターネットの普及により社会構造が変化する中、従来の一人の人間が1つの会社に帰属するという時代から、一人の人間が複数の企業と繋がっていくことが当たり前の世の中になっていくでしょう。

ランサーズ株式会社の「フリーランス実態調査(2018年版)」によると、日本のフリーランス人口は1,119万人と推計され労働人口の17%にまでなっています。フリーランスの推計経済規模が初の20兆円を超え、日本の総給与支払額の10%を占めるまで成長しています 。「Edelman Intelligence, Freelancers Union and Upwork, Freelancing in America: 2017」によれば、アメリカでは、労働力人口の36%である5730万人がフリーランスとなっており、2027年には過半数を超えると予想されています。

そう考えるとフリーランスからもしっかりと税を徴収する仕組みを今回導入できたことは、将来的な税収確保につながるものとして大きな転換点となるかもしれません。財務省は、軽減税率の導入を隠れ蓑にして、反発も受けずに「免税事業者の排除」をできたことは、長い目で見ると最大の成果と考えているのはないでしょうか。

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:8/19(月) 8:57
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