ここから本文です

シンデレラの笑顔に感じた危機感 フィーバーが“逆風”とならないために【記者の目】

8/20(火) 12:33配信

ゴルフ情報ALBA.Net

<NEC軽井沢72ゴルフトーナメント 最終日◇18日◇軽井沢72ゴルフ 北コース(長野県)◇6705ヤード・パー72>

優勝した穴井詩を笑顔で祝福する渋野日向子【写真】

試合後の記者会見で、渋野日向子がラウンド中に何を食べていたかを聞かれたシーンがあった。「あんまり食べるとシャッター押されるから。お腹すいちゃって困ります」。そう言ったあとに、「うそうそ」と笑って会場を沸かせたが、どうしても一緒に笑うことができなかった。

“メジャー制覇”という肩書きだけでなく、竹を割ったようなキャラクターも相まって、この数週間で一気に国民的ヒロインになった。「全英AIG女子オープン」で優勝後、そのまま2試合出場した国内ツアーでは例年を大きく上回る動員数を記録。初日の早朝から、多くのファンが渋野をひと目見ようと会場にかけつけた。ゲートオープンが午前6時。その数時間前から駐車場で待つ観客もいたという。渋野が1番ティに立つと、ティイングエリアからグリーンまで、コースの両脇には幾重にもなって人が並んだ。

この3週間で、渋野を取り巻く環境はめまぐるしく変わった。練習の合間にいくつものインタビューや取材を受け、試合の最中も何台ものカメラに囲まれる。試合の成績にかかわらず常に人の目が向けられ、会場に入ってから去り際までカメラや記者がついて回った。そんな渋野の様子を見て、「試合中の撮影は、ホールを限定するなど対策をとるべき」、「選手がゴルフに集中できる環境をしっかり作らないといけない」と口にした選手もいた。

“プロだから”と言ってしまえばそれまでだが、一気に変わった環境にどれだけの負荷がかかっただろう。私もそんな“渋野フィーバー”を取材していた記者の一人だが、冒頭の渋野の一言を聞いて危機感を抱いた。

“スマイル・シンデレラ”のキャラクターがメディアで大きく取り上げられ、『笑顔』と『ハイタッチ』が渋野の“代名詞”となった。一部のギャラリーが本戦中に「こっちに笑って」と声をかけ、タイミングを図らずハイタッチを求める。少しでも前で渋野を見ようと、ローピングを無視してコース内を横断する人や、一部のメディアや観客が、近隣のホールでパターを打とうとする選手への配慮を忘れて大きな音を立てて移動する場面もあった。

全英の最終日、18番グリーンに上がった時点で、先にホールアウトしたリゼット・サラス(米国)がトータル17アンダーで渋野と並んで首位タイ。最終組の渋野がバーディを奪えば優勝という状況で、4.5mを沈めて勝利を決めた。その渋野が、本大会の最終日18番、優勝がかかった5mのバーディパットで「打った瞬間入らんと思った。手が動かなかった」。手が震えて入らず、3パットを打ってボギー。優勝を逃し、クラブハウスで人目を忍んで泣き、人前ではそんな様子を一切見せずに気丈に振る舞う。しかし、“メジャー覇者”という肩書きが、さまざまな意味でこれまで通りのプレーをさせてくれなかったのかもしれない。

この注目の高まりに、周囲の選手はどう感じているのだろう。選手会長の有村智恵は、「彼女のおかげで、今まで知らなかった人も興味をもってくれている。本当に彼女に感謝です」。ともに全英に出場した上田は、「彼女のすごいところは、帰ってきても優勝争いしているところ。楽しいだろうなと思うし、ガンガンツアーを盛り上げていって欲しい」と語る。「渋野さんには、周囲をひっぱるエネルギーがある」(申ジエ)、「しぶちゃんが笑顔だと、すごく元気になるじゃないですか」(穴井詩)と、渋野自身の人柄が愛されていることも大きい。

長年、誰もが経験したことのないメジャー優勝。1977年に樋口久子が「全米女子プロゴルフ選手権」を制したときと時代があまりにも違い、選手の露出は圧倒的に増えている。対面だけでなく、公共の電波やネット上の反応も選手にストレスをかけることになりかねない。これまでゴルフ界においては、宮里藍、石川遼といった選手達が“国内大フィーバー”の渦中に身を置き、その後は米国に渡っていった。

今回の渋野の活躍は、日本ゴルフ界にとって追い風となっているのは確か。海外メジャーで勝ちながら、今後の主戦場として国内を選んでくれた渋野にとって、この“フィーバー”が逆風とならないためには、プロゴルファー・渋野日向子へのリスペクトを今一度持たなければと思う。(文・谷口愛純)

(撮影:村上航)<ゴルフ情報ALBA.Net>

最終更新:8/20(火) 12:33
ゴルフ情報ALBA.Net

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事