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「サムスンに出し抜かれる」アップルCEOトランプ大統領にささやく

8/23(金) 16:00配信

アスキー

米国政府のアジア政策がアップルの経営に大きく影響している。ティム・クックCEOはトランプ大統領に「対中関税はサムスンに利する」とささやき、対策を求めた。

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2017年撮影 iphonedigital
 
 9月1日から発動するとされてきた米国の対中輸入関税は、スマートフォン、ポータブル型コンピュータへの関税が12月15日まで猶予されることになりました。
 
 割合が減ってきたとはいえ、iPhoneが依然として半分近くを占めるアップルのビジネスにとって、スマートフォンの輸入が除外されることは渡りに船、あるいは命拾いに見えます。9月には新型iPhoneが登場し、11月下旬から始まるホリデーシーズンに売上高が最大化することを考えると、その期間の大半でiPhoneが10%の関税を免れることになった点は、ポジティブと言えます。
 
 しかし悪いニュースもあります。
 
●ウェアラブルはまもなく関税の対象に
 9月1日から適用される関税について、ウェアラブル製品は除外されました。2019年第3四半期に売上高が1.5倍近くに膨らむ急成長を遂げ、iPhone 12%減の穴を埋めて全体の売上高を1%のプラスにまで持ってきた原動力ともいえるウェアラブル製品には、9月1日から10%の関税がかかってしまうことになったのです。
 
 実はアクセサリ類にはすでに10%の関税がかかっています。しかしアップルはこれを販売価格に転嫁せず、吸収する判断を下しています。もっともケーブル1本2000円からという価格にマージンが大きくないはずもなく、消費者への負担を強いるには強気すぎるとも思います。
 
 消費者に転嫁できないということは、アップルの売上高を10%毀損することに他なりません。
 
 ウェアラブルデバイスについて、アップルがどんな判断を下すのかはまだわかりません。しかしアクセサリと同じなら、10%の関税をアップルが負担することになるのかもしれません。
 
 そうなれば、今回のようにiPhoneの売上高の下落分をウェアラブルが穴埋めすることもより難しくなりますし、投資家にとっての心象も悪くなります。主要テクノロジー株であるアップルの下落は、市場環境全体を悪くして、良好な景気を背景に正当性を示してきたトランプ大統領の再選に影響が出るでしょう。
 
 一方、もしもアップルが消費者に関税分を転嫁したら消費者のトランプ政権への批判は不可避といえるでしょう。これもまた、選挙を控えるトランプ大統領にとってはネガティブな要因の拡大となってしまうでしょう。
 
 繰り返しになりますが、米国の中国に対する牽制や、安全保障上の脅威との認識は、トランプ政権に始まったことではありません。ファーウェイなど中国の通信機器大手に対する制裁は、オバマ政権時代から粛々と進められてきたことでした。
 
 しかしトランプ政権になって、通商問題と紐付き、逆に安全保障上の問題であるとの認識が不明瞭になっている側面もあります。
 
●関税はサムスンに有利になる
 ティム・クックCEOはトランプ大統領と、ニュージャージーのゴルフクラブで夕食を共にしました。トランプ大統領によると、クック氏は「サムスンに利する」として、中国からの輸入関税に対して対策を求めたとのことです。
 
 トランプ大統領は、アップルが「切迫した状況」であるとも表現しており、クック氏は、米国企業であるアップルが米国政府の決定によって韓国企業であるサムスンとの競争に深刻な悪影響を受けることを説明したと考えられます。
 
 しかしながら、アップルから出された懸念は、これまでのトランプ大統領の主張を振り返ると「仕方がない」と一蹴されるかもしれません。トランプ大統領は当選前から、強いアメリカ、製造業回帰の議論を通じて「アップルにiPhoneを米国製造させる」というわかりやすいゴールを示してきたからです。
 
 その一方、スマートフォンに対しては関税の猶予を与えているところを見ると、状況によっては交渉の余地があるかにも見えます。前述のように、関税についてはトランプ大統領は選挙対策を優先させることがわかっていますので、そことの駆け引きになるかもしれません。
 
 「米国企業が不利にならなければ良い」と考えるなら、韓国にも関税をかけるという、斜め上とも言えない施策も可能なのかもしれません。
 
 米国政府は迂回輸出が発覚したとして、ベトナム経由の韓国・台湾製の鉄鋼製品に最大456%の関税を課しました。また韓国を、中国と共に、WTOにおける途上国優遇から外すべきであるとの考えも示しました。
 
 複雑な問題が絡み合うため、明確に方向性を読むことはできませんし、アップルにとって不利な状況が是正されるかどうかも不透明と言えます。
 
●もちろん対策を進めるアップル
 アップルとて、ロビイングだけを頼りにリスク対策をしているわけではありません。すでに生産拠点の組み替えを含む対策を取り始めています。
 
 アップル製品の製造を請け負う台湾Foxconnは、最大で3割までの製造を中国外に移し、アップルの米国でのビジネスを助ける用意があるとの見方を示しました。
 
 また中国Goertekは、ベトナムでAirPods製造テストを始めたと伝わってきます。AirPodsは9月にも10%の関税が課される製品であることから、米国での需要分だけでもベトナムに移しての製造に切り替えることで、関税の負担や転嫁を回避することができるようになると見られます。
 
 いずれにしても、トランプ大統領が望むように、関税をもってしても、アップル製品の製造が米国に戻るわけではなく、その事実に対してトランプ氏や支持者が今後どんなリアクションを取るのか、という点にも注目です。
 
筆者紹介――松村太郎
 
 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
 
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
 
文● 松村太郎 @taromatsumura

最終更新:8/23(金) 16:00
アスキー

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