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日本高野連が甲子園を”タダ”で借りられるワケ

8/23(金) 18:03配信

VICTORY

プロ野球界では球場の高額な使用料が運営のネックとなり、球団が球場を買収するケースが近年相次いでいる。ダイエーから球団を買収したソフトバンクが外国のファンドに渡っていた福岡ドーム(現ヤフオクドーム)を870億円で買い戻したのが先鞭。オリックスは京セラドームを、DeNAも横浜スタジアムを買収した。日本ハムも借りている札幌ドームを将来離れ、自前の球場建設構想を発表している。巨人は東京ドームを、ヤクルトは神宮球場を借りている。球団、球場が一体型の経営をすることにより、高額な使用料の負担がなくなり、飲食物販など、球場内の収入を球団が得ることができる。自由な運営ができ、球場拡張やメンテナンスなど、動きやすくなるなどメリットが大きい。ちなみに阪神タイガースの本拠地甲子園球場は、親会社である阪神電鉄のスポーツ・エンタテインメント事業本部甲子園事業部(阪神電鉄の子会社ではない。甲子園球場の社員は本社社員)なので、一体型経営を他球団に先んじて実現している。

当然、阪神甲子園球場は日本高野連の所有物ではないが、使用料が大会予算に組み込まれないのは、運営上のメリットが大きい。長年に渡る協力関係が下地にあるので、急な天候不順による日程の変更など、大会運営の自由度も非常に高いといえる。今大会では台風10号の接近に伴い、15日の3回戦4試合を16日に順延。その判断も非常に早かった。全試合、NHKと民放が大会を中継しているが、放映権料をもらっておらず、スポンサーの顔色をうかがう必要もない。アマチュアスポーツでありながら、はからずも、プロ野球経営の理想をずいぶん前から実現しているのである。

なぜ阪神電鉄は球場使用料を求めないのか。先の幹部はこう説明した。

「いうなれば、最大の野球振興に貢献させていただいているということです。これだけは守らないといけない」

高校野球を通り抜けずに、プロになる選手はいない。少子化で野球人口の減少が急速に進んでいるという現状もある。甲子園大会を大切にすることが、野球界全体の発展につながる。「教育の一環としての高校野球」という理念に通じる、無償の愛である。

高校野球の盛り上がりで、あまり大きな声ではいえないが、運賃収入などの電鉄側への利点も見込めるようになった。のちに球場使用料という着想が生まれたが、そんなケチなことは言わずにおこうか…と、長く手つかずにしていた慣習が形を変え、使命感のようなものに姿を変えた。そう考えると、甲子園使用料ゼロ円のカラクリが解けたような気がした。

ここまで書いてきて、あるパ・リーグ球団のスカウトとの雑談を思いだした。「甲子園球場はタイガースの持ち物なんだから、ここに出ている選手は全部ウチのもの、どこにもやらんぞ…ぐらいの感じで仕事したらいいと思うんですけどねえ」。名門校の選手として甲子園に出てプロ野球選手になった若手スカウトと、ネット裏で甲子園練習を見ていたときに、彼がつぶやいたセリフだった。



◇ ◇ ◇
大澤謙一郎
サンケイスポーツ運動部長(大阪)
1972年、京都市生まれ。アマチュア野球、ダイエー(現ソフトバンク)、阪神担当キャップなどを務め、2018年10月から現職。1999年ダイエー日本一、2002年サッカー日韓W杯、2006年ワールド・ベースボール・クラシック(日本初優勝)、阪神タイガースなどを取材。趣味マラソン、フットサル、登山。

大澤謙一郎

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最終更新:8/23(金) 18:03
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