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<インド>カシミールの自治権はく奪は何を意味するのか?(1)自治権を認める憲法370条削除へ

8/24(土) 11:05配信

アジアプレス・ネットワーク

インド、パキスタンが領有を争うカシミール地方で緊張が高まっている。8月日インドは自国が実効支配するジャンムー・カシミール州に3万5千人の治安部隊を増派し、外出禁止令を施行。通信を遮断するとともに数千人を予防拘禁した。6日には国会で自治権を認める憲法370条を削除する改正案を可決し、同州を2分割して直接統治に変えるとした。紛争当事者であるパキスタンと一部を占領する中国が、この決定に反発。両国の要請で非公開の国連安保理事会が開かれ、核保有国である印パ両国に自制を促す騒ぎとなっている。(広瀬和司・アジアプレス)

ギャラリー:【カシミール 写真特集】外出禁止令下のスリナガルの姿(10枚)

◆州政府が巡礼者や観光客へ退去を命令

それは、突然で奇妙な出来事だった。8月2日インド支配地域カシミールであるジャンムー・カシミール州で、州政府が巡礼者や観光客に対するテロが行われる確度の高い情報があるので、すぐさま現地を出るようにと命令したのだ。現地メディアの報道によると、治安部隊がリゾートホテルの部屋一つ一つをノックして回り、荷物をまとめて、すぐさま空港に向かうよう州外から来た観光客を車に押し込んだという。

ジャンムー・カシミール州のカシミール地域南部の山間部にあるアマルナート洞窟にはシヴァリンガに酷似した氷柱がある。それを拝観しようと毎年7月から8月15日の巡礼期間にインド各地から、多い時は63万人のヒンドゥー教徒の巡礼者が訪れる。

この巡礼は90年代にインドからの分離独立のための武装闘争がピークを迎えたときも続けられ、妨害や攻撃を受けたことはなかった(2017年に起きた武装勢力による巡礼者殺害事件については不審な点が多いので割愛する)。

巡礼や観光でもたらされる地元の経済的恩恵は大きく、武装勢力は巡礼者たちを標的にしない不文律となっていた。20年近くカシミール問題に関わり、現地の報道をウォッチしている私にとって、そのテロ情報は不自然に感じた。

◆住民間で「憲法370条撤廃」の噂が流れる中……

直前の7月末にも、急に3万5千人の治安部隊が増派されており、これら一連の流れから、長年の経験をもとに「インド政府は何かを企んでいる」と人々は感づいたようだった。長期に渡る外出禁止令を見越して生活必需品を買いに走り、ガソリンスタンドには長蛇の列ができる様子がメディアを通して流れてきた。その記事の中には「憲法370条、憲法35条Aを撤廃するのでは」という噂が流れていることを報じていた

撤廃は与党であるインド人民党の長年の公約で、5月にインド人民党が選挙で勝利したことから、いつ実行されてもおかしくはなかった。こうした動きをジャンムー・カシミール州政府は「噂に惑わされて、パニックにならないように」と諫めていた。

ジャンムー・カシミール州の政治家で、インド政府と協調関係にあったメフーブーバ・ムフティ前州主席大臣やサジャード・ローン元州大臣たちは、噂を確かめようとサティヤ・マリク州知事を訪ね、「噂のような事はない」という言質を得ていた。元州主席大臣であるオマルとファルーク・アブドウッラー親子2人はデリーまで飛び、関係が良くなかったモーディー首相にまで会って同様の答えを得た。だが、彼らの警戒心は解けず、全員でファルーク・アブドウッラーの私邸で会議を開き、憲法370条を撤廃しないよう求める決議を出した。
 
8月5日、前日の夜からカシミールでは外出禁止令が発せられ、分離独立派だけでなく、前述のインド政府と協調関係があった政治家までもが自宅軟禁させられていると報じられた。そして、デリーでは閣議が開かれ、内務大臣のアミット・シャーが、現地時間11時から上院でカシミールについての議案提出を行うという速報が流れた。

私はインドのニュースチャンネルNDTVのインターネット中継で、その様子を見ていた。議場では国民会議派のカシミール選出のグラム・ナビ・アザード議員(彼もまた元州主席大臣)を代表に、野党の反対派が議長の制止にも関わらず、怒声を浴びせていた。だが、アミット・シャーは落ち着いた風に憲法370条を削除する改正案、ジャ-ンムー・カシミール州のうちジャンムー地域とカシミール地域を議会付きの連邦直轄領とし、ラダックを地域を議会のない連邦直轄領とする2案を説明した。議案は3分の2以上の賛成多数を得て可決され、8月9日、大統領によって承認された。(つづく)

最終更新:8/24(土) 11:05
アジアプレス・ネットワーク

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