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【漢字トリビア】「疑」の成り立ち物語

8/25(日) 11:10配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今日の漢字は今日の漢字は「疑う」。「疑問」「疑惑」の「疑(ギ)」です。
(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2019年8月24日(土)放送より)

「疑う」という字は、ものの形を象って作られた象形文字。
古代中国・殷の時代に記された甲骨文字を見ると、片方の手に杖を持った人が、後ろを振り返って立っている姿が描かれています。
向かって左側の部分、カタカナの「ヒ」に似た文字が後ろを振り返る人。
その下に書いた「矢」の部分が、杖を突いて立つ様子です。

甲骨文字ではこれだけで「疑う」という意味を表していたのですが、その後、殷に続く周の時代に記された金文では、右側にカタカナの「マ」に似た文字と、その下にひきへん(疋)が添えられます。
ひきへん(疋)は、膝から下の足の形をかたどった部首で、足を止めて迷っている様子を強調しているといわれます。

いずれにせよ「疑う」という字は、人が何かに心を奪われ、後ろを振り返っている様子を描いたもの。進むべきか退くべきかを決めかねて立ち止まっている姿から、「うたがう、まよう、まどう」という意味を表す漢字になりました。

水道も電気も通信機器もなかった、遠い昔のこと。
いにしえの人たちは、その日を暮らすことに懸命でした。
狩りや釣りに出かけ、木の実や山菜を探し、水を汲み、火をおこす。
自然の猛威と常に立ち向かう毎日でした。

でも、不便で不自由でままならない生活だからこそ、彼らに備わったものがありました。
なぜだろう、何かが違う、ほかのやり方はないだろうか。
立ち止まって振り返ったり、考えたり、手を動かしてみたり。
彼らには、疑う力があったのです。
それは、私たちが失ってしまった力。

今の世の中、いちいち疑問などもたなくとも、「こういうものだ」と思ってしまえば、十分、快適に暮らしていけるのですから。

今日の漢字は「疑う」、「疑問」「疑惑」の「疑(ギ)」。

杖を持った人が後ろを振り返って立ち止まっている姿を描いた象形文字です。
是か非か、善か悪か、必要か不要か。
迷い悩み、選択しかねている姿から、「うたがう、まよう、まどう」という意味をもつ漢字になりました。

疑うことを知らない人生は、平和で幸せ。
でもそれは、もろさと紙一重でもあります。
疑い深い人間にとっては、危うくてとても見ていられない。
あるいは、その正しさこそ疑わしいと思う人もいる。

芥川賞作家・大庭みな子は、こんな一文を記しています。
―疑いもなしに生き、伸びて行こうとするもののさまを見つめるとき、
後ずさりし、言葉を交わさずにその場を立ち去りたいと思う。
自分に疑いを持っている者は、疑いを持たない者とは対等に話すことなどできないのだ。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……。
ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献 『常用字解(第二版)』(白川静/平凡社)

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」8月24日(土)放送分より)

最終更新:8/25(日) 11:10
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