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もう一つの「かんぽ」問題 昭和の文化財が壊される

2019/8/27(火) 10:02配信

ニュースソクラ

【「地面師」は見ている】アール・デコ調の傑作、旧簡保支局を三井不に売却

 戦前の荘厳なアール・デコ調の建物の傑作のひとつとされる昭和初期の竣工の旧東京簡易保険支局(港区三田1-4-60)が三井不動産に売却され、マンションに建て替えられることがわかった。

 マスコミは、かんぽ保険の販売不正について再三報じているが、こちらの問題には関心がないのか。日本建築学会は保存要望書も出している。日本郵政は郵政民営化後に貴重な国有資産を引き継いだにもかかわらず、今回もまた三井不動産への土地売却850億円の譲渡益との引き換えに、近代の建築遺産が壊されることになるのか。

 超低金利政策によるカネ余りで「文化財」にも開発資金が流れ、五輪による再開発刺激で、貴重な建物が保存の議論もないまま、バブル期の時のように建て替えられている。郵政事業は民営化されたが、郵便事業や預貯金を扱う銀行業務の収益では足りず、赤字を消すマジックが不動産の活用で、資産売却や再開発となっている。

 日本郵政は2018年、この逓信省東京簡易保険支局も入札にかけ、予想通り三井不動産レジデンシャルが落札。2・6ヘクタールの広い敷地で、高級マンションの「三田1丁目計画」(仮)として再開発される予定だ。

 建物の一部を残すことも検討されているようだが、早ければ2020年の着工、24年ごろの竣工を目指す。多くの不動産関係者は、坂の上に建つ、緑に囲まれた億ションとしての価値が高いとみている。道路を挟んで、こちらも重文級の「三井倶楽部」(戦前の日本の建築に大きな影響を与えたコンドルが設計)を見下ろせる絶好の立地となる。

 計画では、地下2階地上14階の高級マンションとなり、高さは45メートルで900戸の予定だ。

 国の重要文化財級といわれるこの建物に対して、かんぽ生命や日本郵政の社長、知事、港区長に保存を求める要望書を2017年に出したのが日本建築学会だ。保存要望書によると、東京簡易保険支局は昭和4年建設、近代日本建築士をリードして傑作を数多く残してきた逓信省営繕課の力作だ。日本の近代建築の優秀さを証明する「生き証人だ」とされ、わが国の建築が古典様式からモダニズム建築へと移行する途中の「名作」であり、あえて古典主義を単純化したような外観、アール・デコ的な内観が特徴だという。

 戦前の昭和初期の日本建築界は、西洋の様式建築をまねた古典主義の建築様式が主流だったが、西欧ではアール・デコやセッションといった新様式が、西洋古典様式の建築に加わった。
 
 古典主義と新しい近代様式を折衷したスタイルで、デザインの質や完成度の高さから、昭和初期を象徴する建築に数えられる、という。
 
 建物は直線を強調し、装飾要素を単純化した正面の意匠。さらに有名なウイーンの郵便貯金局のホール(オ ットー・ワーグナー設計、1912年竣工)さえも彷彿とさせる内部階段の吹抜けが、西洋近代建築の神髄を理解した設計者の優秀さを語る逸品だ。鉄筋コンクリート3階、一部4階建てで延床面積は34,590平方メートルの堂々たる風格を誇る。
 
 補修しながら使われ、これまでは「かんぽ生命保険東京サー ビスセンター」として実働し、保存状態もよい。80年代の大規模改修も、細心の復元工事によって、外壁の黄褐色のタイル、軒廻りの質感も守られた。建造時の意匠価値が維持された貴重な事例だ。

 2000年からの耐震改修工事も、意匠に影響を及ぼさないよう、まさに重要文化財を扱うような配慮がなされ、意匠改変は見られない。その内部は、中央廊下で全体が田の字に分割され、4つの中庭があり、左右対称の堂々とした立面を誇る。

 05年以降の郵政の民営化後の「不動産活用」では、東京駅前の歴史的建造物の東京中央郵便局の保存問題が起こった。再開発ビルを建て、三菱地所が人材派遣して再開発を支えた。当時の鳩山邦夫(故人)総務相も保存を訴える中、文化財級の建物の意匠の一部を残すということで決着、高層ビルへの建て替えに成功した。

 ちなみに近くの同時代の歴史的建造物の麻布郵便局も森ビルが主導する麻布台の再開発で壊され、最近姿を完全に消している。

江戸 守 (不動産コンサルタント)

最終更新:2019/8/27(火) 10:02
ニュースソクラ

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