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中国は「90年代の日本」になる

8/30(金) 16:07配信

ニュースソクラ

【けいざい温故知新】世界を震撼させる「灰色のサイ」が目覚めた

 中国経済はしぶとい。危機説が流れる度に踏ん張り、「中国経済崩壊説の崩壊」とまで言われた。だが、企業、家計、地方政府などの債務が膨張し、習近平主席まで「灰色のサイ」(高確率ながら見過ごされがちな潜在リスク)に言及した今回は、様子が違う。

 1980年代の日本のバブルと、その崩壊は、有利子負債でファイナンスされた「壮大な投資の失敗」だった。中国は、リーマン危機後の4兆元(当時のレートで57兆円)景気対策に始まる巨額累積投資の内実が問われる。これから、何が起きるのか。おそらく「90年代の日本」で起きたようなことだ。

●不動産バブルが崩壊する

 日本のバブルは、株価が90年、地価が91年に崩れ始めた。中国は2015年に上海株が大暴落したが、不動産価格は高止まりしている。

 90年のピーク時に日本の土地の時価総額は米国の約4倍、首都圏の住宅価格は平均年収の10倍を超えた。中国の不動産の時価総額は、推計で65兆ドルに達し、米国、EU、日本の合計を上回る。北京や上海のマンション価格は年収の20倍を超える。住宅ローンを中心に家計債務が急増し、可処分所得比で日本のバブル期並みになった。

 他方、開発したが住民が集まらない「鬼城」(ゴーストタウン)が各地に現れ、空き家(室)は、全土で5000万戸とも6500万戸とも言われる。不動産バブルが崩壊しない理由を探す方が難しい。

●影の銀行が行き詰まる

 バブル崩壊後の日本で、行き詰まるノンバンクが相次いだ。不動産業界に貸し込んだ住宅金融専門会社(住専)の破綻処理には財政資金が注ぎ込まれ、政治問題化した。

 中国でも「影子銀行」(シャドーバンキング)のリスクが取りざたされる。地方政府のダミーとして、理財商品などで資金を集め、デベロッパーの役割も果たす投資会社「地方融資平台」などは、不動産が値崩れすれば、大きなダメージを負うはずだ。2月には青海省の融資平台とされる青海投資集団が、ドル建て債の利払い遅延で、あわやデフォルトの場面があった。

●連鎖する金融危機

 5月に内モンゴル自治区の包商銀行が行き詰まり、中国人民銀行が乗り出し公的管理に置いた。ほぼ20年ぶりの銀行国有化だ。7月には遼寧省の錦州銀行の経営危機を、大手の中国工商銀行などが救済した。

 アニュアルリポートを出せない問題地銀が他にもあり、IMF(国際通貨基金)は9日に出した中国に関する年次報告書で、中小銀行の資本増強を求めている。

 90年代日本の金融危機も、最初は信金、信組、第2地銀などの中小金融機関の破綻から始まった。

●ゾンビ企業の淘汰

 銀行を危機に追いやるのは不良債権の存在だ。その処理には、融資先ゾンビ企業の淘汰、整理が欠かせない。日本では、地価上昇を見込んで融資を受け積極出店をした「そごう」や「ダイエー」が代表的なゾンビ企業だった。

 中国では、銀行の企業融資の大半は中央、地方の国有企業向けだ。貸し手が政府による暗黙の債務保証を期待してのことだ。IMF年次報告は、国有企業は、負債が増える一方で、収益性が低く、3分の1は赤字と指摘する。国有ゾンビ企業の処理が、大きな問題になろう。これまで政府は、強い国有企業に脆弱な国有企業を合併させてきたが、問題の先送りに過ぎない。

●L字型停滞に

 「U字型回復もV字型回復も無理で、数年はL字型の展開になる」。16年5月に人民日報のインタビューに登場した「権威人士」の見通しだ。匿名の主は、習主席の経済ブレーン劉鶴副首相とされる。この発言時、まだ米中貿易戦争は起きていない。

 日本は、85-89年に年平均4.6%成長だったのが、90―94年に同2.0%、95-99年に同0.9%とバブル崩壊を境にL字型の停滞に迷い込んだ。

 ずるずると落ちてきた中国の成長率が4-6月期は6.2%と過去27年で最低になった。だが、中国の経済学者の中にも、実際は「もっと低い」との見方が根強い。6.2%では、まだL字の横棒に達していない。

 「中国が目覚めれば世界は震撼するだろう」とは、200年余り前の皇帝ナポレオンの言だが、どうやら、過剰債務問題という中国の「灰色のサイ」が目覚めた。世界経済の震撼は、避けられそうにない。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:8/30(金) 16:07
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