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石化エネ大国ロシアでも、再エネを加速 新入札方式で

2019/8/30(金) 18:05配信

ニュースソクラ

【エネから見える世界】外資続々、日本は及び腰 北方領土問題も足引く

 石油・天然ガスなどのエネルギー資源に依存する経済構造からの脱却が急務とされるロシア。近年は原油安に加え、米シェール革命の影響などを受けて、資源一辺倒の国家運営に陰りが出ている。プーチン政権への支持率が急降下するなか、ロシアは再生可能エネルギーの活用に目を向けている。すでに外資系企業が市場参入を果たすなか、日本勢は発電のコスト高に加え、エネルギー安全保障上のリスクを憂慮し、及び腰になっているようだ。

●太陽光や風力、中国やフィンランド、デンマークなどが参入

 ロシアでは2008年、電力の独占体制が解体されたことによって、発電部門については外国資本を含め、民間会社にも開放された(送電部門は国営企業に限られる)。開放政策にもかかわらず、国際石油価格の上昇が追い風になり、石油・天然ガスなど化石燃料に依存する体質からの脱却が遅れた。結果として、太陽光や風力発電について民間ベースの投資が進まなかったとされる。

 公益財団法人 資源エネルギー財団の尾松亮・上級研究員によると、ロシア政府は再エネの促進を図る目的で、2013年に再エネ容量オークション制度を導入した。これは、発電電力量、電力のキロワット時(kWh)ベースで入札するのではなく、kWベースでの資本比で入札を実施し、コスト競争力が高いプロジェクトが認定されるという制度だ。これが奏功し、ロシアでは近年、数十~百メガワット(MW)級の風力や太陽光プロジェクトの認定容量が増えている。

 太陽光プロジェクトでは、中国大手のソーラー発電設備会社であるアムールシリウスが大規模なロシア案件を落札済みだ。風力プロジェクトでは、フィンランドのフォーダムとロシア企業がボルガ川沿いのウリヤノフスク州で数十MW級の発電施設を建設している。また、デンマークの風力発電大手であるヴェスタスもロシアでの現地生産に打って出たという。

 そのほか、ロシア単独で再エネ事業に乗り出す動きもみられる。最近では、ロシア国営ガス会社「ガスプロム」の子会社であるガスプロムネフチがオムスク製油所(精製能力は日量40万バレル)の再エネ事業として1MWの太陽光発電プラントを建設すると発表。太陽光発電分野でロシア最大とされるハベル・クループであるハベル・ソーラー製の太陽光モジュールを採用する予定だ。

 2009年に設立されたハベル・グループはこれまで、アルタイ共和国やブリヤート共和国、ボルゴグラードやオレンブルク、サラトフ各州に発電能力で334MW分のソーラー発電設備を建設しているそうだ。発電プラントの総発電能力は2022年までに907.5MWに達すると見通す。

 ガスプロムネフチのプロジェクトでは、石油精製施設を建設すると同時に、環境に配慮した新電力供給技術の開発も重視し、化石燃料施設と再エネ開発の一石二鳥を狙っている。ロシア政府は年内にも「パリ協定」に批准するとみられ、地球温暖化防止政策でも後れを取り戻したいというのが本音とされる。

●日本企業、安保リスクや高いコストを懸念

 外資系企業のロシア市場参入がみられるなか、日本企業からの投資は手控えられている。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が極東地域のカムチャッカ地方やサハ共和国で寒冷地用の風力発電設備を運用する取り組みを始めているものの、本格参入には至っていない。

 ロシア進出について、日本企業が及び腰になる背景には、発電のコスト高とエネルギー安全保障リスクへの懸念が挙げられるようだ。首都モスクワから遠く離れた極東地域では送電線がつながっていないため、トラックや貨車で燃料を輸送せざるを得ず、発電コストが高くなってしまう。地産地消の電力でコストを下げていく試みが始まっているものの、商業ベースに乗るコスト水準には届いていないのが実情だ。

 また、地理的に隣接する日本とロシアを送電線でつなげる計画が持ち上がる一方、北方領土をめぐる日ロ間の遅々として進まぬ交渉経緯や、天然ガス輸送でロシアがウクライナなどへの供給をストップさせるなどの動きを受けて、日本では国家の根幹にかかわるインフラをロシアに大きく委ねてよいのかという論争が展開されている。

 領土問題と経済問題は別次元の話であるとともに、ウクライナのガス供給停止は同国がロシアへのガス代未納という理由から発生した事象だ。これらを同一視するのには多少無理があるが、ロシアの政策に対する疑念が払しょくされていないのも事実である。

 ロシアではいま、大規模な反政府デモが繰り返されるなど、盤石とされたプーチン体制に陰りが見え始めている。ロシア政局の当面の焦点は、9月8日に実施されるロシア統一地方選挙の動向だ。現地メディアによると、政権与党である統一ロシアの苦戦が伝わる。結果次第でプーチン離れが一気に加速するかもしれない。

 ところで、ロシアはこれまで、再エネ政策を軽視していたわけではない。米国による対ロ経済制裁の強化がエネルギー開発にも足かせになるなか、ロシアは数年前から再エネにかかわる調査活動に精力的だった。ロシアの政府関係者が、水素エネルギーに関する日本政府や企業の動向を筆者にも聞いてきたほどだ。

 ロシアは国土面積が広大だ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、極東地域は日本との距離も近く、風力発電の適地と評価するなど、潜在性に富んだ市場と位置付けている。

 水力を含めると、自然エネルギー大国とされるロシアだが、専門家は投資資金や技術力の不足で再エネ開発のポテンシャルを失っていると指摘する。そのためか、日本企業の多くは現在、ロシア進出はビジネスをする上で大きなリスクを内包すると判断している。ただ、来るべきビジネスチャンスを逃さぬよう、われわれも常日頃から情報収集や調査活動、人的交流に力を注いで置くべきである。

■阿部 直哉(リム情報開発・総研チーム)
1960年、東京生まれ。慶大卒。ブルームバーグ・ニュースの記者・エディターなどを経て、リム情報開発の総研チームに所属。1990年代、米国シカゴに駐在。
著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。

最終更新:2019/8/30(金) 18:05
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