ここから本文です

リアル「北の国から」 酪農一家の24年を追った映画「山懐に抱かれて」が大反響

8/31(土) 17:34配信

まいどなニュース

岩手県東部の田野畑村で、完全放牧の酪農に取り組む大家族の24年間を描いたドキュメンタリー映画「山懐(やまふところ)に抱かれて」の上映が、31日のシネ・ヌーヴォ(大阪)を皮切りに、関西でも始まった。自らの手で山を切り開き、限りなく自然に近い状態で牛を育てる「山地酪農」の実現に奮闘する夫婦と5男2女の厳しくも幸せな日々を、地元のローカル放送局が丹念に追い続けた力作。すでに封切られた各地の劇場では満席の回が出るなど、熱い反響を巻き起こしている。舞台挨拶で大阪を訪れた遠藤隆監督に話を聞いた。

【写真】監督、プロデューサーを務めたテレビ岩手の遠藤隆さん

主人公は吉塚公雄さん、登志子さん夫妻。公雄さんは東京農業大学在学中、植物生態学者・猶原恭爾が提唱する山地酪農に出合い、人生を捧げる決意をしたという。大学卒業後の1974年、23歳のときに千葉から田野畑村へ移住。プレハブで暮らしながら山を開拓し、登志子さんや日々成長する子供たちと力を合わせて牛を世話してきた。当初は電気もなく、家へ続く道も舗装されていないというまさに“リアル・北の国から(初期)”状態だった。

遠藤監督は、テレビ岩手の報道部記者だった1994年6月、別の酪農家から「純粋な男がいる」と紹介されて吉塚さんの取材を開始。山地酪農に取り組む公雄さんのまっすぐな思いに感銘を受けながらも、家の中がぼろぼろなことに驚いたという。

「あちこちに蜘蛛の巣が張っていて、鍋も錆だらけ。室内なのに、隙間から吹き込んだ雪が背中に積もるような有様でした。子供たちも週に1回くらいしかお風呂に入れないので、まあ汚いんですよね。でもみんな明るくて、笑いが絶えない。取材を始めてすぐに『面白い家族だな』と思いました」

当時は年収も100万円ほどしかなく、年々借金が膨らむ一方だった吉塚家。しかし遠藤監督が取材を始めて2年ほどしてから、プライベートブランド「田野畑山地酪農牛乳」を立ち上げて牛乳の生産を始めたところ、テレビ効果もあって注文が相次ぐようになった。ブランド設立には遠藤監督も深く関わったといい、「ずっと一緒にやってきたという思いが強い」と振り返る。ちなみに、本作でナレーションを担当している女優の室井滋さんも、田野畑山地酪農牛乳を愛飲しているそうだ。

映画は、これまで撮りためた1000時間にも及ぶ映像素材から、「人と自然との関わり」をテーマに据えて編集した。幼かった、あるいはまだ生まれてもいなかった子供たちが成長し、酪農の仕事や家事を手伝うようになるたくましい姿はもちろん、厳しい自然環境の中で完全放牧を貫く難しさなどを、四季折々の美しい映像を織り交ぜて丹念に描いている。

「北の国から」というよりむしろ「男はつらいよ」

経験を積み、自分なりの酪農を模索し始めた息子たちは、時に公雄さんと激しく衝突する。互いに涙を流しながら思いをぶつけ合う場面など、遠藤監督と吉塚家との長年の信頼関係がなければ撮れなかった映像も大きな見どころだ。

「編集していて思ったけど、公雄さんは本当に自分勝手(笑)。子供たちのことより山地酪農の実践の方が明らかに優先順位が高いんですから。子供たちには酪農をさせることしか考えていない。『北の国から』みたいとも言われましたが、あっちのお父さん(田中邦衛さん)の方がよっぽど優しいですよ」

編集する際に参考になったのは、意外にも映画「男はつらいよ」。理不尽なのに多くの人から愛される寅さんが、公雄さんに重なったという。

テレビ岩手開局50周年記念作品として、自身の手掛けた番組が初めて映画になった遠藤監督。「ダイレクトに反響をもらえる映画は、テレビとは全然違う。実は映画化には乗り気ではなかったのですが、今はやって良かったと感じています」と手応えをにじませる。

「ここには心の豊かさがある、と言うと陳腐になりますが、吉塚家の歳月からは、人間が自然の恵みで生かされているという原始的な営みを感じていただけるのではないかと思います」

シネ・ヌーヴォでの上映は9月27日まで。

関西ではこのほか、神戸の元町映画館、京都シネマでいずれも9月14日から20日まで上映予定。秋から冬にかけて、全国各地で自主上映会も続々と決まっている。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

まいどなニュース

最終更新:8/31(土) 17:42
まいどなニュース

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事