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ガン治療にクラウドの活用が必須になってきた

9/3(火) 9:00配信

アスキー

テンクーが提供する、ゲノムおよび生体情報解析トータルソリューション「Chrovis(クロビス)」がガン治療に貢献している。サービスを運用するうえで、大量のデータを蓄積したり、迅速に最新知識を活用したりしながら解析するには、クラウドの活用が必須だという。

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今回のことば
 
「テクノロジーを活用して社会課題を解決したい。その解決したい課題がガン。遺伝子を見ることで、精密医療が可能になる。そこに貢献したい」(テンクーの西村邦裕社長)
 
 テンクー(Xcoo)は、自然言語処理技術や人工知能技術を用いたゲノムおよび生体情報解析トータルソリューション「Chrovis(クロビス)」を開発する企業だ。東京大学 大学院情報理工学系研究科で助教を務めた社長の西村邦裕氏が、2011年4月に設立。社員数は23人だが、ガンゲノム医療において、テクノロジーの力を活用し、ゲノム情報の解析と解釈の精度を高め、研究や医療に貢献している。
 
 ガンゲノム医療は、ヒトの遺伝子情報を解析することで、ガンの特徴が理解でき、治療をしたり、予防をしたりといったことができる新たな医療だ。ガンは、通常の細胞から発生した異常な細胞のかたまりであり、細胞の遺伝子になにかのきっかけで複数の傷がつき、修復されずにいると、異常な細胞が増殖。この繰り返しによってガン細胞ができあがる。
 
 そこで、遺伝子が変異した場所に適切な薬を投与することで、ガンを抑えることができる可能性が高まるというわけだ。
 
 テンクーは、そこに貢献するソリューションを開発している。
 
どんな薬剤が効果的かまでわかるChrovis
 Chrovisは、高速に自動データ解析をする「Chrovis Analysis」、臨床的意義のもととなる知識データベース「Chrovis Database」、エビデンスに基づいたレポーティングをする「Chrovis Report」で構成。
 
 医師による診察でガンの疑いがあった場合、ガンゲノム医療では、生体検査をもとに、次世代シークエンス(NGS)を用いた遺伝子情報を読み取る。
 
 NGSから得られた遺伝子情報をもとに、Chrovis Analysisで解析し、解析情報をもとに、知識データベースであるChrovis Databaseによって、遺伝子変異点の意味づけをするとともに、薬剤情報と紐づけし、最適な薬や治療方法を示すことができる。
 
 Chrovis Databaseでは約2800万件の論文や、医師やキュレーターによって公開されている情報、薬の情報や臨床試験の情報が蓄積されており、合計で7億件もの情報があるという。ここでは、自然言語処理による独自の検索エンジンを開発。ガンに関係がある論文だけを抽出して、取り込んでいる。
 
 また、独自の類義語辞典によって、薬の一般名称と製品名、治験名称が異なる場合にも、同じものとして認識。さらに、パラフレーズ検索によって、論文や薬剤情報で使用されている略語や、略語同士の組み合わせ、他言語での表現なども網羅して検索できるようにしている。こうした独自の技術がChrovisならではの特徴だ。
 
 Chrovis Databaseを通じて導き出された結果は、Chrovis Reportによって、患者ごとに個別化したレポートを作成。医師や患者に提供される。
 
 レポートでは、遺伝子のどの部分に変異が認められたのか、どんな国内承認薬が適用できるのかといったことが示され、新薬が予定されている場合にはそうした情報も付記される。
 
 医師に対しては、遺伝情報の分析だけに留まらず、どんな薬剤が治療に効果的なのかといった情報まで提供されるというわけだ。
 
東大病院にも採用
 すでに、約3年間に渡る東京大学との取り組みをベースに、2018年10月からは、東京大学医学部附属病院(東大病院)が実施するガン遺伝子パネル検査「Todai OncoPanel」において、Chrovisが活用されている。
 
 2019年6月から、一部の遺伝子パネル検査が保険適用になった。医療分野では、「ガンゲノム医療の実用元年」という表現さえ出てきている。
 
 現在、保険適用になっているのは「NCCオンコパネル」と「FoundationOne」の2つで、テンクーと東大病院によるTodai OncoPanelは対象になっていない。だが、Todai OncoPanelは、約900種類の遺伝子を解析の対象としており、ほかのパネル検査が100~300種類であるのに比べると圧倒的に種類が多いという特徴がある。
 
 また、テンクーと東京大学はこの取り組みにおいて、2019年7月に国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催する「大学発ベンチャー表彰2019~Award for Academic Startups~」において、「文部科学大臣賞」を受賞している。
 
 Todai OncoPanelは現在、先進医療Bに分類されている検査であり、今後、保険適用に向けた取り組みを加速することになる。
 
オンプレミスでは限界
 日本におけるガン死亡者は、年間で約37万3000人に達しており、日本人の死因の約3割はガンだ。また、日本人の2人に1人がガンにかかるというデータのほか、年間100万人が新たにガンにかかっており、年間出生数に匹敵する規模というデータもある。
 
 西村社長は「テクノロジーを活用して社会課題を解決したいと考えている。その解決したい課題がガンである」とし、「ガンゲノム医療は、遺伝子を見ることによって、個人ごとや、ガンの種類にあわせた精密医療が可能になり、ガン治療やガン予防に貢献する。その実現に貢献していきたい」と語る。個人に最適化したパーソナル医療の実現も促進することになる。
 
 実際、悪性のガンと診断された患者が、ゲノム情報を活用することで、良性のガンであることがわかり、摘出せずに、薬剤で治療をするといった事例も出ている。
 
 「ガンゲノム医療で使用する遺伝子情報は、1人あたり数十GB。蓄積された大量のデータをもとに解析すれば、どこが悪いかがわかり、それを治すことができる。これは、製造業などで利用されているIoTと同じようなもの。センサーから情報を集めて、それを分析して、予兆保守を行ったり、課題抽出をしたりといったことができる。そのため、ガンゲノム医療を『医療のIoT』と呼ぶ人もいる」という。
 
 一方で、より大量のデータを蓄積したり、迅速に最新知識を活用したりしながら解析するには、クラウドの活用が必須だ。しかし、日本の医療分野では、オンプレミスとクローズドネットワーク環境が一般的となっている。
 
 「たとえば、昨日の段階で、欧州のある国で新薬の使用が認可されたという情報がデータベースに反映されていたかどうかが、診断結果や治療方針を変えることにもつながる。まさに、人の生命にかかわる部分。こうした動きに対応できないオンプレミスでは限界がある」(テンクーの鈴木協一郎取締役)とも指摘する。
 
 「これは、今後の日本の医療分野における課題になる。東大病院で取り組んでいるTodai OncoPanelでの実績などを通じて、ガンゲノム医療の活用におけるクラウド導入の提案にも力を注ぐ」(テンクーの西村社長)とする。
 
 Chrovisが、日本の医療分野におけるクラウド化促進のひとつのきっかけになるか。
 
文● 大河原克行、編集●ASCII

最終更新:9/3(火) 9:00
アスキー

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