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日本軍の真実を透視 「神聖喜劇」大西巨人【あの名作その時代シリーズ】

9/4(水) 12:00配信 有料

西日本新聞

この国が歩んで行く道は…。未来を見つめる瞳に過去が交錯する(写真は一部加工しています)

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年5月20日付のものです。

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 戦争が始まったら、私たちはどう生きるのだろう。国家の命令に従って戦場に赴くのか、あるいは徴兵を拒否しようともがくのか。胸にあるのは愛国の心か、おびえか、あきらめか…。

 かつて巨大砲台が随所に布置され、「要塞(ようさい)の島」と呼ばれた長崎県対馬の戦争史跡を訪ね歩きながら、そんなことをぼんやり考えた。

 一九四二年一月十日夜、補充兵として入隊した東堂太郎は〈世界は真剣に生きるに値しない〉という虚無主義を抱いて、対馬・厳原港に到着した。戦争は肯定できないが、個人の力で阻止もできない。圧倒的な無力感から生まれた虚無主義に染まりながら、同時に死んでいく無数の兵隊をよそに、戦争から逃げることを〈偸安(とうあん)と怯懦(きょうだ)と卑屈〉とみなす東堂は、奇怪な願望を胸に兵となった。

 -私はこの戦争で死ぬべきである。一匹の犬として-

 しかし、対馬要塞重砲兵連隊本部が置かれた鶏知に到着した東堂は三カ月の教育期間を通して、軍隊という場でむき出しになった国家権力の支配システムに真っ向から対抗していくことになる。

 一人の人間として。

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 原稿用紙約四千七百枚の大作「神聖喜劇」は、さまざまな意味で破格、類書が見当たらない小説である。

 「長い小説なのに、描写も構成も精密で、非常に密度が高い。原作の世界をまるごと漫画にすることは不可能でした」

 昨年、漫画「神聖喜劇」(企画・脚色=岩田和博、全六巻)を発表したのぞゑのぶひささん(58)=佐賀県出身=が語るように、小説にはさまざまな軍紀を始め、短歌、英詩、漢詩などが、時に数ページに及んで奔流のごとく引用される。一つの場面に挿入された追憶が、長編小説並みの分量を持つこともある。現在と過去が交錯し、引用がさらなる引用を誘う作品世界は極めて重層的で、多様なテーマを含み込む。中で最も大きな核が、権力との闘争である。 本文:2,532文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:9/4(水) 12:00
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