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iPS細胞の発見をもたらした「必要」と「偶然」 ―ノーベル生理学・医学賞を授賞した研究の背景

9/4(水) 11:34配信

サイエンスポータル

「国際科学オリンピック日本開催」シンポジウム(8月22日)での京都大学iPS細胞研究所所長・教授 山中伸弥 氏講演から―

 私を医学の道に導いてくれた恩人は、実は父親です。父親はエンジニアで、小さな町工場を営んでいました。父親は私が中学生の時にけがをし、その時の輸血で肝臓の病気になってしまいました。当時はまだ病気の原因が分かっていなかったので、治療法がなく、どんどん悪くなっていきました。そのことで自分自身も医学に興味を持つようになりました。また、医者になってはどうかという父親の勧めもあって1987年に医学部を卒業して臨床医になりました。

 その頃には父親の病気が重くなり、入退院を繰り返していました。依然原因は分からず、治療法もなく、できることは痛み止めの点滴をしてあげることぐらいでした。苦しい中でも息子に点滴してもらうと、とてもうれしそうにしていたのを覚えています。

 残念ながら父親は、私が医師になった翌年の1988年に亡くなりました。父親が58歳、私は25歳でした。父親の死は、医者になったばかりの私にとって大きな衝撃で、無力さを感じました。せっかく臨床医になったのに、父親さえ救うことができない。(当時)父親以外にも、どうしても救うことのできない患者さんがたくさんいました。現在の医学で治せない患者さんをどうすれば将来治せるようになるのか。そのためには研究(が必要)だと思って、大学院に入り直して研究の基礎を学びました。

 父親の病気については(亡くなった翌年の)1989年にアメリカで原因が分かりました。父親の命を奪ったのは小さなウイルスで、C型肝炎ウイルスと言われるものです。原因が分かったので、世界中の研究者が治療法の研究に取りかかり、その努力の結果、特効薬ができました。2014年にアメリカで販売され、その後日本にも入ってきた「ハーボニー」という飲み薬です。1日に1回、3カ月間飲むと、99.5パーセントの患者さんからC型肝炎ウイルスは消えてなくなるという本当に夢のような薬です。

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最終更新:9/4(水) 11:34
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