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中村汀女「汀女句集」 台所で暮らしをうたう 【あの名作その時代シリーズ】

9/6(金) 12:00配信 有料

西日本新聞

柔らかな心で自然をとらえた汀女。虹色のシャボン玉が、湖面に映る緑を包むように浮かんだ

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年6月3日付のものです。

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 梅雨入り前だというのに、早くも熊本市はうだるような暑さだ。江津湖には涼を求めて散策する人々や、釣り人の姿があった。ゆったりと時間が流れる。そんな湖畔の風景に溶け込むように句碑が立つ。周囲には満開のころを少し過ぎたツツジが咲いていた。

 つつじ咲く母の暮(くら)しに加はりし (句集「都鳥」)

 汀女は自宅のすぐそばにあった江津湖を愛した。少女時代、彼女は毎日のように釣りに出掛けた。祖母が「すみらのごとなって(真っ黒になって)」と嘆くほどだった。

 県立高等女学校(現・県立第一高校)の四年生のころの日記。

 〈雨後の湖、ほんとに静か、森のみどりが急にこくなった様に見える。まあよく水にうつってること。神水のもり、健軍の杉、あそさん等みんなその彩色がちがってそのままさざなみ一つない湖にうつっている。(中略)ともに立って居るのも今は私一人、私の湖のよう〉

 第二句集「汀女句集」の冒頭にはこうある。

 〈朝夕湖を見て育った。走る魚の影も、水底の石の色も皆そらんじている。父母尚在ます江津湖畔に私の句想はいつも馳(は)せてゆく〉

 高浜虚子の姉妹弟子だった星野立子(虚子の二女)からは「江津湖のこと、あなたはしぼればしぼるほど書くことがあるのね」と言われた。湖面の色、さざ波、魚の影、水底の石…。幼いころから親しんだ「私の湖」は句作の源、いや汀女の句の世界そのものだった。 本文:2,473文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:9/6(金) 12:00
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