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女性落語家の活躍著【21世紀落語史】広瀬和生

9/8(日) 16:00配信

本がすき。

21世紀早々、落語界を大激震が襲う。
当代随一の人気を誇る、古今亭志ん朝の早すぎる死だ(2001年10月)。
志ん朝の死は、落語界の先行きに暗い影を落としたはずだった。しかし、落語界はそこから奇跡的に巻き返す。様々な人々の尽力により「落語ブーム」という言葉がたびたびメディアに躍るようになった。本連載は、平成が終わりを告げようとする今、激動の21世紀の落語界を振り返る試みである。

二ツ目が元気な時代の到来と共に目立ってきたのが若手の女性落語家の活躍だ。

とはいっても、女性落語家の絶対数は少ない。大学の落研には上手くて面白い女子が大勢いるのに、彼女らはほとんどプロを目指さない。2019年9月の時点で東京にいる女性落語家は「真打&二ツ目」で25人。その他に前座が6人、人数が把握できない「見習い」も数人いるはずだが、そんな程度だ。東京の落語家全体の数は約600人と言われる中での30数名だから、男性に比べて女性の落語家は圧倒的な少数派だ。

もっとも、この10年で女性落語家の数は徐々に増えてはいる。2009年12月に調べたときには東京に450人以上いた落語家の中で女性は前座も含めて19人、「真打&二ツ目」は12人しかいなかった。

女性落語家が少ない理由としてまず考えられるのは、伝統的に「落語は男が演るもの」とされてきたということ。1993年に三遊亭歌る多と古今亭千代菊が東京で初の女性真打になった際には「女流真打」という別枠を設けるべきではないかという議論があったほどだ。

その伝統の中で「老若男女を男性が1人で演じるもの」として磨き上げられてきた古典落語を女性が演じるのは無理がある、だから女性の落語家は女性のために作られた新作落語を演るべきだ、と提唱したのは三遊亭白鳥だ。白鳥は2010年、それを女性落語家たちが実践するきっかけを与えるために、自らプロデュースする「The Woman’s落語会」を立ち上げた。若手の女性落語家たちが白鳥に教わった噺を演じるこの会は2015年まで12回開催された後、2016年末に2夜のスペシャル企画として復活。2018年3月には「第14回」が内幸町ホールで開かれ、三遊亭粋歌、立川こはる、春風亭ぴっかり☆、林家つる子がそれぞれ白鳥作品を独自にアレンジして演じた。この4人はいずれも人気の女性二ツ目だ。

白鳥の言う「女性は女性向きの新作を演ればいい」という指摘は一面の真理である。ただ、プロの落語家になる女性はたいてい「古典が好きでこの世界に入った」と言う。そんな女性たちが、男性に混じってどのように個性を発揮していけばいいのか。

その「モデルケース」となるべき存在が、2017年に真打昇進した柳亭こみちだ。2006年に二ツ目となったこみちは、当初から「まっすぐな古典」をきっちりと演じる女性落語家として着実に活動の基盤を広げていった。女性の着物で高座に上がり、ルックスも女性らしい可愛さを備えたこみちだが、持ち前の「古典の技量」の確かさゆえに「女性が古典を演ることの不自然さ」を感じさせなかった。

だがこみちは「まっすぐな古典」とは別に、『蚤のかっぽれ』『植木のお化け』『虱茶屋』といった「音曲や踊りなどの“飛び道具”が入る噺」を積極的に覚え、これを自らの武器にしていった。

白鳥は、そんなこみちにも「女性のための新作」を教えた。最初は2008年9月、独演会のゲストとしてこみちを呼んで自作の『ナースコール』を演じさせたのである。さらに白鳥は「The Woman’s落語会」を始めると、こみちに『白鳥版明烏』や『女泥棒』、『姫と鴨』等の作品を提供している。これらは古典の世界感を新作に持ち込んだもので、現代を舞台にする『ナースコール』とは異なり、「古典のこみち」を求めるファン層にも受け入れられやすかった。

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最終更新:9/8(日) 16:00
本がすき。

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