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JR東日本、大汐線・新金線など都心の貨物線を「財産」にできるか

9/9(月) 18:24配信

マイナビニュース

JR東日本が計画を進める羽田空港アクセス線(仮称)は、早ければ2029年度の開業をめざしている。東京駅方面(東山手ルート)、新宿方面(西山手ルート)、お台場・千葉方面(臨海部ルート)の3ルートを整備し、同社が関東一円に持つ路線網を生かして、広い範囲から東京国際空港(羽田空港)へのアクセス輸送を提供しようという計画である。

【写真】現状は草むした休止線にすぎない「大汐線」

■羽田空港アクセスに貨物線を活用

各ルートが合流し、最終的に羽田空港へ達する東京貨物ターミナル~羽田空港間では、約5.0kmの新線が建設される予定であるが、このプロジェクトの根底を支えているのは国鉄時代に開業した貨物線のネットワークである。新線区間の起点、東京貨物ターミナル駅は、その名の通り、東京における鉄道貨物の拠点駅であり、各方面を結ぶ貨物列車がいまも頻繁に発着している。

1986(昭和61)年まで、貨物輸送の拠点は汐留貨物駅であった。いまの汐留シオサイトの場所であり、1872(明治5)年に日本初の営業鉄道として開業した新橋~横浜間における、旧新橋駅でもある。汐留~浜松町~東京貨物ターミナル間の貨物線は、汐留駅の廃止とともに浜松町との間が廃止され、浜松町~東京貨物ターミナル間の通称「大汐線」は1998(平成10)年以降、休止状態にある。羽田空港アクセス線(仮称)は、この「大汐線」を旅客線化して都心部のルートに充てる予定である。

現在、「大汐線」は架線が外され、路盤は草むしているものの、線路や橋梁などの構造物は休止時のまま維持されている。「復活」にかかる手間や費用は、土地取得ひとつ取っても、完全な新線を建設することとは比べものにならないほど容易かつ安価であろう。反対に、線路が撤去され、用地も売却されてしまっていては、羽田空港アクセス線計画はなかったかもしれない。国鉄時代から引き継がれた遺産の活用が、新路線建設の目的のひとつでもある。

■首都圏に多い貨物線からの転用路線

元より「貨物線」と言っても、おもに貨物列車が使うというだけで、走る列車の種類を選ぶものではない。「大汐線」も臨時ではあるが、旅客列車が走った実績がある。いまは通勤通学路線として定着しているところでも、原計画時には純粋な貨物線であったところはかなりの数に上る。

かつて東京近郊を発着、あるいは東京近郊を通り抜けて運転される貨物列車の多くは、山手線品川~田端間で並行する山手貨物線を通り、新宿駅など沿線にある貨物駅で貨物の積卸しを行っていた。

しかし、輸送量の増大にともない、東京の外縁部をバイパスする貨物専用線の建設計画が、1950年代にはすでに持ち上がっていた。そうした路線が、その後の高度経済成長や首都圏の人口増加を受け、建設途中から次々と旅客線、もしくは旅客・貨物兼用に転用されたのだった。

その嚆矢は、1973(昭和48)年に府中本町~新松戸間が開業した武蔵野線である。当初、旅客列車は40分に1本という、東京近郊とは思えないような運転間隔であったが、現在では10分間隔の運転にまで成長した。その一方で、貨物列車も多数運転されている。

武蔵野線に続いて、通称「品鶴線」(品川~新川崎~鶴見間)も1980年に旅客兼用となり、現在は横須賀線、湘南新宿ラインなどの列車が走る。今年11月30日に開業予定の相鉄・JR直通線の列車もこのルートを通る。「品鶴線」の後も、京葉線やりんかい線(東京臨海高速鉄道)などが、やはり貨物線を活用した新路線として開業した。

山手貨物線も貨物列車の通過は残っているものの、いまや埼京線および湘南新宿ラインとしての認識が高いであろう。他の都市圏においても、梅田貨物線が新大阪駅から関西空港・紀勢本線(きのくに線)方面を結ぶ路線として機能している。今年3月に全線開業したおおさか東線も、城東貨物線を転用した路線として記憶に新しいところだ。

これらの路線では、貨物線らしい「幹線鉄道同士の直通運転が容易」という特徴を活用し、従来の運転系統にとらわれない新しい運転ルートが設定されている。湘南新宿ラインこそがその典型だろう。

こうした施策は国鉄からJR各社などへ引き継がれ、その延長上として羽田空港アクセス線(仮称)がある。なお、貨物線と言っても線路や敷地を保有しているのはJR東日本であり、JR貨物は設備を借りて貨物列車を走らせているという立場にある。

■今後、期待される貨物線の旅客化と課題

貨物線という国鉄時代からの遺産を活用して、路線網の充実、ひいては商圏の拡大、輸送事情の解決を図っているJR東日本ではあるが、そうした方針には限界もある。まず、既存の貨物線は、当然ながら貨物輸送を第一に設計、建設されており、必ずしも旅客の需要に応じたルートとはなっていないことが挙げられるだろう。

たとえば武蔵野線の鶴見~府中本町間(通称「武蔵野南線」)は、一部の臨時旅客列車が通過する他は貨物専用のままである。路線延長のほとんどがトンネルであり、既存鉄道との交差点などに旅客駅を設けようとすると、トンネルを拡大するなどの必要がある。莫大な費用がかかるため、旅客線化は見送られているのだ。そもそも既存のJR南武線と並行しており、バイパス路線としての性格から、東京都心に直結している線形でもない。投資に対する回収は疑問視されている。

常磐線から新宿方面へも、じつは貨物線がつながっている。そこを通れば、湘南新宿ラインのように、水戸方面から池袋駅・新宿駅・渋谷駅へ直通する旅客列車を運転できそうであるが、現状のままだと田端信号場で折り返さなければならない線形になっているのだ。定期列車を運転するためには、この「スイッチバック」を解消する改良が必要であり、都心部の地価など建設費用を考えると、現実的ではないだろう。

山手貨物線や武蔵野線、羽田空港アクセス線(仮称)などの旅客線化が検討、実現された有利な前提条件としては、ほとんどの道路と立体交差になっており、自動車交通と干渉しないこともある。都市交通においては重要なポイントで、踏切による渋滞が新たに生じるようでは、沿線住民などの理解は得られまい。

踏切がネックになって、旅客線化がなかなか具体化しない貨物線もある。中川に沿って新小岩信号場~金町間を結ぶ通称「新金線」。総武本線と常磐線を結ぶ連絡線で、ここも珍しい貨物専用の路線だが、いまは夜間を中心に1日数本の列車が通るのみだ。

地元の葛飾区では、区内を南北に結ぶ交通機関が路線バスだけであることから、この「新金線」をLRT(ライトレール)に改築し、地域内輸送を改善する構想を進めている。この貨物線は1926年開業という長い歴史を持ち、単線ではあるものの、複線分の用地も架線柱もすでに存在している。完全な新線を建設するより、簡便に鉄道整備ができるであろう。

ただ、古い時期の建設であるだけに、道路とは立体交差になっておらず、踏切が多い。とくに国道6号(水戸街道)の踏切付近は渋滞が頻発するエリアであり、旅客線化に向けての最大の課題となる。これを立体化するなら、やはり大きな費用がかかり、貨物線活用のメリットが薄れる。

大都市圏の鉄道輸送事情を改善しうる方策のひとつではあるものの、「財産」として活用できる貨物線には限りもある。やはり投資に見合う需要が存在するかどうかが旅客線化の鍵であることが、「新金線」の現状からも透けて見える。


筆者プロフィール: 土屋武之

1965年、大阪府豊中市生まれ。鉄道員だった祖父、伯父の影響や、阪急電鉄の線路近くに住んだ経験などから、幼少時より鉄道に興味を抱く。大阪大学では演劇学を専攻し劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。芸術や評論を学ぶ。出版社勤務を経て1997年にフリーライターとして独立。2004年頃から鉄道を専門とするようになり、社会派鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事を毎号担当するなど、社会の公器としての鉄道を幅広く見つめ続けている。著書は『鉄道員になるには』(ぺりかん社)、『まるまる大阪環状線めぐり』(交通新聞社)、『新きっぷのルール ハンドブック』(実業之日本社)、『JR私鉄全線 地図でよくわかる 鉄道大百科』(JTBパブリッシング)、『ここがすごい! 東京メトロ - 実感できる驚きポイント』(交通新聞社)など。

土屋武之

最終更新:9/9(月) 18:24
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