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<MGC イチおし>上原美幸 きらめく才能、物おじしない芯の強さが生きる時

9/11(水) 19:42配信

毎日新聞

 ◇東京本社社会部・大島祥平

 宝石の原石のような才能に出会った時、ものすごく得をした気持ちになる。それは運動部記者の一つの醍醐味(だいごみ)だろう。私が福岡本部の運動部記者として、鹿児島女子高2年だった上原美幸(23)=第一生命グループ=を取材した時もそうだった。

 書いた記事を見返すと「将来の目標は五輪出場。自分の道を貫いた先に、きっと夢の舞台が待っている」。この小さな体のどこにそんなパワーがあるのかと思うような、バネを生かした力強い走りが鮮烈だった。

 心の強さを感じたのは、20歳で早くも「夢」をかなえた2016年リオデジャネイロ五輪でのこと。5000メートルの予選でスタート直後から飛び出して後続を引き離す大胆不敵な走りを見せ、日本勢として20年ぶりに決勝に進出した。

 「闘争心むき出し作戦」と無邪気に笑う上原にこの先の展望を聞くと、こう言った。「(五輪の舞台を)経験させてもらった以上は東京五輪ではマラソン。ケニア、エチオピア勢に競り勝ってメダルを取れるように頑張りたい」

 ただ、長い競技人生では、良い時もあれば悪い時も必ず来る。彼女の場合は、苦しんできた時間のほうが長いのではないか。

 リオ五輪前から掲げていた「東京五輪のマラソンで金メダル」という目標が重くのしかかったのかもしれない。マラソン挑戦は簡単ではなかった。試行錯誤の日々で進む方向性にも自信をなくし、「マラソンは向いていないのかもしれない」と吐露した時もあった。

 それでもMGCのスタートラインに立つということが、類いまれな力を証明している。ここまでのマラソンレースは2回。それも、およそ本格的なマラソン練習を積んだとはいえないものだったが、初マラソンだった18年ベルリンでは第一生命・山下佐知子監督の予想を上回る2時間25分46秒を記録した。MGC挑戦権を獲得した今年3月の名古屋ウィメンズ前も調子はどん底だったはずなのに、2時間24分19秒で日本人3位に入った。山下監督は「伸びしろが一番ある。練習で上乗せできた分だけどんどん成長する」。あれから、半年がたっている。

 ただでさえ苦しいマラソンを真夏の東京で走る過酷さは計り知れない。だから気軽なことは言えない。ただ、悩み抜いてきた分、そこを越えた先に見える景色はまた違うものがあるのではないだろうか。物おじしない芯の強さが生きるのは、今だ。

 レースで、思いをぶつけてくれればと思う。そして願わくば、周囲に自慢したい。「ほらね、すごい選手でしょ」と。

 ◇大島祥平

 毎日新聞東京本社社会部(五輪担当)。1978年生まれ、山口県出身。2004年入社。大分支局、福岡運動部を経て14年に東京運動部。19年5月から現職。12年ロンドン五輪、16年リオデジャネイロ五輪、18年サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会を現地で取材した。高校時代は吹奏楽部、大学時代は交響楽団と文化系人間。一念発起して14年にフルマラソンを3時間33分30秒で走ったが、肉体はすぐ衰えることを実感する日々。

最終更新:9/13(金) 17:02
毎日新聞

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