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最強女子磨いた「虎の穴」 吉田沙保里、伊調姉妹も鍛えた

9/12(木) 12:25配信

産経新聞

 東京五輪予選を兼ねたレスリングの世界選手権が14日、カザフスタンで開幕する。「霊長類最強」と言われた五輪3連覇の吉田沙保里さん(36)が引退するなど、世代交代が進む女子日本代表にとっては「お家芸」の健在ぶりを示す舞台。威信を懸けて大会に臨む選手らは脈々と女子レスリング界に受け継がれてきた「虎の穴」で、最後の追い込みをかけた。(岡野祐己)

 冬場はスキー客でごった返す新潟県湯沢町のJR越後湯沢駅から車で約40分。未舗装の山道を抜けた先に、女子代表チームが約30年前から強化合宿を行う「桜花レスリング道場」(同県十日町市)がある。木々に囲まれ、10年前まで携帯電話の電波も通じなかった。世界選手権の代表選手らは8月28日から5日間、「女子レスリング虎の穴」とも呼ばれる「十日町合宿」で急勾配の坂をダッシュし、マットでみっちり練習。心身を鍛練した。

 「一番天気を気にする合宿。こんなに雨を願うことはない」。57キロ級代表でリオデジャネイロ五輪63キロ級金メダルの川井梨紗子(24)=ジャパンビバレッジ=は合宿が報道陣に公開された8月29日、そう言って苦笑いした。

 早朝は激しい雨が降っていた。だが、午前7時半からの朝練習が始まる頃にやみ、予定通り坂道を走った。選手を背負って走るから、普通のダッシュより何倍もきつい。午後からの練習ではスパーリングなどに汗を流したが、川井は「やばい、足!」と絶叫して倒れ込んだ。朝、下半身を酷使したことで疲労もピークに達していた。

 もともとは「六箇小学校塩之又分校」の校舎。廃校になっていたが、改修して日本大学レスリング部が平成3年から合宿所として使うようになり、翌4年から女子代表も強化合宿で利用するようになった。「鍛えよ体、磨け技、心身修養道場」と書かれた外壁。室内の壁には、吉田さんや伊調馨(35)=ALSOK、姉の千春さん(37)、浜口京子さん(41)ら歴代の五輪メダリストたちの写真が飾られている。

 1階に3面のマットと食堂があり、2階が寝室。個室はなく数人で布団を並べて寝る。北京五輪の女子レスリング十日町後援会長を務めた山川準一さん(72)は「北京五輪があった平成20年は、まだ携帯電話の電波が通じていなかった」と述懐する。部屋にエアコンが設置されたのは2年前。かつては水道もなく洗濯に山水を使っていたという。食事は地元の主婦らが集まり、作っている。

 合宿に参加した76キロ級代表の皆川博恵(32)=クリナップ=は「越後湯沢駅からのバスの中で『ああ来たな』と思うけど、来たら来たでいい練習が積めるし、気分転換になる」。女子代表の笹山秀雄監督(51)は「ここじゃないとできないことがある。山道を走り、みんなで一致団結するのが伝統」と強調した。「虎の穴」でたくましさを増した女子代表。世界選手権で非五輪階級を含めた全10階級でのメダル獲得を目指す。

 【虎の穴】アニメ作品『タイガーマスク』に登場する悪役レスラー養成機関。何人も死者を出すほどの過酷なトレーニングを強いていた。転じて、選手に厳しい練習を課す合宿所や育成施設を指すようになった。

最終更新:9/12(木) 12:25
産経新聞

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