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一人で「秋刀魚」を焼いて、一人で美味しく食べる夜【数字のないレシピたち Vol.2】

9/12(木) 17:01配信

クックパッドニュース

決められた材料、分量、調理法などない。何にも縛られず、自分だけの「美食」を味わうために作る料理があってもいい。それはきっと、心満たす色鮮やかな時間をくれるはず。出張料理人・ソウダルアが綴る、人と料理と時間と空間の物語。

■ ■ ■

秋刀魚苦いかしょっぱいか

「さんま苦いか塩つぱいか」

そんな詩をどこかで読んだ気がする。
たぶん、花の女子高生のころだったような。

あれから、10年余りがたち、人生の苦さもしょっぱさも味わってきた私にはなんとも皮肉に聞こえてくる。

大学入学と共に、名産も思い入れもない地方都市から、東京に。
女子高生というブランドと謎の自意識を奪われた東京での暮らしに、私もまた、ただの地方都市のようなものでしかないという思いに晒された。

最低限の勉強と、小遣い稼ぎとひまつぶしと出会いの為のアルバイト、周りに言われるがままにはじめた就職活動。
失敗ではないけれど、恵まれてるともいえない所からもらった内定。まあ、嬉しかったけど。

いろんなことを打ち明けられる仲間もいるし、お気に入りの町にも住めている。
通い慣れたお店も何軒かある。
寂しくなったときに遊ぶ男友だちだっている。

でも、そのどれもがほんとうに大事なのかどうなのか、よくわからなくなるときがある。

いつからか、夏が来てもテンションが上がらなくなった。
雨が降った、というだけで一日中、家に籠もるようになった。
仕事帰りの満員電車でいきなり泣きたくなった。

そんな気持ちを最新のスイーツやトレンドスポットやSNSや、お酒なんかで蓋をしてきたけど、もしかしたら、限界なのかもしれない。
地元に帰るという選択肢も頭をもたげるけれど、会いたい人もいなければ、自分が暮らすというイメージも持てない。

そうこうしているうちに東京生活10年目の夏が終わった。
まだまだ暑いけれど、9月という文字を見ると、やはり夏から秋になるような気分になる。

学生時代の節約から始まった自炊が意外と性に合っていた私は気晴らしに料理をする。
昔の彼氏には張り切って、あれこれつくったものだが、自分の為にとなると、ぱぱっとつくれるものが中心になる。
買った食材をググればレシピはいくらでも出てくる。
便利になったものだ。

今日もいつも通りスーパーに入ると、いつもはないテーブルの上に氷水に入った秋刀魚がどさっと特売の文字とともに積まれていた。

苦いかしょっぱいか、か。

いまの私にはちょうどいいかもしれないな。
大根おろしに醤油。かぼすだか、すだちだかを絞って。

なんとなく、目があったような気がした秋刀魚を二匹選んで、半分にカットされた大根の上の部分、あってるかはわからないけど、すだちしか売ってなかったので、すだちをカゴに入れる。

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最終更新:9/12(木) 17:01
クックパッドニュース

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