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北上市の水泳大会で過ごした幸せな時間/伊藤華英

9/12(木) 10:20配信

日刊スポーツ

「人があったかいところだな」

人生で初めて岩手県北上市を訪れた感想だった。岩手県は東日本大震災の復興や、水泳教室で多く訪れる場所なのだが、意外に北上市は初めてだった。

【写真】北上市の水泳大会の様子

なぜ訪問することになったかというと、去年の11月に盛岡市で行われた友人の披露宴で北上市水泳協会の伊澤会長とお話をする機会があり、「ぜひ!北上市へ」とのオファーをいただいたことがきっかけだった。約2年越しに約束を果たせると思っていた。

私の親友も結婚を機に北上市に住んでいたこともあって、訪問を心待ちにしていた。その親友は同級生で、ウエートリフティングの日本記録を持っていたアスリート。大学院もゼミは異なったが、いろいろ苦楽を共にした大切な人だ。

私が普段、足を運ぶのは、大きな国際大会や、日本選手権、インカレなどの全国大会が多い。ただ県規模の大会でのゲストスイマーなどもある。今回は北上市の水泳大会「第29回北上市民体育大会水泳競技」。私はこういうローカルな試合がとても好きだ。水泳を頑張っていた子供の頃を思い出して、気持ちが穏やかになるからだ。

東北新幹線の北上駅を降りると、北上市水泳協会の方が待っていてくれた。こんなとき、地方の方は決まって「遠いところまでありがとうございます」と言ってくれる。でもいつも私が思うのは「こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございます」という感謝の気持ちだ。

駅から車で10分ほどの場所にあるプールへ向かう。いつも地元の方は車の中でたくさん話をしてくれる。

「オリンピックって本当にすごいよね。たくさんオリンピックまでに努力した人を見てるし、その場所に立てたっていうだけですごいって身にしみてわかるんだ」と、とてもうれしいことを言ってくれる。現役時代は褒められると「私はもっと上に行きたいのに褒めないで」とか思ったりもしたが、今は素直にありがたいと思う。

「華英さんの時代はほんとうにいい時代だったと思う。戦争もなかったし、努力ができたんだから」。ちょっとした一言に人生を考えるヒントもあり、会話は本当に時間を彩るものだなと感じる。

そんな自分の競技人生を振り返りつつ、あっという間に会場に着いた。どんな会場なのかと思っていたが、活気のある高校のプールだった。敷地内では野球部を始め、サッカー、ラグビーの練習もして元気いっぱいの雰囲気だった。プールの場所がわからず、何か発表の練習をしている女子学生に「プールどこですか?」と聞くと、元気いっぱい丁寧に教えてくれた。「なんかいいなあ」と心の中で思った。

プールに着くとすぐ会長が出て来てくれて、いろいろ話をした。北上市体育協会の方もいて、手作りのイベントだった。審判員に親友の旦那さんがいて、とても安心した。地元感って大事だな。改めて感じる。参加者は老若男女さまざま。

「伊藤華英さんが来ているので、サインをもらっていいそうですー!」とアナウンスが流れると、たくさんの地元スイマーや、黒沢尻北高校水泳部の選手たちが、私のもとへTシャツやタオルを持ってやってきた。その中に私の昔のサインを持っている方がいて、この隣に書いてくださいと言ってきた。どこでどうつながっているかわからない。思わず「当時、変な態度してなかったかな」と冷や汗をかいてしまう。

引退しても、こうやってスイマーとして過ごせる時間が幸せだなと最近は思う。

隣にいて話をしてくれていた会長が、突然いなくなった。どうしたのかと思ったら、レースに出ていたのだ。これも地元の試合の醍醐味(だいごみ)。運営を行い、レースにも出場できる。参加されている方とも交流できる。

北上市体育協会の会長に「こんなイベントどう思いますか?」と聞かれた。私は、こういう小さい大会こそ大事だと思う。年代を超えて人が交流できる場所。子連れの方も多くいて、みんながその子供をどこの子供か知っている。成長を見守れる。

スポーツがいろんな人のコミュニティーの場所になっていく。スポーツの可能性は産業レベルではもちろんだが、幸福度を上げられる場所になると私は心から信じている。

大変だとは思うが、これからも北上市水泳連盟、北上市体育教会のみなさん頑張ってください!ありがとうございました。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)

最終更新:9/13(金) 21:40
日刊スポーツ

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