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プロトタイプEV「e-TPV」はマツダの目指す新しい電動化車両の姿だった

9/13(金) 10:53配信

Impress Watch

筆者のマツダBEVプロトタイプ「e-TPV」サマリー

・マツダは1966年からBEV開発を行ない電動化技術において歴史がある
・水素を燃料として燃焼させる水素ロータリーエンジンを開発しリース販売した
・研究車としてロードスターにも水素ロータリーエンジン搭載車が存在した
・水素ロータリーエンジンとシリーズ式ハイブリッドシステムを組み合わせリース販売
・プロトタイプ「e-TPV」はマツダの目指す新しい電動化車両の姿
・2017年公表の「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」がルーツ
・BEVのほかに新規開発したロータリーエンジンを組み合わせたモデルも用意
・レンジエクステンダーBEV/プラグインハイブリッド/シリーズ式ハイブリッドシステムと多様
・2019年にまずBEVを導入して展開するマルチソリューションのアプローチ

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 マツダが誇るBEV(バッテリー電気自動車/100%電気自動車)のプロトタイプ「e-TPV」にノルウェー・オスロで試乗した。ロードインプレッションは松田秀士さんの原稿に詳しいので、本稿では①マツダの電動化車両/代替燃料車両の振り返り、②なぜオスロでの試乗だったのか、③マツダが目指す電動化車両と人間中心の開発プロセス、④筆者のロードインプレッションと将来への展望を交えてレポートしたい。

■マツダの電動化車両/代替燃料車両の振り返り

 現在、世界中の自動車メーカーが電動化を目指す理由は、地球環境保全を目的としたCO2(二酸化炭素)総排出量の低減が目的。このあたりは読者の皆さんもよくご存じだろう。そうしたなか、マツダでは1966年から鉛バッテリーを二次電池としたBEVを開発、テストを繰り返し行なってきた。さらに代替燃料車両の開発として、マツダが世界に誇るロータリーエンジン技術を化石燃料の代替エネルギーの1つである水素に対応させるなど、多様なパワートレーンの開発も同時に推し進めてきている。

 1991年、マツダは水素を燃料として燃焼させる水素ロータリーエンジン第1号車である「HR-X」を開発。1993年には「HR-X2」に進化させると同時に、NA型「ロードスター」にも水素ロータリーエンジンを搭載した実験車を開発。すでにこの時点で、“走りの楽しさと環境負荷低減の両立”という今回試乗したプロトタイプ「e-TPV」に通ずる設計思想が具現化されていた。そして1995年には実証実験も進み、水素ロータリーエンジンを搭載した「カペラ カーゴ」で日本初の公道走行テストをスタートさせている。

 また、FCスタックを搭載したいわゆる燃料電池車の開発も同時に進め、1997年にはコンパクトカーの「デミオ FC-EV」を、そして2001年にはコンパクトミニバン「プレマシー FC-EV」にそれぞれ完成させ、プレマシー FC-EVでは日本初の公道走行テストも行なっている。

 2003年には水素ロータリーエンジンを搭載した「RX-8」を開発し、3年後の2006年2月にはそれをさらに進化させ、水素でもガソリンでも走行できる「デュアルフューエルシステム」を採用した水素ロータリーエンジン搭載車「RX-8 ハイドロジェンRE」として日本でのリース販売を世界で初めて開始した。

 デュアルフューエルシステムとは、搭載する13B型RENESIS水素ロータリーエンジンに、スイッチ操作によって水素/ガソリンを切り替えて走行する機構を追加したもので、RX-8 ハイドロジェンREでは運転席にそのスイッチが設けられていた。水素を燃料とした場合は109PS/14.3kgfm、ガソリンを燃料とした場合は210PS/22.6kgfmの性能を誇り、乗車定員4名、車両重量は1460kg。水素での航続距離は100km、ガソリンでは549kmと、トータル649kmのロングレンジを誇った。

 2009年には、RX-8 ハイドロジェンREで培った技術をシリーズ式ハイブリッドシステムと組み合わせた「プレマシー ハイドロジェンREハイブリッド」のリース販売を開始する。RX-8 ハイドロジェンREとの比較では、水素での航続距離を2倍の200kmに、最高出力を約40%増の150PSにそれぞれ改善。乗車定員は5名とし、実用性も高められた。

 多様な燃料を燃焼させることができるロータリーエンジンの特徴を生かしたRX-8 ハイドロジェンREとプレマシー ハイドロジェンREハイブリッドでは、水素を燃焼させた走行時のCO2排出量がゼロであり、NOx(窒素酸化物)もほぼ発生しない。さらに、水素とガソリンの燃焼を1つのエンジンでまかなえるため、既存のエンジン部品や生産設備が活用でき、低コストでの実用化が目指せる。加えて高い信頼性も備えた環境に優しいクルマとしてアピールした。

■なぜオスロでの試乗だったのか

 2007年11月、マツダはノルウェーの国家プロジェクトである「HyNor(ハイノール)/Hydrogen Road of Norway)」に対して、水素燃料と水素自動車の展開と開発を促進する目的で協力活動を行なう。HyNorとは、スタバンゲル市~オスロ市間を結ぶハイウエーの各拠点に水素ステーションを設置し、全長580kmを水素自動車で走行可能にすることを目指した計画だ。2009年4月には、マツダはRX-8 ハイドロジェンREのノルウェー仕様車(左ハンドル/MT搭載)を完成させ、同年の夏からノルウェーでリース販売を開始した。

 ノルウェーは環境保全を国家として推進し、マツダはそれに呼応した形でHyNorに参画したわけだが、近年のノルウェーでは、水素インフラだけでなく環境保全策の1つとして車両の電動化を促進する政策が目立つ。

 たとえば税制面での優遇装置が行なわれたり、無料の充電スポットを普及促進したりしたことが功を奏し、2019年3月の乗用車における新車販売台数(1万8375台)のうち、BEVは過半数を記録する。BEVのなかでもテスラの人気は高く、大量の納車タイミングと重なり5822台と約32%を占めた。こうして数値の上で現れているのだからBEV人気は本当なのだろう。しかし、にわかに信じがたいところも……。そこでオスロに赴いた筆者は、試乗前の短時間であったがオスロ市内を取材してみた。

 すると、確かにBEVを頻繁に見かけるのだ。それも日本、アメリカ、韓国、欧州と多国籍で、日産自動車「リーフ」に至っては初代も数多く走っていた。また、乗用BEV以外だけでなく商用BEV(日産「e-NV200」など)も数多く、さながらオスロ市内はEV見本市のようだ。

 オスロではBEVオーナーへの単独取材も行なった。初代リーフに乗るヨーンさんは、「このリーフは4年前に中古車として手に入れ、6万km以上走りました。静かで速く、本当に乗り換えてよかったですね。オスロ市内の公共駐車場では充電が無料だから、移動経費がかからず経済的にも満足しています。足を伸ばして遠方まで買い物に出かける機会も増えました。そしてリーフは何よりもスタイリッシュです!」と語る。

 市内から20分ほど走った郊外の充電スポットでは、ヒュンダイのBEV「アイオニック・エレクトリック」に乗るハンスさんに話を伺った。ハンスさんいわく「維持費が安くなりました。前の愛車がガソリンエンジン車のスポーツカーだったので燃料代がかさみ、さらに交換パーツも多かったのですが、今では年間の維持費が50万円ほど安くなりましたよ。私はプールで泳ぐのが日課で、クルマでの移動が欠かせませんから大変助かっています。ただ、走りの楽しさという点ではガマンしているところもありますね……。速さには満足していますが、FUNではありません」という。

 オスロ市内ではBEV以外の乗り物も電動化が進む。その筆頭は縦横無尽に走るトラムだ。オスロ市内では1875年に馬を動力源とするトラム(路面車両)が走り出し、1894年に早くもトラムは電化される。2019年は電化125年を迎えた記念として、87両の新型トラムを製造。2020年には市内を走り出すという。この新型トラムには、未来の移動体として不可欠な部分的な自動運転技術やコテクテッド技術も導入されるという。

 さらに市内では電動キックボードなる乗り物も頻繁に目にする。形はいわゆるキックボードそのものだが、前輪もしくは後輪をモーターで駆動し、車体には取り外し可能なバッテリーを搭載する。いわゆるシェアリングなのだが使い方は簡単で、スマホのアプリを通じてロックを解除するとすぐに利用可能。1回あたりの基本利用料は1ユーロほどで、1分の利用につき0.2ユーロ程度が加算される。ブレーキ付きのモデルでは右手のレバーを握り、ブレーキがないモデルでは一般的なモーター駆動ではないキックボードと同じく、後輪を覆うカバーを足で踏みつけて摩擦力で速度を調整する。

 運転そのものはとても簡単で、そしてなによりどこでも乗り捨て自由という気軽さがウケ、地元の方々だけでなく観光客の利用率も高い。ちなみに乗り捨てられた電動キックボードは、夜間に回収を担当する係が人力で集め、朝には市内要所に設けられた充電スポット兼スタンドに戻される。ほかにも電動バス(天井にパンタグラフがあり、バス停でそのパンタグラフを通じて適宜充電)や、電動アシスト機能をもった3輪車も数多く見かけた。

 なぜオスロでここまで電動化が進むのか……。こうして歩きながら取材して分かったことがある。オスロ市内の地形は海側からなだらかな上り傾斜が続いている。決して急坂ではないのだが、歩いたり自転車で移動したりすると坂道の多さを実感する。こうした土地柄に乗り物の電動化が進む理由の1つがあるようだ。

 インタビューした初代リーフに乗るヨーンさんも、「オスロは坂道が多いけど、BEVは加速がいいから乗りやすいよ」と話す。100年以上昔から電動化をともに歩んできたノルウェー・オスロ。今回、プロトタイプ「e-TPV」の試乗開催地として選ばれた理由はここにもあったようだ。

■マツダが目指す電動化車両と人間中心の開発プロセス

「マツダはBEVをはじめとした電動化車両においても走る楽しさ、走る歓びを大切にします」。こう語るのは、マツダの執行役員であり車両開発・商品企画担当の松本浩幸氏だ。欧州で2020年1月にスタートするCO2排出量目標95g/km、中国におけるNEV規制、米国でのZEV規制強化、そして日本における2050年までに乗用車のCO2をはじめとした温室効果ガスの90%を削減する長期ビジョンなど、自動車業界がクリアしなければならない課題は数多い。

 電動化車両のうち、とりわけBEVは世界各国での規制や課題に対する1つの解として期待されている。しかし、これまでCO2削減に向けては走行時にCO2を排出しないBEVであればよしとされ、ともすればBEVでなければならず、BEVこそすべてと評される極端な解釈が一部にあったことも事実だ。

 こうしたBEV気運が高まる一方で、ユーザー側から見たBEV選びはどうだろうか。車両サイズや車両価格に加えて、バッテリー容量や充電1回あたりの走行可能距離がその最たるもので、動力性能についてはBEV≒速いというイメージが先行して定着しつつある。

 マツダが新開発したBEVのプロトタイプ「e-TPV」は、これまでの「電気自動車」に対する概念にマツダ独自の設計思想を加えて形にしたクルマだ。詳細は後述するが、「走る楽しさ、走る歓びを大切する」クルマ作りこそ、マツダが目指す電動化車両のすべてということだ。

 2017年に公表された「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」では、ガソリンエンジンにおける圧縮着火を世界で初めて実用化した「SKYACTIV-X」導入とともに、「地球」領域でのコメントではマツダのCO2削減に向けた取り組みと、電動化車両に対するスタンスが公言されている。要約するとこうだ。

A:クルマのライフサイクル全体(LCA)を視野に入れたWell-to-Wheelで、本質的なCO2削減。
B:Well-to-Wheelでの企業平均CO2排出量を、2050年までに2010年比90%削減を視野に2030年までに50%削減を目標。
C:実用環境下における燃費改善とエミッションのクリーン化の効果を最大化。
D:CO2の削減に最も効果のある内燃機関の理想を徹底的に追求し、効率的な電動化技術と組み合わせて導入。
E:クリーン発電地域や、大気汚染抑制のための自動車に関する規制がある地域に対して、EVなどの電気駆動技術を2019年から展開。

 A~Dでお分かりの通り、マツダはBEVこそCO2削減の唯一の救世主であるというスタンスにはない。AにおけるLCAを視野に入れたWell-to-WheelでCO2削減、そしてDにおける内燃機関を徹底的に追求しつつ、効率的な電動化技術を組み合わせるという要素を育て上げることでCO2削減を目指すと明確に示しているのだ。

 その上でEに記されているとおり、国と地域の状況に応じてBEVを導入する、これこそマツダが描いているBEVを筆頭にした電動化車両の導入プランである。

「人の能力を生かすこと。こうしたクルマ作りはBEVをはじめとした電動化車両でも継続します」と語るのは、マツダの商品開発本部で副本部長を務める田中松広氏だ。その中核となるのは、日本を含めた各国市場において導入されている「MAZDA3」から本格的に具現化された「次世代ビークルアーキテクチャー」であり、BEVのプロトタイプ「e-TPV」にも採用されている。

 田中氏は続けて「歩くことと同じようにバランスさせて走ることが可能になれば、意識せずに自然な走りが楽しめる、つまり人馬一体がここに誕生します」と語る。田中氏によると、人は道具を使うことで進化をしてきたわけだが、その道具と身体を同化させることに、“究極の人馬一体”へと近づくヒントがあるのだという。言い方を変えれば、“道具の動きにくさが分かること”こそ、道具を理解して自分のものにする第一歩になる。

 たとえば金槌で釘を打ち込むシーンを想像してほしい。金槌の頭にある金属部分が釘のどの部分にあたるのか、ここに意識の大部分がもっていかれるはずだ。反対に、どのように柄を握っているのかにはあまり意識がいかないと思う。道具を身体の一部として考えた同化がここにある。

 一方、金槌を前後に振り下ろしてみると金属部分の重みを実感する。当然、金属部分には重さがあるから、柄に力をこめて前後に振り下ろされるまでにはわずかなズレが生じる。これを「位相差」と呼ぶ。さらにこの位相差は動きにくさをして理解されるわけだが、この動きにくさを(厳密にはもっと複雑な要素が絡み合っているが)「慣性テンソル」と呼ぶ。

 なんだかややこしいが、これをクルマの動きに当てはめると分かりやすい。たとえばステアリングを握る、これは前述した金槌の柄を握ることと同じ。そして握った手を動かしてステアリングを左右に操作する。これは金槌を前後に振り下ろすことと同じだ。ステアリングを握り、向かいたい方向に動かすわけだが、クルマの動きにはステアリング操作からわずかなズレが生じる、これが位相差だ。さらにこの位相差は、クルマの重さや路面の状況などによるもので、この動きにくさこそクルマがもつ慣性テンソルだ。

 つまり、ドライバーの動きとクルマの動きにはタイムラグがあり、故に潜在的に動かしにくい。これを次世代ビークルアーキテクチャーでは、ステアリング/アクセル/ブレーキの各操作を通じて、前後左右どの方向に対してもクルマが遅れて動く位相差を一貫させようと設計した。言い換えれば、クルマの動きにくさである慣性テンソルを活かし、前後左右どの方向への荷重移動であってもドライバーが自在にコントロールできるようにしたのだ。

 BEVのプロトタイプ「e-TPV」では、道具と身体を同化させることを開発目標に定めた。その実現に向けて、「多方向環状構造ボディの採用」「モーターペダル」「Gベクタリングコントロール」、この3要素を電動化車両向けに新規開発している。

 多方向環状構造ボディは、MAZDA3から採用されている新しい骨格にプラスして、車体フロア部分に配置する角型のリチウムイオンバッテリー(総電力量35.5 kWh/総電圧355V)のケースを骨組みで形成して剛性を高めながら、フロアとの結合部分の形状にもあらゆる方向からの応力計算を施して高い剛性を持たせた。結果、車両前部から車両後部への遅れを24%短縮することができた。

 モーターペダルは、プロトタイプ「e-TPV」の注目技術だ。田中氏曰く「自らの筋肉のようにモータートルクをコントロールする」ことを目指したモーターペダルは、乗員の視線や姿勢の変化を抑える緻密なトルクコントロールを得意とする。また、ドライバーの踏み込むペダル操作に応じて、擬似的なサウンドでトルクの向きと大きさを実感させている。この擬似的なサウンドとは、低周波の割合/ピーク周波数の割合/音の大きさ、この3つをコントロールするもので、人が成長過程で見つけてきた自然界の力と音の関係を活用したものだ。

 G-ベクタリングコントロールは、すでにマツダ各モデルで馴染みのある技術。プロトタイプ「e-TPV」では、電気モーターの強みを活かし、作動領域を内燃機関モデルから増加させた。具体的には、内燃機関モデルのG-ベクタリングコントロールでは効果を出しづらかったアクセル操作をオフにした下り坂などでの制御を、プロトタイプ「e-TPV」ではモーター回生制御を活用することで一貫して制御が行なえるようになった。これにより、路面の状況に左右されにくい制御が期待できる。

■筆者のロードインプレッションと将来への展望

 プロトタイプ「e-TPV」の試乗は、オスロ市内からクルマで20分ほど走った湖のほとりをベースに、その周囲の一般道と高速道路で行なわれた。一般道はノルウェーの自然地形を活かしたコース。山並みをそのまま活かし、舗装して道路を作り上げた。日本の山道とは違って高低差はさほどないものの、横断勾配と縦断勾配が重なり合い、さらにカーブの外側へと傾斜がつきアンダーステアになりやすいスパイラルバンクや、ブラインドコーナー、極端に曲率のきついカーブや狭い道幅、部分的に荒れた路面など、試乗シーンとしてはかなり厳しい条件が重なる。

 入念にシートやステアリング位置、ミラー位置を調整してスタートする。シフトレバーには新しい方式が採用された。Pレンジの位置から、最初にレバーを右に動かしてRレンジ、そこから一段下げてNレンジ、そして下段がDレンジとなる。駐車場ではモーターペダルの感触を探るべくじんわり操作。正直、この時点ではモーターペダルらしさは感じられず、フツーの操作フィールだ。擬似的なサウンドも10km/h程度では実感が薄い。なお、ブレーキにはECB(電子制御ブレーキ)機構を採用する。

 コースに入り、ゆっくりモーターペダル(アクセルペダル)を踏み込む。すると、これまでのBEVとはまったく異なる加速を披露する。分かりやすく表現すれば、一般的なBEVの加速よりもかなり穏やかなのだ。「アレっ、なんだ、この肩すかし感は……」と思いながら、ブラインドコーナーを1つ、2つクリアする。試乗は土曜日とあって、湖畔の道路にはサイクリングを楽しむ方々も多い。加えて初めての道路であるため、いつも以上に周囲へと意識を配ることが多くなる。と同時に、自分の運転操作に対する異変にも気がついた。これまで筆者が乗ってきた乗用/商用のBEVでは繊細なアクセルペダルが求められ、車両によっては右足操作に神経の大部分がもっていかれて気疲れしてしまうことがあった。

 プロトタイプ「e-TPV」ではそうした気疲れが一切ない。というより、よくできた内燃機関の車両に似ていて、自然と身体に馴染む特性が与えられている。大げさではなく、筆者の愛車であるND型ロードスターで慣れ親しんだ加減速特性に極めて近いと感じた。

 じつは、これこそモーターペダルの醍醐味で、人が慣性テンソルを意識しやすいように、モーターが緻密な制御しているからにほかならない。言葉や理屈で説明するとやっかいだが、あつらえたスーツやワンピースを纏ったかのように身体の動きにクルマが自然とついてくる、そんなイメージだ。

 擬似的サウンドの効果も高かった。前席スピーカーから出されるサウンドは、ドライバーがモーターペダルを踏み込む/戻す速度や量に応じて変化する。グッとペダルを踏み込むと、車両前部から「ぶわーっ」といったルーツ式のスーパーチャージャーにも似た音色で、いかにも力がありますよと言わんばかりの低い音が聞こえてくるのだ。

 反対に、一般的なBEVで目立つインバーターを主体とした高周波の金属音はペダル操作に対してほとんど目立たず、意識してやっと聞き取れる程度だ。とはいえ、厳密には発進から10km/h程度まではインバーター音が目立っている印象。これについて、同乗いただいた技術者曰く「インバーター音は徹底的に消しています。残る10km/h程度までのインバーター音も市販されるまでにはなくします」という。

 サウンドの効果はほかにもあった。加速や減速に対して車速コントロールが容易になることだ。加速時に高まるサウンドは、一定のペダル開度を保った状態ではボリュームを落としつつ一定音量で発せられ、さらに減速時にはサウンドの音域が低くなる。つまり、内燃機関と同じように、走行時はいつもこのサウンドがついてまわるのだ。誤解のないように付け加えれば、サウンドは決して大きな音ではない。MAZDA3のガソリンモデルと比較しても小さいくらいだ。ただ、遮音性能が高いこともあって、微妙な変化を運転しながら感じ取ることができる。結果、速度計を意識することなく車速の増減が体感できるから運転のリズムもつかみやすい。

 さらにこの特徴を活かすと、一定の車速を保つことも簡単に行なえた。とかくBEVではパワー特性が敏感なモデルが多い。よって市街地走行などではアクセルペダルから足が離れている時間がわりとある。その点、プロトタイプ「e-TPV」では内燃機関の車両がそうであるように、一定速度を保ちやすく、さらにペダル操作に対して反応が自然であるから疲れが少ない。「計測機器を用いると、多くのドライバーがミリ単位でアクセル操作を行っていることが分かりました。e-TPVではそうした従来の運転操作も継承し、運転しやすさとして実感いただいています」(前出のマツダ技術者)という。

 高速道路ではモーターペダルを最後まで踏み込んだ。ペダルストロールは75mm程度というから、一般的な内燃機関モデルとほぼ同じだ。すると105kW/265Nmというモータースペック通りの加速を披露した。ペダルをグッと踏み込めば一般道で感じた緩慢さは消え、相応の速さを実感できる。プロトタイプであるため、最高速は120km/hに制限されているというが、少なくとも20km/h→100km/hまでの加速力において不満はなかった。「定格出力は厳しい欧州基準に設定してありますし、最高出力に関してもまだまだ余裕があります」(マツダ パワートレーン開発本部主査 大久晃氏)というから、この先の展開が楽しみだ。

 ワンディング路面では、多方向環状構造ボディによる高いボディ剛性とサスペンションの取り付け剛性に感心した。公表されていないが、1700kg程度の車両重量があるにも関わらず、本当に前後左右の位相差が一貫していて、自然と走らせることができる。さらに、低速域から高速域にいたるまでサスペンションがしっかりと動いていて、安定した接地感を体感できた上に、乗り心地も抜群によかった。正直、テストコースで試乗したMAZDA3はガソリン/ディーゼルともに乗り心地に関してはやや渋い印象をもったが、「e-TPV」はまるで違う乗り味に仕上がっていた。

 Gベクタリングコントロールのモーター回生制御も、実際の道路環境での効果が高かった。初めての試乗コースとあって、時に下り坂のカーブではステアリング操作が遅れてしまうこともあったが、すぐさま制御が入り、ライントレース性能を高めてくれる。また、平坦路でも効果を実感。高速道路の本線へと合流する際も、クロソイド曲線区間から通常の円区間への連続がよりスムースに行なえる。具体的には、むずかしいことを考えずに向かいたい方向に目線を向け、適正なステアリング操作を行なっていれば、そこから切り足さず、切り戻さずとも一定のステアリング舵角できれいにカーブを通過できるのだ。

「e-TPV」はマツダの電動化車両を担う第1弾として、2019年の東京モーターショーでお披露目される。今回は「CX-30」のボディを纏っていたが、「東京モーターショーで披露するモデルはまったくの新規開発ボディです! まだ最終デザイン段階で手直しを入れているのですが150%の総力で取りかかります」(松本氏)とのことだから、大いに期待したい。

 また、2020年以降にはこのBEVをベースにロータリーエンジンを組み合わせた、レンジエクステンダーBEV/プラグインハイブリッド/シリーズ式ハイブリッドシステムの登場が控えている。ロータリーエンジンは新規開発(排気量はやや大きめか?)で1ローター方式が用いられる。「マツダはBEVをはじめとした電動化車両においても走る楽しさ、走る歓びを大切にします」という言葉を信じ、市販モデルを楽しみに待ちたいと思う。

Car Watch,西村直人:NAC

最終更新:9/14(土) 6:22
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