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<それぞれの8年半>東電旧経営陣判決を前に[3]明確な企業責任を追求

9/14(土) 11:30配信

河北新報

 山あいの土地に、大きく伸びた草木がびっしりと生い茂る。ハチがニセアカシアの花々を飛び交い、甘い蜜を運んでいた養蜂園の面影はない。

 東京電力福島第1原発が立地し、全域避難が続く福島県双葉町の帰還困難区域。「すっかり雑木林に戻ってしまった」。8月9日、避難先のいわき市から久しぶりに訪れた小川貴永さん(49)がつぶやいた。

■生活基盤失う

 東京からUターンし、30代半ばで就農した。耕作放棄地約1.6ヘクタールを取得して2年かけて開墾。収穫した蜂蜜が品評会で高い評価を受け、加工品の販売にも手応えを感じ始めた頃に事故は起きた。

 「人生を歩むための生活と生産の基盤が一瞬でなくなった」。双葉地方の豊富な食材を生かし、友人2人と営む農家レストランを建設中だった。海も山もある豊かさ、人々とのつながり…。1歳と0歳だった息子が、古里の記憶を育む機会も奪われた。

 なのに、被害を加えた側が一方的に賠償額を決めているのはおかしい。古里喪失に伴う慰謝料など損害賠償を東電に求め、双葉地方の住民らが2012年12月に起こした集団訴訟に参加した。原告団の事務局次長を務める。

 18年3月に出た福島地裁いわき支部判決は国の中間指針を超える賠償を一部認めたが、水準は低く、住民側と東電側の双方が控訴した。仙台高裁での審理は終盤を迎えた。

 現在の賠償は、過失の有無にかかわらず事業者が賠償責任を負う原子力損害賠償法に基づく。「巨大津波は予見できず、事故の回避も不可能だった」と過失を否定し続ける東電。

 東電の企業としての責任が不明確なことが一番の問題との思いが強い。「企業責任が曖昧だから賠償の判断も曖昧になる」。その理屈は復興の在り方にも通じると感じる。

■「薬と毒共存」

 町は22年春を目標に中心部でインフラを整備し、居住開始を目指す。第1原発は廃炉作業が続く一方、町内では除染廃棄物の中間貯蔵施設の整備も進む。

 「狭い範囲に薬と毒が共存し、両方が同時並行する厳しい現状。事故責任をはっきりさせ、けじめをつけなければ薬と毒が混じり合い、真の復興は望めない」

 昨年夏、町民が多く暮らすいわき市勿来町酒井地区の災害公営住宅の一角に飲食店を開いた。会津地鶏や川俣シャモなど県産食材の料理を提供。将来は双葉町内で1次産業の生産と加工を復活させようと、技術を磨く場とも位置付ける。

 東電旧経営陣の刑事責任が問われた裁判を「組織の責任を明確にする意義は大きい」と注目している。

 「津波が悪かった、で終わっていいのか。次に生かさないと、われわれがこれだけの被害に遭った意味がなくなってしまう」

最終更新:9/14(土) 12:33
河北新報

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