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草なぎ剛、「正確な等身大」を体現する俳優としての成熟

9/14(土) 8:10配信

オリコン

 草なぎ剛は、すでに日本を代表する名優のひとり。だから、彼がいくらすばらしい演技を披露したとしても、それは特別驚くべきことではない。彼なら当然。そうつぶやくだけで充分である。

【写真】突き飛ばされて鼻血を流す“クズ”な草なぎ剛

 たとえば、彼の映画や舞台を観たことがない人がいるとする。ひょっとしたら、そのような人は、なんとなくのパプリックイメージ(そもそもパプリックイメージとは「なんとなく」のものである)で、「草なぎ=いいひと」という漠然とした印象のまま、俳優としての彼も捉えてしまっているかもしれない。

 だが、パブリックイメージなんぞをいくらなぞっても、才能の真価にたどり着くことはない。俳優・草なぎ剛のほんとうの実力を知るためには、まずは劇場に駆けつけるべきだ。ちょうど主演映画『台風家族』が公開されている。

■実に7年ぶりの主演映画『台風家族』で見せた進化

 もし、あなたが草なぎ剛に「おっとり」したイメージを抱いているとしたら、それは必ずや覆るだろう。なぜなら、俳優としての草なぎ剛はとてもソリッドだから。それは、もし「おっとり」とした性格の役を演じていたとしても変わらない。ソリッドに「おっとり」を構築している。

 草なぎの芝居は、精緻であると同時に本能的である。演技者としての彼は、俊敏で獰猛な獣に見えるときもあるし、生まれながらに磨き上げられた鋼鉄に思えるときもある。演技の軸が太く、しっかりしていて、何が来ようとも、どんなことが起きようともブレることはない。そして、「どっしり」と瞬発力が、当たり前に共存している。

 彼は人間の深遠を体現することができる。それは単に謎めいたキャラクターをものにできるということにはとどまらず、ごく普通の人間の奥底にある、本人も気づいていない「蠢く何か」をかたちにできる、ということだ。つまり、無意識を、明確に、あるときは劇的に、そして激烈に、表現する。だから、観る者に突き刺さる。

 人物の意識以上に、人物の無意識が、矢のように飛んでくる。それを避けることはできない。矢は容赦なく、わたしたちを突き刺す。だが、突き刺さっているのは無意識だから、わたしたちは途方に暮れる。感動のことをよく「胸を打つ」と表現するが、草なぎの芝居に接すると、「胸が貫かれる」のである。

 純然たる主演映画は久しぶりだ。
 近作『まく子』は主人公の父親役だったし、今回も共演している尾野真千子との「光へ、航る」はオムニバス『クソ野郎と美しき世界』の一編だった。その前の宮藤官九郎監督作『中学生円山』は名前こそトップクレジットだったが、実質はキーパーソン役であり、主演とは異なる位相を身にまとっていた。

 だから『台風家族』は、『任侠ヘルパー』以来、実に7年ぶりの主演映画と呼べるだろう。そして、この7年の月日は、主演俳優としての草なぎを明らかに進化させているように思える。

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最終更新:9/16(月) 4:25
オリコン

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