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原発が座礁資産に 欧州「勇み足」 IEA懸念「運転延長を」

9/14(土) 7:15配信

SankeiBiz

 米国の石炭産業は「石炭はFour letter word(4文字言葉)ではない」と言っている。Four letter wordとは、言ってはいけない言葉を意味する。言ってはいけない言葉の多くが4文字であることからこう言われるが、石炭(Coal)はその4文字言葉になってきたようだ。

 欧米の機関投資家は近年、ESG(環境・社会・企業統治)の視点を重視する姿勢を強めている。投資対象から外される産業として、カジノ、たばこ、アルコールが挙げられることが多いが、そこに石炭も加えられることが増えてきた。

 石炭火力発電所の二酸化炭素(CO2)排出量が相対的に多いため温暖化対策上、望ましくないことに加え、将来、石炭関連産業の破綻もあり得ることが、投融資の対象から外す理由だろう。例えば、将来排出するCO2に価格付けが行われると、石炭火力の競争力が失われ、操業ができなくなる事態が想定される。

 そうした中、欧州連合(EU)では最近、原子力についても投資不適格とする動きが出ている。

 欧州委員会(EC)では昨年5月以降、環境、温暖化問題を考慮した投資の基準づくりを行っている。低炭素エネルギー源への投資を誘導するためだが、欧州議会は今年3月、原子力発電所、天然ガスインフラ、化石燃料関連産業を投資対象にしないことを決議した。投資基準に関する最終案がどうなるかはまだ不透明だが、この決議は物議を醸すかもしれない。

 国際エネルギー機関(IEA)は、温暖化対策とエネルギー安全保障を進めるうえで、原発の発電量が将来減少することは問題と警鐘を鳴らしている。同時に、欧州でも原発の経済効果を考慮すべきだとのリポートが出され、欧州議会の決議とは相反する方向性が示されているのだ。欧州議会の決議は勇み足なのだろうか。

 ◆環境投資促すEU

 ECは昨年5月に会見を行い、気候変動問題の解決に寄与する事業への投資を促すための分類基準(Taxonomy)の作成に着手すると発表した。温室効果ガスの排出を2030年に1990年比40%以上削減するというEUの目標を達成するには、欧州だけで2030年までに毎年1800億ユーロ(約22兆円)の低炭素事業への投資が必要になるとされる。公的機関だけでこれを賄うのは困難なため、民間資金を動員するための基準が必要になった。投資を促すには、各分野で温暖化対策に真に寄与する事業を示す必要があるため、各分野の専門家を集め、科学的な証拠に基づき持続可能な経済活動の基準を作成する。これにより透明性を確保し、環境案件に資金を集めることを狙う。基準は19年末を目標に策定される見通しだ。

 欧州議会は今年3月28日、この基準づくりに関し原子力発電、化石燃料、天然ガスインフラを持続可能な投資対象から除外することを決議した。この直前の3月14日には、欧州議会が30年の排出削減目標を1990年比40%削減から55%削減に引き上げるべきだと決議しており、原子力抜きで上方修正された目標の達成を求めたことになる。

 欧州議会の決議でもっとも大きな影響を受けるのは、発電電力量の約75%を原子力で賄っているフランスだろう。EDF(仏電力公社)によると、原発の運転期間延長には2025年までに550億ユーロ(6.6兆円)、30年までなら1000億ユーロ(12兆円)の資金が必要になるとみられている。原発が投資対象から外されれば、資金調達に支障を来すことになる。

 分類基準づくりの議論は続いているが、ドイツがその議論をかき回している。ドイツは基準を公表すべきでないと主張し、他の主要EU加盟国から「非公開にすれば基準をつくる意味がない。非公開はあり得ない」と反論されているとの報道がある。ドイツはEUの温室効果ガス削減目標の引き上げにも反対している。低炭素案件に投資が集中し、他の案件の資金が不足する事態を懸念しているのだろうか。

 欧州議会の原発除外の決議後、欧州原子力産業会議(FORATOM)とIEAが相次いで原子力発電の必要性を訴えるリポートを発表した。IEAのリポートは、電源の競争力、エネルギー安全保障、温暖化問題を考慮した場合、先進国では既存の原発を維持する必要があり、運転期間延長を検討すべきだとの内容だった。

 FORATOMのリポートは、デロイト・トウシュ・トーマツの分析を基に、原子力発電が欧州経済にもたらす効果は大きく、運転期間を延長し経済効果をさらに享受することが必要との内容だった。いずれも欧州議会の決議に冷や水を浴びせることになった。

 FORATOMは今年4月下旬、リポート「経済的及び社会的影響(Economic and Social Impact Report)」を公表した。リポートでは、原子力発電は現状、大きな経済効果をもたらしており、2050年に向けて発電量を維持、拡大しなければいけないと強調している。

 5月下旬には、IEAがリポート「クリーン・エネルギー・システムにおける原子力発電(Nuclear Power in a Clean Energy System)」を公表した。気候変動対策上、原子力発電が必要にもかかわらず、先進国では設備の老朽化が進み、このままでは温暖化対策、エネルギー安全保障上、大きな問題が生じる可能性があると警鐘を鳴らし、既存原発の運転期間延長を先進国に促している。

 ◆天然ガスに依存も

 原発の平均稼働年数はEUで35年、米国で39年に達しており、先進国では25年までに現在の原発の4分の1が閉鎖予定になっていると、IEAリポートは指摘している。もし既存原発の運転延長が行われないと、40年までに現行設備2億8000万キロワットの約3分の2が閉鎖され、9000万キロワットまで減少すると予測している。

 そうなった場合、天然ガスへの依存度が増し、40年までにCO2排出量が40億トン増加するという。さらに、電源と送電網などに対し40年までに1.6兆ドル(約180兆円)の追加的投資が必要になるとリポートは指摘している。そのため、経済性がある既存設備の運転期間延長と小型炉(SMR)開発の支援などを政府は検討すべきだとしている。

 気候変動対策に加えてエネルギー安全保障面でも既存原発の運転延長が大きな課題として注目され始めている。日本もこうした課題を改めて認識する時期にきたようだ。

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【プロフィル】山本隆三

 やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。京大卒業後、住友商事に入社。地球環境部長などを経て、2008年プール学院大学国際文化学部教授、10年から現職。財務省財務総合政策研究所「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」、経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在、国際環境経済研究所所長、NEDO技術委員などを務める。著書に『経済学は温暖化を解決できるか』(平凡社)、『夢で語るな日本のエネルギー』(マネジメント社)など。

最終更新:9/14(土) 7:15
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