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ロシアとアメリカは新たな冷戦に突入しようとしているのか/小泉悠氏(東京大学先端科学技術研究センター特任助教)

9/14(土) 20:43配信

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 20世紀後半の国際秩序を支配した東西冷戦が終結して約30年。世界は再び新たな冷戦時代に突入しようとしているのか。

 先月8日、ロシア北部のアルハンゲリスク州沖の軍実験施設で5人が死亡6人が負傷するという爆発事故が発生した。直後から近隣の町セベロドビンスクで高い放射線量が記録され、ヨウ素剤を買い求める住民の姿などが確認されたことから、軍事専門家の間ではロシアが開発中の新兵器・原子力巡航ミサイル「9M730ブレヴェスニク」の実験中に何らかの爆発が起きたとの見方が有力となっている。

 原子力巡航ミサイルは昨年18年3月にプーチン大統領が米国のミサイル防衛計画に対抗するために発表した6種類の新型兵器のひとつで、実現すれば事実上半永久的に飛び続けることができるため、普段からこれを多数飛ばしておけば、仮に核攻撃を受けて自国の核兵器が無力化されても、予め飛ばしておいたミサイルによる反撃が可能になるという夢のような兵器だ。ロシアは他にも水中ドローン兵器「ポセイドン」や音速の10倍の速度で飛行できるミサイル「キンジャール」などの新兵器を開発中、もしくは既に配備しているという。

 ロシアによる一連の新兵器の開発は、米露間の新たな軍事的緊張を生み出している。しかも、昨年10月にトランプ大統領がINF全廃条約の破棄を表明し、今年8月2日に失効したことで、両国が新たに核兵器開発競争に突入する恐れが現実のものとなっている。

 1987年にレーガン大統領とゴルバチョフ書記長の間で調印されたINF全廃条約は、射程が500キロから5,500キロの中距離核戦力を全面禁止するというもので、人類が初めて特定の兵器を全面的に破棄したという意味で、象徴的な意味も持つ画期的な条約だった。

 この枠組みが壊れたことで、ロシアが極東に中距離核を配備すれば、日本も丸々その射程内に入ることになる。それに対抗するためにアメリカも東アジアに中距離ミサイルを配備することになり、昨今の米韓関係の冷え込みなどを考えると、その配備先が日本になる可能性が非常に高い。米露が新冷戦に突入すれば、日本も大きな影響を受けることが必至だ。
 
 しかし、それにしてもなぜ今、再び冷戦なのか。かつての冷戦は自由主義陣営と共産主義陣営のイデオロギーを巡る対立を前提としていたが、今アメリカとロシアが再び軍事的に対峙する必然性はどこにあるのだろうか。

 軍事アナリストでロシアの政治・軍事情報に詳しい小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター特任助教は、米露間で新冷戦が再燃する可能性は高くないとの見方を示す。プーチン肝いりの新型兵器にしても、50年以上前から構想されていたものを今になって引っ張り出してきた感があり、軍事の専門家の間では利用価値のない代物ばかりだとの指摘が多いという。そもそも今のロシアには、ソ連時代のようにアメリカと競うほどの国力はない。

 しかし小泉氏はまた、未だにこういう兵器を本気で開発しているところに、ロシアの危うさが潜んでいるとも指摘する。ロシアの軍事関係者は今でもアメリカと全面戦争に突入する可能性を本気で考えている。ロシアは今でも自国の勢力圏をアメリカから次々と浸食されているとの思いが強いため、一歩間違えば「博士の異常な愛情」的な、常識で考えればあり得ないような事態が起きる可能性を完全に排除することができない。

 2021年に期限を迎える新START(新戦略兵器削減条約)も、今の情勢では延長されない可能性がでてきている。地球を破滅させるのに十分過ぎるほどの核兵器を持ったまま、これを廃絶できないでいる今日の世界にあって、ギリギリの秩序を守ってきたのが、INF全廃条約と新STARTだった。

 米ソ、米ロは1969年のSALT1(第1次戦略兵器制限交渉)を皮切りにSALT2(第2次戦略兵器制限交渉)、ABM条約(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)、START1(第1次戦略兵器削減条約)、START2(第2次戦略兵器制限交渉)などを経て、現在の新START(新戦略兵器削減条約)とINF全廃条約によって、一時は6万発を越える核弾頭を現在の1万5千発レベルまで減らしてきた。

 しかし、この2つの条約が効力を失えば、米露両国が再び核開発競争の愚を繰り返す可能性が否定できない。しかも、今度の冷戦は中国やインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮といった新たな核クラブのメンバーも巻き込んだ複雑な連立法定式になる。何をしでかすかわからない北朝鮮は言うに及ばず、台湾海峡有事の可能性やイランによる核開発の再開を警戒するイスラエル、カシミールを巡るインパキの対立など、今日の世界は核保有国をめぐる不安定な要素には事欠かない。

 今回のマル激は、突如として不安定化の様相を見せ始めた国際政治の現状とロシアの世界戦略、INF全廃条約破棄後の世界が安定を保つことができるのかなどについて、小泉氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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小泉 悠(こいずみ ゆう)
東京大学先端科学技術研究センター特任助教
1982年千葉県生まれ。2005年早稲田大学社会科学部卒業。07年同大学大学院政治学研究科修士課程修了。外務省国際情報統括官組織専門分析員などを経て19年より現職。著書に『プーチンの国家戦略 岐路に立つ強国ロシア』、『帝国ロシアの地政学』など。
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(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)

最終更新:9/18(水) 15:56
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