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旅客機の感覚学ぶジェット機訓練 特集・JALパイロット自社養成再開から5年(2)

9/15(日) 13:15配信

Aviation Wire

 現在の訓練施設がある米フェニックスで、再開後初の授業が開かれてから8月21日で5年が過ぎた日本航空(JAL/JL、9201)。2010年1月の経営破綻や、2013年10月のA350導入決定を機に、JALはパイロットの訓練方法を大きく変えた。訓練の初期段階から機長と副操縦士の2人乗務(マルチクルー)を前提とした「MPL(マルチクルー・パイロット・ライセンス)」を導入し、チームで運航する能力を訓練の初期段階から身につけるようにしている。

【フェニックスでのジェット機訓練】

 前回は訓練最初期にあたるプロペラ機DA-40による訓練を取り上げたが、第2回目の今回は次の段階であるジェット機訓練。プロペラ機8カ月とジェット機6カ月の約1年2カ月、天候などで飛べない日なども加味するとおおむね1年半弱におよぶフェニックスでの訓練はここまでで、その後はシミュレーター訓練を経てボーイング737型機の実機訓練に入る。

 フェニックスにはいくつか空港があり、JALの場合はプロペラ機がファルコンフィールド空港、ジェット機はメサ・ゲートウェイ空港で訓練する。訓練で使用する機体は委託先であるCAEのグループ会社が保有し、ジェット機訓練で使うセスナ サイテーションCJ1+も、同社がJALの訓練を受託したことで導入したものだ。(肩書きは取材当時)

◆30分以内にフライトプラン作成

 ビジネスジェットで訓練、と聞くとぜいたくだと受け取る人もいるかもしれないが、訓練生たちは航空会社のパイロットである以上、さらに大きな737や最新鋭のエアバスA350 XWBにいずれ乗務することになる。そうであれば、これらの機体に近い操縦特性を早い段階から学ばせ、現在の訓練で重視しているパイロット同士のチームワークの醸成に重みを置いた方がいい。

 「訓練生にとって初めてのジェット機で、双発機。車輪も上がる飛行機として、CJ1を選びました」と、自らも現役機長でフェニックスで飛行訓練を担当する教官の本郷猛さんは語る。単にジェットエンジンの機体であるだけでなく、離着陸時のフローも含めて実際に乗務する機体に近いものを選んだ。

 ジェット機訓練課程の最初は座学が約4週間で、ジェットエンジンの仕組みやシステム、双発機の特性などを学ぶ。フェニックスでは従来5週間ほど座学にかけていたが、内容を見直すことなどで4週間程度に短縮した。その後、エンジンが停止して単発になった状態や、急減圧といった緊急事態をまずシミュレーターで体験し、実機訓練に進んでいる。

 実機訓練では中距離のクロスカントリーなどを行い、混雑が激しい空港にも離着陸する。プロペラ機で片道1時間ほどかかったところも、ジェット機では20分で着くという。IFR(計器飛行方式)による計器進入や、VFR(有視界飛行方式)での着陸など、実際の商業運航便で必要とされる操縦技術の経験を積んでいく。

 シミュレーター訓練は最初だけではなく、悪天候など随所に盛り込まれている。実機で危険なことはまずシミュレーターで経験し、試験に合格しなければ次の課程に進めない。悪天候でも実機を飛ばさないといけない段階までくると、「ロングビーチ、オンタリオ、ビクタービル、ラスベガス、エルパソの5空港のどこかに向かうのですが、どこに行くかは当日朝まで訓練生には伝えません」と、本郷さんは説明する。

 訓練生の飛行をチェックするチェッカーと5空港を確認し、説明が終わったところで訓練生に行き先が言い渡される。その後、訓練生は30分以内にフライトプランを作成し、ウエイト&バランスなどを決めていく。ラスベガスからメサ空港へ戻る際は夕日が正面にあって見にくく、冬場は夕方5時を過ぎれば暗くなるなど、徐々に難易度が高まっていく。

 本郷さんは「外国人には日本ほど運航が大変なところはないです。春の嵐や梅雨、台風、降雪と季節で変化し、タービュランスが多いのは日本と韓国上空。世界的に見ると変化が激しいところです。ここは砂嵐があるので、視界が悪くなりますね」と、フェニックス固有の難しさに触れた。

 ジェット機の訓練もプロペラ機と同様、普段はCAEの教官が教えるが、チェックはすべてJALの教官が担当する。「CAEの教官は、エアラインや米軍で大型機を経験した人が多く、737の経験者もいるので安心して教えてもらっています」(本郷さん)と、操縦の基礎的なことはCAEの教官、JALとしてパイロットに求める技量などはJALの教官と役割を分担している。

◆操縦特性やFMSで機種選定

 パイロット訓練生が最初に飛ばすジェット機CJ1。双発で車輪が上がるだけではなく、コックピット内でのパイロット同士のやり取りも重視した機種選定だった。

 ひとつは、FMS(フライト・マネジメント・システム)が実際に商業運航で使用する機体と同じ操作になる点だ。「ライン(商業運航)で使われているものとセリフや操作が同じです。しかし、機体が大きいと燃料を多く消費するので、大きさや操縦の難易度、FMSという要素を考えると、選択肢はそれほど多くはありませんでした」と本郷さんは話す。

 機体の重さも、操縦時に大きな影響を与える。「737など実際に運航する機体の重さを考えると、あまりにも軽いと再現性がありません」と、機体をコントロールする際の重さも選定理由だった。「着陸時にパワーを絞った時を除くと、すんなり入れます」(本郷さん)と、実際の運航に近い操縦特性もCJ1を選んだ理由だった。

 CAEは2機のCJ1を用意。平日に訓練し、土日に整備している。コックピットでは教官が左席、訓練生が右席に座り、燃料が満タンであれば片道3時間から4時間程度の訓練飛行が行える。

◆「勝手に感動して、勝手にジーンとしてしまう」

 CJ1によるジェット機訓練が大詰めを迎えることは、訓練生にとってはフェニックスでの訓練が終わりに近づいていることを意味する。本郷さんたち教官にとっても、1年以上教えてきた訓練生を最後まで教え、帰国させることになる。

 「最後の訓練をチェックした時には、エアライン形式のフライトができていました。こちらがうるっとしてしまいました。掛け合いをやっていると、ラインで飛んでいるみたいで、よくここまで来たなと感じました。まったく飛べなかった人が、副操縦士になっていくんです」と本郷さん。

 「ところどころ苦労していた訓練生も、フェニックスに来て一番良いフライトができていて、言うことがありませんでした。勝手に感動して、勝手にジーンとしてしまって。本人たちは必死にやっていると思います。彼らが実感できるのは、しばらくしてからでしょう」と、訓練生の成長を喜んだ。

 訓練生のフライトにコメントすることがない場合は、今後想定されることをアドバイスするという。

 2014年8月にフェニックスでの訓練がスタートした時点では、CJ1が1機だったことや、立ち上げ当初で教官が少なかったこともあり、訓練生は1年5カ月ほどで帰国していた。現在はCJ1が2機になり、教官も増えたことで1カ月短縮され、1年4カ月でフェニックスでの訓練を終えている。

 「常に改善するプロセスをまわしていかないといけません。データや訓練生へのアンケートなどを基に手を加えています」(本郷さん)と、教官たちもよりよい訓練を日々模索している。

(つづく)

Tadayuki YOSHIKAWA

最終更新:9/16(月) 13:07
Aviation Wire

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