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【中国映画コラム】チャン・イーモウ&ジャ・ジャンクー、正反対の道を歩みながら辿り着いた“今”とは

9/15(日) 11:00配信

映画.com

 [映画.com ニュース] 北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数268万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”を聞いていきます!

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 現在、中国国内で最も注目されている映画監督といえば――そう、チャン・イーモウとジャ・ジャンクーです。2018年、両監督はそれぞれ最新作を発表しました。チャン監督の「SHADOW 影武者」は、第75回ベネチア国際映画祭、第43回トロント国際映画祭で上映され、高評価を得ました。一方、ジャ監督の新作「帰れない二人」は、第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に入選。これまでのジャ・ジャンクー作品のなかで“集大成となる1作”と絶賛されていました。この2作、偶然にも日本の公開が同タイミングの9月6日――グッドタイミングなので、正反対の道を歩む2人の“今”を説明しましょう!

 チャン監督の「SHADOW 影武者」は、中米合作映画「グレートウォール」以来2年ぶりの新作です。この「グレートウォール」は、中国国内で興行収入11億7300万元(約181億8000万円)を稼ぎ、北米などの地域で大ヒットを記録しましたが、残念ながら批判続出。初めて本格的に世界進出を果たしたチャン監督にとって、良い結果だとは言い切れないでしょう。その苦難を経て「SHADOW 影武者」が誕生することになりました。

 「三国志」の荊州争奪戦をアレンジした本作は、まさに“THEチャン・イーモウ”へと回帰しており、水墨画を想起させる素晴らしい世界観を構築してみせました。色彩の豊かさ=チャン監督流の映像世界という点から「白黒の世界が斬新!」と仰る方もいますが、個人的には“いつも通り”だと思っています。従来のキーカラー「赤&青」が「黒&白」に変化しただけ。

 白&黒の世界観に「陰&陽」「明&暗」、そして対比の世界に生きる“影”、奇想天外なアクション(アンブレラ・ソードは、ある意味発明です!)、“光”を際立たせるようなストーリーが展開していきます。ベネチア国際映画祭でのワールドプレミア上映後、世界中の媒体が、興奮気味に称賛を繰り返しました。「あのチャン・イーモウが戻った」「シェイクスピア的なストーリー+映像美=パーフェクト」などなど――「グレートウォール」の時と違い、賛美の言葉だらけだったんですよ。

 ベネチア国際映画祭が終わった後、「SHADOW 影武者」は中国国内での公開を迎えました。しかし、競争相手となった「Hello,Mrs.Money」(6億5400万元:約101億4000万円)、「プロジェクト・グーテンベルク 贋札王」(12億7400万元:約197億8000万円)などが強かったこともあり、興行収入は6億2900万元(約97億5000万円)と不調でした。しかし、年末の金馬賞では最優秀監督賞を獲得! チャン監督にとって、初めての金馬賞受賞となったんです。

 さらに、もうひとつの新作「One Second」が、第69回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に入選。しかし、技術的問題で“上映キャンセル”に(今年は中華人民共和国成立70周年。検閲が厳しくなっているという噂もありますが…)。いずれにせよ“今”のチャン監督は、絶好調と言えるでしょう。「HERO(2002)」で中国映画界に革命を起こしてから17年、チャン監督の次のタスクとなるのは、ハリウッド大作に匹敵する作品を作ることです。中国発の作品は、国内でメガヒットを記録するようになりましたが、海外での興行収入は芳しくない状況。中国国内&海外でのメガヒット――この地点に最も近いのが、チャン監督だと感じています。「グレートウォール」でのグローバルな挑戦は失敗に終わりましたが、ある意味可能性も見えたはず。数年後、チャン監督の新作が世界に新たな衝撃を与えてくれることを期待しています。

 一方、チャン監督とは“異なる道”を歩んできたジャ監督は、中国映画市場の激変を前にしても、自身の信念を変えることはありません。「帰れない二人」は、監督作として5度目のカンヌ国際映画祭コンペティション部門ノミネート。「罪の手ざわり」から3作連続の快挙となりました。世界の映画界において、最も注目されている中国映画監督だと言っても、過言ではないでしょう。

 中国アート映画の話題に触れる際、必ず名前が出てくるのが、ジャ監督です。ご存知の方も多いとは思いますが、初期作品「一瞬の夢」「プラットホーム」「青の稲妻」は中国国内で上映禁止に。近年では、センシティブな内容を描いた「罪の手ざわり」の上映も行えなくなりました。しかし、そんな憂き目にあっても、ジャ監督は自らの作家性は絶対に捨てることはありません。

 ジャ監督作品の登場人物は、ごく普通の一般人であるため、彼らが直面する出来事は「現代中国の縮図」と考えられるでしょう。私が常々思っているのは、各作品の主人公は、ほぼ毎回出演している“ミューズ”チャオ・タオでも、その他の主要登場人物でもなく、「現代中国」そのものだということ。ジャ監督の映画は、毎回必ずテレビ、ラジオでの音声放送があります。この音声放送の内容は、まさに“その時の中国”の様子なのです。

 ジャ監督は否定していますが、「帰れない二人」(興行収入6994万元:約10億9000万円)には“集大成”という評価が相次ぎました。作品の内容を分析してみると、その観点は間違いではないことがわかります。前作「山河ノスタルジア」と同様、物語の舞台を3つに分け、それぞれの“中国”を描いています。最初の舞台となるのは、01年の山西省大同市。主要キャラクターのチャオチャオ(チャオ・タオ)とガオ・ビン(リャオ・ファン)が「青の稲妻」を連想させます。古都・奉節を巡るパートでは、「長江哀歌(エレジー)」のストーリーと近似している“誰かを探す物語”。過去作でとりあげた人物やイメージ、テーマを再登場させるという手法は、日本映画の巨匠・小津安二郎と似ていますね。

 「帰れない二人」は、多くの評論家に「欠点のない作品」と評されました。しかし、いつも通りの味わいということは、新鮮味がないという点につながることも、否定はできません。まもなく50代になるジャ監督がどのような作品を発表するのか。映画ファンは、興味津々です。噂となっている“時代劇”も本格的に始動し始めるようですよ。

 7月には、「帰れない二人」を引っ提げて、来日を果たしたジャ監督。映画.comではインタビューを行いましたが、その際に“ある話題”に触れてもらいました。それは、6月に「微博」で発信したコメントについてです。雲に隠れた月の画像とともに、ジャ監督が投稿した言葉は「映画事業は、このままではダメになる」というもの。国際映画祭での中国映画の上映中止、夏休みに公開を予定していた大作の公開延期、検閲の厳しさ――“自由に映画を作れない”という状況を示したかのような言葉。最後に、ジャ監督からのアンサーを記したいと思います。

 ジャ監督「(国際映画祭で)何本かの作品の上映がキャンセルになったので、あのような投稿をしたのです。“なぜ上映が中止となったのか”という点について、監督側からまったく発言がありません。どのようなことがあったのかは、誰にもわからないのです。しかし、映画産業のなかで既に決まっていた物事が、突如キャンセルになるというのは、あってはいけないことだと思います。私は、90年代からインディペンデントで映画を撮ってきていますが、その時から徐々に検閲がゆるくなり、開放的になっていきました。最終的には『自由になるべきだ』と思っています。私はひとりの映画監督として、映画は管理されるべきではないと思っています」

最終更新:9/15(日) 11:00
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