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イチローの英語スピーチを心底喜ぶシアトルのファンたち

9/15(日) 19:41配信

スポーツ報知

 “The one you got was 27 years old, small, skinny and unknown.”(シアトルが得たのは27歳で小柄で、細くて、無名の選手だった)

【写真】イチローの後ろには緊張気味の雄星が

 イチロー氏が14日(日本時間15日)、シアトル・マリナーズ本拠地で地元ファンに向かって英語で約4分半のスピーチを行った。今年3月に東京ドームで電撃的な引退記者会見を行った後から同球団で会長付特別補佐兼インストラクターについている同氏は、シアトルでの引退セレモニーにおけるスピーチに、スーツ姿ではなく、ユニホームを着用して臨んだ。すでに引退を表明した選手がユニホーム姿で引退式に参加するのはアメリカでは珍しいが、本拠地用の白いユニホーム姿を最後にシアトルのファンに見せたいという氏の想いの表れだった。

 記者はシアトル在住だが、今から18年前にイチロー氏がシアトルにやってきた時、自分を含むシアトライトたち(シアトルに住む人のこと)の誰ひとり、彼が飛び抜けて秀でた野球選手であることを知らなかった。一般的なメジャーリーガーよりもずっと小柄で細く、英語を話さない彼は非常にミステリアスで、この体型ではメジャーリーグでは通用しないと誰もが思っていた。

 そのミステリアスな選手が初年度から目覚ましい成績を残し、その後、MLB史上に残る偉業の数々を積み上げて行く中で、イチロー氏はコアなアメリカ人ファンを確実に獲得していった。日本人らしい驚くほどの勤勉さを前面に打ち出しながら、ゴーイング・マイウェイで進むイチロー。その彼のファンになった大勢のアメリカ人たちが口を揃えて言うことは、「イチローは日本とアメリカの架け橋である」という讃辞と、「どんなにつたなくても、英語で話してほしい」という心からの望みの2つだった。

 イチロー引退式のこの日、スタントン球団オーナーも、「イチローは二つの文化の橋でい続ける人物だ。イチローは日本人初の野手として初めて成功した選手であり、彼の功績が他の日本人選手に門を開けた。開幕で日本に遠征した際には両国から尊敬された」と述べてから、彼を球団初のアチーブメント賞に表彰した。

 球団の代表だけでなく、イチロー氏が両国において架け橋となっていることを証言できる人のひとりは、“イチメーター”で有名なシアトル地元ファン、エイミー・フランツさんだ。「私はイチローのことを好きじゃないと言うシアトライトと会ったことがないわ。彼のプロとしての勤勉さや試合で示す実力によって、彼は体が小さくてもMLBで結果を出せることをシアトルに示したのよ。彼の野球に対する深いリスペクトが、シアトライト(地元の人たち)の心を掴んだのだと思う。彼はシアトルの宝です」。

 イチローの多大なる功績によって日本人選手がMLBに挑戦しやすくなったのは明らかだ。前述のイチロー応援団長を自称するエイミーさんは、「野茂をはじめ、MLBに日本人の優れた選手はいたけれど、イチローが野手として初めて渡米してきた途端、大勢の日本人ファンがシアトルにやってきたわ。イチローのおかげで私は驚くほど大勢の日本人の友人を作ることができた。そのうちの何人もが生涯の友となるような人たちだから、彼には感謝してもしきれないほどの恩がある。イチローがいなければ、私は生涯日本に行くことはなかったと思う」と話しながら、記者と話している途中に感極まって泣きだした。

 とはいえ長い年月の間には、イチローのストイックな行動が地元で何度も問題にあがった。英語を話せるにもかかわらず、自分の意思が少しでも間違って伝わることを防ぐために公の場では英語を一切話さず、専任通訳を通じて対応するイチローのことを、「アメリカに長年住んでいるのに、英語で対応しないのはアメリカをリスペクトしていないのではないか」、「自分の美学を押し通す前に、自分が住み働くアメリカにもっと寄り添うべきではないか」などというような批判や問題提起が寄せられた。

 しかし、そういう批判的な意見を拭いさるほどの実力を見せ続けてきたイチロー氏と、その氏を応援するファンの強い支援のもと、イチロー氏は自分の意思を貫いて19シーズンを駆け抜けた。そして、誰もがその功績と意思を今もリスペクトしている。

 アメリカは多人種が共存して生活する国であり、その共通言語が英語だ。その国に住んでいる以上、そのツールを使って意思を通じ合わせようと皆が努力している。そんな状況下で、イチロー氏がこの日、19年間使ってきた通訳を通さずに英語でスピーチしたことは、大勢のファンの心にダイレクトに届いた。イチローを長年取材してきたシアトル在住のMLB.comのジョーンズ記者も、「19シーズンも通訳を通して自分の意思を伝えてきたイチローが、今日、自分の伝えたいことを英語でスピーチした。球場に集まった観客はその一語一語を聞き漏らすまいと耳をすませていた」という書き出しで、イチローの功績を讃えた記事を書いていた。

 メジャーリーガーはアメリカを代表する公人だ。その公人が発する一言には、大勢が耳を傾ける。アメリカ人にそれほどまでにリスペクトされるメジャーリーガーのひとりが、日本人の野球選手イチロー氏であることを誇りに思うとともに、そのイチロー氏が現役に幕を閉じて次なるステージに進むことに心からの敬意を払いたい。

 記者が初めてシアトルの球場でイチロー氏にご挨拶をさせて頂いてから早18年。最後を飾るセレモニーを英語のスピーチで締めくくったイチロー氏は、これから別のステージできっとまた人々が驚くようなマジックを見せてくれることだろう。

(シアトル在住=秋野 未知通信員)

最終更新:9/15(日) 20:17
スポーツ報知

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