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地方にある不動産を相続するときにやってはいけないこと、「法定相続分」と「遺留分」を正しく知ろう

9/16(月) 12:00配信

MONEYzine

■相続遺産に占める不動産の割合は4割以上

 株式会社ウェルスパートナー代表取締役の世古口です。プライベートバンカーとして顧客の資産運用や相続のサポートをしてきた経験を活かして、この連載では多くの方に知ってほしい相続についての基礎知識を解説したいと思います。

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 プライベートバンキングサービスは主に「保有資産10億円以上」の方向けに提供されるものです。相続争いというと一部の富裕層だけの問題で自分には関係ないと思いがちですが、さまざまなご相談を受けるなかで実感したのは、富裕層より資産総額は少ない場合でも、相続争いが起きることです。むしろ、そのくらいの資産のほうがもめることが多いかもしれません。

 なぜなら、一般的な保有資産水準にある人ほど、その資産に占める不動産の割合が大きくなるからです。以下のグラフは国税庁が2018年の12月に発表した、相続財産の金額の構成比の推移をまとめたもの。土地の割合は年々低下しているとはいえ、土地と家屋が占める割合は4割以上あります。土地が減っている分、増えているのは「現金・預貯金等」で、「有価証券」も微増しています。

国税庁がまとめた平成29年分の相続税の申告状況(平成30年12月発表) でお伝えしたように、不動産は共有しないほうが良い資産です。しかし、子供が2名以上いる場合は、相続が起こった場合に共有にならざるを得ませんし、そうならなければ不公平ということになります。

■地方における土地・建物の「流動性」

 地方出身で就職のために東京や大阪など都市部に住んでいる方は多いと思います。私も仕事のために東京に住んでいますが、三重県出身で親は今も三重の実家に住んでいます。

 ではなぜ、親が田舎に土地や自宅を所有していることは、相続の際に要注意になるのでしょうか。

 田舎の土地や自宅は都市部の建物と比較して「流動性が低い」からです。都市部は多くの需要があり、不動産を売却し現金化しやすい。一方で私の地元、三重県など地方の都市の土地や自宅は、すぐには売却できないことが多いと思います。もしくはすぐ売却するためには、かなり安値で売らなければならなくなる可能性があります。この田舎の土地や建物の流動性の低さが、相続の問題を複雑化させるのです。

 そして不動産と同様に注意しなければならないのが「遺留分」です。遺留分とは簡単にいうと相続人の最低限の取り分のことで、遺言があっても法定相続分の1/2は資産を承継できる権利です。この遺留分を請求することを「遺留分侵害請求」と言います。

 続いては、当社のお客様で、不動産と遺留分により相続争いが複雑化した事例を紹介します。

■「不動産は兄に、預金は弟に」地方不動産をめぐる相続争い

 このケースの相談者は長男で、家族は母親と弟のふたりでした。相談者は実家の家業を継ぎ、母親の自宅の近くに住み、弟は高校を卒業して上京。兄弟は互いに連絡もすることなく、かなり疎遠になっていました。

 そして昨年、母親が亡くなります。相続財産を整理すると戸建の自宅の建物2,000万円と土地5,000万円、預金1,000万円という財産構成でした。そして相談者も知らなかったのですが、母親は遺言を書いており、亡くなってから発見されました。そこには「自宅の建物と土地は相談者に、預金は弟に」と書かれていました。

 資産価値は建物と土地が合計7,000万円。現預金1,000万円よりはるかに大きいですが、家業を継いだ相談者に多く財産を残したいという想いが母親にあったのだと相談者は話しています。

 ただ、面白くないのは弟です。知り合いの弁護士に相談したところ、どうやら「遺留分」というものが存在し、自分は本来2,000万円(法定相続分4,000万円の1/2)をもらう権利があるということを知った弟は、1,000万円分の遺産分割を請求する遺留分侵害請求を兄である相談者に対して行ったのです。

 相談者は最初、現金で1,000万円を支払おうと思っていましたが、直近に自宅のリフォームなどで出費が多く、現預金が心もとなかったので、土地の一部を弟と共有にするか、もしくは母親から相続した土地と建物を売却しようか悩んでいるときに、私たちに相談をいただきました。

 最初は不動産会社に相談していたようですが、前述のまさに流動性が低い物件であるため、すぐには売却できないのと、売却を急いだ場合はかなり安く買い叩かれてしまいそうでした。それでも不動産会社から「売却しましょう」という営業をかけられていたようです。しかし、それは有利な価格ではなかったので、相談者はそれを断り、別の道を探ることになりました。

■おすすめできない「不動産の共有」

 相談を受けた私たちは、弟と土地を共有することに関しては、土地を売却できなかったり、相談者だけが売ると著しい安価でしか売却できない可能性があったので、「いちはんやってはいけないこと」だと止めました。

 最終的にとった対策は「銀行からの借入」でした。銀行に事情を説明し、母親の自宅と土地を担保に入れることで1,000万円を借入し、弟に支払ったのです。これで弟に遺留分が支払えるのと、売却するにしても時間をかけてじっくりと良い買い手を見つけられるわけです。そして売却が完了したら、売却代金から借入の1,000万円は返済すればいいのです。

 どうでしょうか。保有資産に占める不動産の割合が大きいことやその不動産が地方の物件で流動性が低いこと、そして遺留分、すべてが関連し、この事例の問題につながっていることがわかります。もし、母親の保有資産が現預金だけであれば、遺留分の1,000万円を相続財産の中から支払うことができましたし、不動産が都内の区分マンションだったら売却して遺留分を支払えるたでしょうから、まったく問題にならなかったのです。

 今回取り上げた「遺留分」に関しては、2019年7月に制度改正があったので、今後はより注意が必要になってきます。続いてはその点を解説します。

■相続法の改正で「遺留分」はどう変わったのか? 

 これまでの相続法では、遺留分侵害請求をされた場合は相続財産を渡すか、相当の金銭で支払うか、請求された側に選ぶ権利がありました。

 しかし相続法は、平成30年(2018年)に改正され、平成31年(2019年)1月13日から段階的に施行が始まりました。この改正によって、遺留分を請求された側は原則、金銭で支払わなければならなくなったのです。これによって、どのような問題が発生するのでしょうか。

 今回のケースで考えてみると、相談者は弟に対して1,000万円という金銭を支払うという選択肢しかなくなり、1,000万円がなければ基本的には相続財産を売却しなければならないということになります。つまり、遺留分を請求される側の選択肢が減ることになり、請求される可能性がある場合は対策を講じる必要があるのです。

 では、どういった遺留分の対策が考えられるのか。今回は、その対策として生命保険を利用する方法を説明したいと思います。

■遺留分対策に「生命保険」を活用する

 ここでいう「生命保険」とは多くの方が入っている終身の生命保険のことです。なぜこの生命保険が遺留分対策に有効なのでしょうか。理由は3つあります。

●1. 生命保険でまとまった現金を作ることができる

 今回の場合であれば、母親を契約者かつ被保険者、相談者を受取人にして、保険金1,000万円にしておけば、その保険金で遺留分を支払うことができます。母親がそうした保険にすでに加入していた場合、今回のケースでは保険金の受取人を100%長男(相談者)にするべきかと思います。

●2. 保険金は受取人固有の財産となり、遺留分計算の対象にならない

 今回の事例で、もし母親が現預金をあと1,000万円多く保有していた場合は、相続財産は9,000万円、遺留分は2,250万円となります。

 一方で、その1,000万円が現預金ではなく、保険金だったとしたら相続財産は8,000万円で、遺留分は2,000万円と計算されます。保険金が受取人固有の資産となることで、遺留分を増やさない効果があるのです。

●3. 相続税の対策にもなる

 多くの財産を相続した人ほど、相続税を多く支払わなければなりません。この事例では、相談者がいちばん多く支払うことになりますが、生命保険の保険金は「法定相続人×500万円」を相続税計算の対象から除外することができます。

 そのため、このケースでは「2名×500万円=1,000万円」が相続税の計算から除外できることになります。

 相続財産が、自宅2,000万円+土地5,000万円+現預金1,000万円=計8,000万円あり、加えて保険金1,000万円を合わせると、8,000万円+1,000万円=9,000万円になります。生命保険の保険金は相続税の計算対象から除外されるため、8,000万円が相続税の計算対象になります。

 相続税はその8,000万円に対して計算され、相続財産の配分に応じてそれぞれの相続人が納税義務を負います。8,000万円の相続財産なら、相続税の総額は基礎控除を考慮すると500万円程度になると思います。弟の主張を考慮して、兄が6,000万円、弟が2,000万円を相続する場合、計算式と最終的な各相続人の相続税の納税金額は以下のようになります。

 相続税の総額 × 各相続人の相続財産 ÷ 相続財産の総額 = 各相続人の相続税の納税金額

・兄:375万円(500万円×6,000万円÷8,000万円)
・弟:125万円(500万円×2,000万円÷8,000万円)

 もちろん保険金の受取人を兄に指定しておけば、保険金1,000万円から弟に遺留分の不足分を支払うことができます。

■まとめ

 今回は不動産の保有比率が高いことや地方物件など流動性が低い物件、遺留分の問題、さらにその対処法などを説明してきました。いかがでしょうか。意外と当てはまる人が多いのではないかと思います。

 私も兄弟が3人おり、母親が1人、地方の実家で暮らしているので、いずれ今回のケーズのような状況がくるかもしれません。

 今回、原稿を執筆しながらあらためて思ったのは、遺言を書くだけではダメで、ちゃんと生前に家族に内容や想いを伝えておく必要があるということです。そうすれば、弟もわかってくれて、争いにならなかったかもしれません。また、母親が遺留分を知らなかったのはしょうがないと思いますが、やはり遺言の作成は専門家に相談して、慎重に作成することをおすすめします。

最終更新:9/16(月) 12:00
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