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『ヤンヤン 夏の想い出』エドワード・ヤンの「みずみずしさ」を解き明かす少年ヤンヤンの写真

9/19(木) 12:24配信

CINEMORE

 キネマ旬報で2019年に実施された、映画評論家などが選ぶ「1990年代 外国映画ベスト・テン」において、ベストワンに輝いた作品は、いまは亡き台湾の巨匠・楊徳昌(エドワード・ヤン)監督の『クーリンチェ少年殺人事件』(91)だった。

 『クーリンチェ少年殺人事件』は、監督の子ども時代、台湾の日本家屋がある通りの周辺で実際に起きた少年事件をモデルに、子どもたちの夏の日々を丹念に追った青春映画。とくに高い評価を受けているのは、映像の素晴らしさである。そこには絵画のような美ではなく、“映画的”な美しさに満ちている。しかし、その美しさの正体はいったい何なのだろうか。そして、なぜ彼にはこのような映像が撮れたのか。

 その謎を解き明かしてくれるのが、いまは亡きエドワード・ヤン監督の、完成作としては最後の映画となった『ヤンヤン 夏の想い出』(00)である。

一家の問題から台湾の現在を切り取る

 台北に生活する家族と、周囲の人間たちの日常を追いながら、そこで起きる様々な出来事を、173分の長尺で描いていく本作は、監督の少年時代を描いた『クーリンチェ少年殺人事件』の(撮影当時の)現代版といえるものになっている。

 少年ヤンヤン、両親と祖母、姉のティンティンは、それぞれに人生を変えるような事態に直面する。祖母は脳卒中で倒れ、母親は新興宗教に入信。父親は初恋の相手との再会で、 やけぼっくいに火がついてしまうし、姉は近所にすむ少女と付き合っている青年と交際をはじめ、ヤンヤンも学校で少女に淡い感情を抱く。

 ヤンヤンの父親NJが仲間とともにコンピューター会社を経営しているように、当時の台湾は世界的なインターネット・バブルの影響下にあった。『クーリンチェ少年殺人事件』では、プレスリーなどのロック音楽が時代の変遷の象徴になっていたが、ここではテクノロジーがそれにあたるのだろう。『クーリンチェ少年殺人事件』では、かつて台湾を占領した日本人が残していった日本家屋が舞台になっていたが、ここでも日本での撮影において、作品は小津安二郎の映画へのささやかな接近を見せる。

 イッセー尾形が演じている、ビジネス相手であるゲーム会社の日本人は、非常に内省的で、むしろビジネスとは程遠い人物として描かれる。その人間性に惹かれるNJだったが、結局、会社の仲間たちは手早く儲けられる取引先を見つけてしまい、東京に住んでいるNJの初恋の女性も姿を消してしまう。

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最終更新:9/19(木) 12:24
CINEMORE

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