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「人生100歳時代」はキャッチ―だが、70年は先

9/19(木) 11:31配信

ニュースソクラ

【医学者の眼】自殺・薬物で米国は平均寿命が縮む 延びる日本は幸せだが長寿化には課題も

 令和元年7月30日に平成30年簡易生命表が厚生労働省から公表され、今回も平均寿命の延伸が認められました。

 簡易生命表は毎年、完全生命表は5年に1度公表されます。女性の平均寿命は87.56歳で香港に次いで2位、男性は81.25歳で香港、スイスに次いで3位でした。日本が世界の長寿トップリーダーであることは間違いないようです。

 意外と知られていませんが、平均寿命というのはその年に亡くなった方の年齢の平均ではありません。平均寿命というのは、生まれたばかりの0歳児の平均余命です。どうやって算出するかというと、その年に生きている各年齢層の人々の1年間の死亡率を年齢ごとに加えて計算しているのです。

 生まれたばかりの本人が実際に全期間を生きた場合よりも大分短くなってしまう傾向があります。いま生まれた子供たちは100歳以上生きる人の方が多いとみられています。

 ちなみに、私が生まれた昭和26年頃の平均寿命は68歳でした。いまの私の年齢ですが、私はぴんぴんしています。今回の生命表によれば、私(68歳)の平均余命は約17年ですから、85歳くらいまで長生きできることになっています。生まれた時の平均寿命よりよほど長生きします。こうした長寿化の傾向は毎年ほとんど変わっていません。

 一方、米国ではこの数年、平均寿命が短縮化しています。薬物や自殺によるとされています。平均寿命が延びている我が国の社会生活は、安定的に改善してきていると考えられます。

 しかし、近年いわゆる老後2000万円問題などの高齢者の生活対策が何かと話題になっています。十分な年金が支給されず、高齢者が暮らしにくい国になるという認識が一般的なのです。

 政府も人生100年時代構想会議を設け、教育や雇用の改革など「人づくり革命 基本構想」(平成30年6月)をまとめました。自民党厚生労働部会(小泉進次郎部会長)も、全世代型社会保障などの「新時代の社会保障改革ビジョン」(平成31年4月18日)を発表しました。

 これらの発表で、今にも人生100年の時代に突入するかのような印象を与えています。平均寿命がいまだ90歳にも達していないのに、人生100年と言うのは、随分違和感があると思われた方も少なくないのではないでしょうか?
 
 実際に我が国の国民の半数以上が100歳を超えて生きるようになることを人生100年時代と呼ぶとすれば、それは現在中学生、高校生くらいより若い世代で、まだ70-80年先のことになりそうです。だいぶ先ではあるのですが、彼らはすでに目の前にいるわけですから、後になって慌てるよりも早くから備えるに越したことはないと思われます。

 長寿化は喜ばしいことですが、高齢者が増えてくると様々な問題も増大します。高齢化と共に医療・介護ニーズが急速に増大し、特に認知症は大きな課題で、年齢とともに増加し85歳以上では半数以上が認知症と診断されています。

 認知症に対しては、まだ原因も予防法、治療法も決め手となるものは分かっていません。様々なケアの体制が整えられつつありますが、十分かと言えばまだ途上です。人口減少と高齢化が進む地方社会などではその対応に苦慮しています。

 高齢者の生活、医療・介護の在り方や終末期のケアの在り方などについて見直しが必要です。それも、国民的な議論と対策というレベルで必要です。人生100年時代の到来を待つことなく議論を始める必要があるのです。

 今回出された人づくり改革や社会保障改革ビジョンにおける教育無償化、リカレント教育、1億総活躍化社会などの政策は何れも今まさに必要な政策だと思われます。

 網羅的に作られているビジョンでも細かく見ると、盲点がないとはいえません。例えば、寿命は将来的には生命科学の進歩などにより100歳を大幅に超えることも想定しておかなければならないでしょう。その過程では、少子化により我が国の人口が半減するなど急激に減少することが推定されています。

 これらをどう政策に反映させたらいいのでしょう。人生100年時代以降に向けて何が起こるのかについて、さらに幅広く、深く研究していくことが必要だと思われます。

 「人生100年時代」はキャッチ―な言葉でジャーナリズム的には有効かもしれませんが、70年も先のことですから、ともすると狼(オオカミ)少年ともとらえられかねません。政策に対する信頼を確保し、着実に進めていくためには、国民に現実に対して正確な理解と認識を持ってもらい、そのうえで議論しコンセンサスを作っていくことが重要です。

■中島 正治(医師、元厚労省局長)
1951年生。76年東大医学部卒。外科診療、医用工学研究を経て、86年厚生省入省。医政局医事課長、大臣官房審議官(医政局、保険局)、健康局長で06年退官。同年、社会保険診療報酬支払基金理事、12年3月まで同特別医療顧問。診療、研究ばかりか行政の経験がある医師はめずらしい。

最終更新:9/19(木) 11:31
ニュースソクラ

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