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日野日出志の恐怖マンガが描く「真実」 大人になった今こそ見えてくる?

9/19(木) 19:40配信

マグミクス

子どもたちの脳裏に刻まれたホラー描写

 きれいは汚い、汚いはきれい―。

 シェイクスピアの戯曲『マクベス』で魔女たちが呟く有名な台詞です。美と醜、善と悪、幸福と不幸。世間的な価値観は相対的なものであって、見る人や見る立場によってまったく違ったものになることを意味しているといわれています。そんな言葉がぴったりと合うのが、ホラー漫画の第一人者・日野日出志氏が描く恐怖の世界です。

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 動物の死体にはウジ虫が湧き、ネズミが顔を覗かせ、ゲジゲジが這い回る陰鬱な世界にたたずむ、異様に目の大きなキャラクターたち。子供の頃に日野日出志氏のマンガを読み、嫌悪感を覚えた人は少なくなかったのではないでしょうか。おびただしい血や膿が流れる描写がトラウマになった人もいるでしょう。

 でも、大人になって現実世界で恐ろしい目に遭い、ドロドロした人間関係を体験した上で、あらためて日野日出志作品を読むと、それらが「汚いはきれい」と思わせる深遠な世界だったことに気づくのです。

 同じホラー漫画でも、楳図かずお作品は映画化やテレビドラマ化もされてメジャー感があるのに比べ、日野日出志作品は裏メジャーな印象を与えます。あまりにも振り切った残酷描写やグロテスクなイメージが強すぎるのでしょう。いったい、日野日出志とはどんな人物なのでしょうか。

 日野日出志作品がトラウマになっている人におすすめのドキュメンタリー映画があります。2019年8月にDVDとしてリリースされた『伝説の怪奇漫画家 日野日出志』です。みうらじゅん、ちばてつや、伊藤潤二ら人気漫画家たちが、日野日出志作品の魅力と本人の素顔について語っています。

 もちろん、本人へのロングインタビューも収録し、表現者として葛藤の日々を過ごしてきたという人間的な側面について知ることができます。

衝撃のデビュー作『蔵六の奇病』には少年時代の実体験が

 日野日出志氏が語る生い立ちから、まず引き込まれます。生まれたのは終戦直後の旧「満州国」(現在の中国東北地区)。今はなき幻の国で生まれたことから、自分のアイデンティティーは何かを考えるようになったそうです。

 赤塚不二夫、ちばてつや、古谷三敏といった漫画家たちも旧「満州」出身ですし、映画「男はつらいよ」シリーズで知られる山田洋次監督や作詞家・作家のなかにし礼も旧「満州」からの引き揚げ者です。わずか13年しか存在しなかった「満州国」ですが、後に多くの表現者を生み出していたことが分かります。

 今回のドキュメンタリーの中でもっとも深く掘り下げられるのは、1970年に「少年画報」で発表されたデビュー作『蔵六の奇病』です。昔話風の世界のなかで、絵を描くことが大好きな蔵六の数奇な運命が繰り広げられます。

 蔵六は全身に七色のできものがあり、村人たちから嫌われています。母親は反対するものの、「悪い病気が伝染したらどうするんだ」と村人たちに責められ、蔵六は森の中のボロ屋に隔離されることに。ひとりぼっちになった蔵六は自分の体にある七色のできものの膿を絵の具代わりにして、美しい絵を次々と描くのでした。しかし、蔵六のできものは次第に悪化し、想像を絶する結末が待っています。

 読者だけでなく、マンガ界全体に強烈なインパクトを与えた『蔵六の奇病』ですが、日野日出志氏はインタビューで「自身の実体験がベースになっている」と語っています。子どもの頃から絵を描くことが得意だったものの、家が貧乏で友達が持っているような24色入りのクレヨンを親にねだることができなかったそうです。

 いつか、いろんな色を使って存分に絵を描いてみたい。そんな少年時代の想いが恐怖漫画として結実したのが、『蔵六の奇病』だったのです。

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最終更新:9/19(木) 21:49
マグミクス

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