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内田樹氏、「断韓」を中刷りにした週刊ポストに怒ったわけ

9/19(木) 12:31配信

ニュースソクラ

習・トランプ・プーチンもケミストリーは同じ

 ――知り合いの外交担当記者にはトランプと習近平は同じような人間という見方があります。

 内田 習近平もトランプもプーチンもケミストリーは同じだと思います。ナチスドイツが短期間にあれだけの影響力を持ち得たのも、統制と独裁によって劇的な成功を収めたからです。だから、1930年代にヨーロッパの国々では次々とファシスト政党が誕生した。別に強制されたわけでも、洗脳されたわけでもなく、「ナチスの成功例」にあこがれたからです。人間はかたわらに成功例があると無意識のうちに模倣するものなんです。

 だから、たぶんそう言うとびっくりすると思う人が多いでしょうけれど、自民党政府は無意識に中国の統治形態にあこがれている。アメリカの統治形態にあこがれている自民党の政治家なんか一人もいませんよ。議会や最高裁やメディアが行政の暴走を抑止できる仕組みをぜひ日本でも実現したいなんて思っている自民党の政治家なんかゼロですよ。彼らが本気でモデルにしているのは中国とロシアとシンガポールと北朝鮮です。

 ――中国が、ヘイトスピーチなどの震源地ということですか?

 内田 以前、中国から『街場の中国論』の翻訳のオッファーがありました。そのとき、本の中の文化大革命と少数民族ナショナリズムについて言及した章を削除させてほしいと言ってきたので、翻訳を断ったことがあります。中国では、いまでも文化大革命と少数民族ナショナリズムは「なかったこと」にされているということをその時知りました。

 中国には54の少数民族がおり、総人口は1億4千万人で日本の人口より多い。でも、彼らは自治も許されないし、固有の言語や宗教を守ることも許されていない。日本がかつて朝鮮半島や台湾で行った「皇民化」教育と同じように、少数民族の「漢民化」が進行している。

 少数民族を見ていると、中国共産党に反対する勢力、中国への同化を拒む勢力はすべて排除するという強い意志を感じます。この「漢民化」は安倍政権の支持層であるネトウヨたちの「外国人は日本から出ていけ」という「皇民化」と同型的な発想です。

■株式会社という組織形態しか知らない世代が増えている■

 --日本が何故排外主義やヘイトスピーチに染まっているのですか?

 内田 先ほども言ったように、生まれてからずっと株式会社という組織形態しか知らないからだと思います。トップがすべてを決めて、従業員には経営方針について発言する権利がないということを子どもの頃から刷り込まれている。

 僕が生まれた1950年、日本の勤労者の半分は農業従事者でした。「戦後民主主義」というけれども、当時の日本人は民主主義がどういうものかなんて誰も知らなかった。だから、結局は農村の村落共同体における合意形成システムのことを「民主主義」だと思うことにした。村落共同体は一種の運命共同体ですから、一人も脱落者が出ないように、組織を運営します。

 重大な事案については、村全体で時間をかけて協議する。ああでもない、こうでもないと長い時間をかけて議論して、最終的にさまざまな選択肢が消えて、「もう、これしかない」ということについて全員があきらめ顔で納得したところで話が決まり、決定については村民全体が責任を負う。

 決めたことが成功すればみんなで喜び、失敗すればみんなで悲しむ。強いて言えば、それが日本の戦後民主主義の実相だったと思います。でも、農業から工業、サービス業へという産業の基幹的形態の推移に伴って、日本人が参照する「ものごとの決め方」そのものが変わってしまった。

 かつて日本的経営の特徴として、終身雇用、年功序列、企業別組合というものがありました。これは「家」制度をそのまま企業組織に当てはめたものです。前近代と近代のハイブリットが1950年代から70年代にかけての日本の企業のありかただった。なぜかそれが奇跡の高度成長をもたらした。日本人はこういうのが一番性に合っているんです。

 漢字とかなの混ぜ書きもそうだし、神仏習合もそうです。日本では、伝統的な固有のものと外来の新しいものが混ざり合って、アマルガムができると、そこに不思議な活力と生命力が生まれる。

 僕が子供のころの会社は疑似的な家族でした。上司は部下に対して家父長のように接した。仲人をしたり、家に招いて宴会をしたり、麻雀をしたりして、休みの日はハイキングや海水浴に行ったりした。今はもうそんな疑似家族的なつながりをもつ企業はほとんど存在しません。短期間での転職離職がふつうなので、疑似家族になれるほど長い期間同じ会社に勤めることがない。

 年功序列制度がなくなって、うるさく勤務考課をするようになったので、若い人をみんなでじっくり育てて一人前にするという習慣も失われた。かつての企業内組合はかなり深く経営にコミットできましたけれど、いまは組合の意見を聴いて経営方針を決めるCEOなんていません。経営方針の適否はマーケットが判断するものなんだから、従業員は黙ってトップの言うことを聞け、と。

 今の40代ぐらいから下の人たちは、組織というのは株式会社のようでなくてはならないと素朴に信じ込んでいます。だから、橋下徹氏が大阪府知事になって、「民間ではありえない」と痛烈に批判して、自治体を徹底的にトップダウンの組織に作り変えると宣言したときに、「それは株式会社の話でしょ」と言って抑止する人が誰もいなかった。

■中国は超新自由主義■

 ーーそういう人々がネトウヨ化しているということですか?

 内田 「ネトウヨ」という言葉はこのような事態を指すのにあまり適切だとは思いませんけれど、「ネトウヨ」たちが株式会社モデルにまったく疑問を感じていないことはたしかですし、無意識のうちに中国やロシアにあこがれを抱いていることもたしかです。

 ――中国こそ新自由主義的な国家という気がしますが。

 内田 中国は新自由主義という以上の国だと思います。14億人という人口は19世紀末の世界人口ですから。かつての全世界の人口を統制し、反対派を抑え込み、経済成長し、軍事力を増強し、学術的な発信力も高い。これはほとんど「奇跡」というのに近いんです。 

 日本の国力が急激に衰えていることに多くの人はもう気がついています。日本の没落という足元の現実と、中国の興隆という対岸の現実を見比べると、「やはり戦後民主主義体制が非効率でいけなかったのだ。日本も中国みたいな独裁国にすべきだ」と推論するのは、ある意味では合理的なんです。

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最終更新:9/19(木) 12:31
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