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内田樹氏、「断韓」を中刷りにした週刊ポストに怒ったわけ

9/19(木) 12:31配信

ニュースソクラ

シンガポール型統治をめざす日本は韓国が邪魔

 ――それは戦前の絶対君主的国家に帰るということですか?

 内田 絶対君主的な国家にはなりません。なりたくてもなれない。戦前なら「天壌無窮の皇運を扶翼すべし」とか「八紘一宇」とか「大東亜共栄圏」とか、国策を飾るイデオロギーがあったけれど、いまの日本が目指している独裁体制にはイデオロギーがありません。しかたがないから、74年前に敗戦で放棄したはずの大日本帝国のイデオロギーを拾い上げてきて、使い回ししている。

 でも、そういう誇大妄想的なイデオロギーがかつてはそれでも使い物になったのは、大日本帝国が主権国家であり、植民地帝国であり、世界有数の常備軍を有した大国だったからです。今の日本は、そのどれでもありません。アメリカの属国である日本に超国家主義のイデオロギーを掲げられるほどの力はありません。

 日本が国家目標として掲げることができるのは「金」だけです。だとすると、モデルとなるのはシンガポールになる。中国は大きすぎるし、あまりに複雑で精密な統治システムを持っているので、とてもじゃないけど日本の政治家や官僚には中国型システムを制度設計することができない。

 それに比べると、シンガポールは真似しやすい。一党独裁で、治安維持法があって、政治警察は令状なしで気に入らない人物を逮捕拘禁でき、反政府的なメディアは存在しないし、学生は「反政府的な思想を持っていない」ことを証明する書類を政府に発行してもらわないと大学に入れない。

 そういう国が現に経済的に成功している。シンガポールは人口500万人、千葉県くらいのサイズです。これくらいなら日本の政治家や官僚がどれほど無能でも、統治機構の真似するくらいのことはできる。そう踏んでいるんだと思います。

 でも、中国モデル以外のモデルが実は身近に存在しているのです。韓国がそうです。韓国は長く軍事独裁で苦しんできましたけれど、1987年の民主化以来、市民たちが自力で民主制を整備し、あわせて経済成長を遂げ、文化的な発信力を急激に上げて来た。一人当たりGDPで韓国は日本がいま世界26位、韓国は31位ですが、日本は2000年の世界2位からの不可逆的な転落過程であり、韓国は急成長中ですから、抜かれるのはもう時間の問題です。

 「独裁を脱して、民主化を進めながら経済的にも成功し、国際社会でのプレゼンスも増している」という点では韓国はきわめて例外的な国なんです。ですから、当然「成功モデル」として日本にとっては模倣しなければならない対象になる。でも、それだけは嫌なんですね。

 中国やシンガポールの真似ならしてもいいけれど、韓国の真似だけは嫌だ。そう思っている人たちがたくさんいる。そういう人たちが嫌韓言説を服用している。「韓国に学べ」ということだけは口が裂けても言いたくない人たちがそのまま「中国=シンガポール型の独裁国家にシフトすることによって生き延びる」という選択肢に惹きつけられている。

■日本人は強い指導者を望んでいる■

 ――今の国民の潜在意識の中には、民主化に抵抗する意識があるということですか?

 内田 習近平やプーチンみたいな人が総理大臣だったらよいと思っている人は実際に多いと思いますよ。安倍首相は国際的にはまったく無力ですが、国内的にはきわめて強圧的です。組閣の顔ぶれを見ればわかるように、政治家としての能力よりも、自分に対する忠誠心を優先して格付けしています。諫言する人間を遠ざけ、自分にへつらう人間を重用するというあり方がいかにも独裁者らしくて、それをうれしがっている支持者が多いと思います。

 習近平やプーチンやトランプと他に比べるとまるで役者の格が違いますけどね。それでも国内的には精一杯偉そうにしていますから、海外メディアに触れる機会のない人たちは「この人はきっと世界的にも偉いに違いない」と信じ込んでいる。独裁者だと思われたいから、安倍首相は国会にも出ないし、野党と対話もしないし、国民とも話さない。

 沖縄の辺野古基地問題にしても、あのような暴挙ができる国は、先進民主国の中にはありません。ああいうことができるのはロシアや中国や北朝鮮くらいです。別にぜひ辺野古に海兵隊基地を作らなければならない事情なんかないんです。それは米軍自身が明らかにしている。それでも、民意を踏みにじって工事を強行するのは「オレは習近平やプーチンみたいな独裁的な統治者なんだ」ということを国民に誇示したいからです。

 ――確かに昔の自民党なら野党の国対なんかと何度も話しあったと思いますね。

 内田 昔の自民党なら海兵隊基地はグアム移転が決まっているんだから、なんとかして沖縄から基地を少なくするように、米軍を説得し、沖縄の人を説得するために、あれこれと手立てを講じたと思いますよ。そういうことを一切しないのは、「全部オレが決める。一度決めたことは絶対に撤回しない」という「独裁者のポーズ」を取り続けることが彼にとってはあらゆることに優先するからです。現に、それで喜んでいる人がたくさんいるんですから。

■自分は保守で天皇主義者■

 ――ところで、先生はリベラル派文化人と見られていますが?

 内田 僕は保守ですよ。武道やって、能楽やって、滝行して、禊ぎ祓いやって、毎朝祝詞を唱えている天皇主義者がどうして「左翼」なんですか?

 ――マルクスを語っていますが?

 内田 マルクスを語ったらどうして左翼なんですか? 書棚を見てくださいよ。大川周明、頭山満、北一輝、村上一郎、権藤成卿・・・三島由紀夫だって大好きだし。

 ――今、リベラルが排外主義に対抗する手段はありますか? 

 内田 あります。天皇です。天皇制を本気で直視してこなかったことが日本の左翼リベラルの最大の弱点だと思います。三島由紀夫が69年五月に東大全共闘に対し、「君たちがひとこと『天皇』と言っていくれたら、一緒に安田講堂にこもっただろう」と言ったときに三島由紀夫が言わんとしたことを僕はわかるような気がします。

 僕が求めているのは「挙国一致」です。国民が分断を乗り越えて、統合されること、出自を異にする多様な市民を包摂できる寛容で、開放的な社会を構築することです。その場合に、どのような統合軸を立てれば、国民的分断が解消されて、対話的な環境ができるか。僕はそれをずっと考えています。

■山本太郎は保守本流■

 ――れいわ新選組の台頭をどう思いますか?

 内田 支持しています。すぐに寄付もしました。山本太郎も凱風館に来たことがありますし。

 ――れいわ新選組はリベラルの結集軸に成り得ますか? 立憲民主党の関係者なんかは否定的です。

 内田 山本太郎は保守ですよ。保守本流です。彼のモチベーションは「虐げられた者たちへの惻隠の情」です。その点では左翼的に見えるかも知れないけれども、彼の政策は理屈から出て来たものじゃなくて、真率な感情から出て来たものです。だって天皇に直訴したんですよ。田中正造以来なんですよ。

 国民が一人も脱落しないように、全員がなんとか食えるように気を配るのが国民国家における保守政治の仕事です。その意味では安倍首相はまったく保守ではありません。あれは急進主義者です。だって、国の根幹である憲法を変えろと言いながら、憲法を変えてどういう国を作るかについて、まったく具体的なことを言っていないんですから。

 ただ、総理大臣に全権を委譲できるように憲法に変えろと言っているだけです。僕が穏健保守で、あちらが過激派なんですよ。

■次期衆議院選挙で野党は「挙国一致」をめざせ■

 ――かつての宏池会的な保守本流と左翼陣営が接近している状況があると思いますが。

 内田 あるかもしれませんね。だから、山本太郎さんが与党の中の穏健な部分と共産党をブリッジするという「あっと驚く」解が提示される可能性はゼロではないと思います。挙国一致戦線を成り立たせる触媒の役割をするとしたら彼でしょう。

 この前の『赤旗』の取材で「次の衆議院選挙があれば、テーマは何か?」と訊かれて「挙国一致」と答えました。安倍政権と国論を二分しても対立するというスキームではなくて、「国民を統合する運動」と「国民を分断する運動」というかたちで相違点を可視化する。もうここまで国力が衰えているんですから、国民が分断されるような余裕はないんですよ。次の衆院選では「挙国一致」を掲げるべきだと言ったら、『赤旗』の記者は困ってましたけれど。

 ――『赤旗』にも沢山出ていますし、ネトウヨなんかから見れば「左翼系文化人」「パヨク」と思われていると思いますが。

 内田 僕を「左翼」という人は僕の書いたものをまったく読んでいないと思いますね。僕が政治的に一番近いと感じるのは一水会の鈴木邦男さんです。右翼だったら、米軍駐留を屈辱だと感じて、国家主権の回復を願うはずです。

■私は会津藩の末裔で古い日本に親しみ■

 ――戦後の体制派右翼は殆ど親米で来たが?

 内田 宗主国に親和する植民地現地民がどうして「右翼」なんですか? 宗主国にすり寄る人間がどうやって民族解放闘争をするんです?

 ――安倍さんを右翼とも保守とも認めないのはわかるが、あなたはかつての自民党のタカ派に近いということか?

 内田 ぜんぜん違いますよ。僕は靖国神社なんて行かないもの。僕が親しみを感じているのはもっと古い日本です。現在の自民党がありがたがっている「日本の伝統」なるものは、ほとんど明治維新後に政治的意図を以て作られた人工物です。

 明治の日本人が近代化のために必死で工夫したものですから、僕だって一定の敬意は持ちますけれど、僕が継承したいのは、明治維新があえて抑圧し、破壊し、隠蔽した前近代の「伝統」です。

 内田家は四代前が庄内藩士、三代前は会津藩から婿入りした人なので、家系的には戊辰戦争の敗者、賊軍の家系です。ですから、明治政府の奥羽越列藩同盟の諸藩に対するその後の仕打ちにはまったく納得していません。

 靖国神社は明治政府に貢献があった死者だけを祀り、敗者たちを祀らなかった。近代日本の生みの苦しみの中で横死した人たちに対しては、政治的立場にかかわらず等しく感謝と敬意を示すべきだと思います。現在の権力者に対する忠誠心の違いで、祭祀の当否を決めるような了見の狭い宗教施設に僕は敬意を抱くことなどできません。

<聞き手から> 『しんぶん赤旗』など左派の媒体にも登場し、リベラル左派政党を支援している内田氏が、自らをバリバリの「伝統的保守主義者で右翼」と表明したことは、新鮮だ。内田氏は真正保守という立場から、安倍内閣や政権の支持基盤となっている国家主義的な勢力を保守とは認めない。一方でリベラル左派と認識されてきた「れいわ新選組」と山本太郎氏を保守と規定している。
 極端な排外主義や戦争を煽るような発言をすることを「愛国」、そして「保守」と勘違いしている人々が多い中、日本の在り方が問い直されているのではないだろうか。
 内田氏は思想家、武道家、翻訳家等々多彩な顔を持つ。神戸市にある内田氏の主宰する合気道館(自宅兼務)、「凱風館」にてインタビューした。

■角田 裕育(ジャーナリスト)
1978年神戸市生まれ。大阪のコミュニティ紙記者を経て、2001年からフリー。労働問題・教育問題を得手としている。著書に『セブン-イレブンの真実』(日新報道)『教育委員会の真実』など。

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最終更新:9/19(木) 12:31
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