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スピッツ、約3年振りオリジナルアルバム 細部にこだわりを見せた“新たな挑戦”:レビュー

9/19(木) 18:13配信

MusicVoice

 スピッツが10月9日、前作『醒めない』より約3年振りのオリジナルアルバム『見っけ』をリリースする。発売に先駆けて都内でアルバム全曲最速試聴会が9月6日におこなわれた。会場ではスピッツのディレクター竹内修氏と司会者とのトークセッションも展開された。“変わらぬスピッツ”と“新たなスピッツ”が感じられる味わい深い『見っけ』は、ポップに聴くことはもちろん、細部に注目すると楽しみ所満載という、聴きごたえ抜群の作品。30年間ディレクターとしてスピッツと制作を共にした竹内修氏は本作について、デビューからの現在のスピッツの変化や近況について様々な角度から語った。その内容もふまえ、試聴後のアルバムレビューをしたためたい。【取材=平吉賢治】

■スピッツという定型と、新たな挑戦

 『見っけ』試聴を前に、ディレクター竹内修氏から本作とスピッツの現状と変化について語られた。前作から3年間という期間でのメンバーの変化については、「30周年という節目を経てリセットされたという感じがあり、新鮮な気持ちでアルバムのレコーディングに入った」と述べた。

 楽曲面での変化については、「楽曲構成の定型から外れてきているスピッツがある」と、現在進行形のバンドのかたちを伝え、「もっと簡潔に、研ぎ澄まされている」とも表現した。それは、実際にお披露目されたアルバムの全曲を聴くと、納得の内容だった。

 アルバム1曲目「見っけ」はロック調の4つ打ちビートの楽曲。基本的にバンドサウンド生演奏を中心とした“オーガニック”な点は、ある種のスピッツらしさとも捉えられるのだが、この曲ではそこにシーケンスのサウンドがキラキラと踊るという印象的なテイストがプラスされていた。そして、そこにふわりと漂う草野のボーカル。これまでのスピッツの作品もそうだが、今作『見っけ』は特に、各パートの音がクリアに出力され、的確にアンサンブルの役割を担い、かつ一体感があるという、“音としての良さ”、そして“演奏感の伝わりやすさ”、更には“楽曲・音楽の捉えやすさ”という3点が特に顕著に感じられた。

 その点に加え、待ってましたの“スピッツ感”のような、まるで90年代のJ-POP黄金期を彷彿とさせるような曲調とも感じられる2曲目の「優しいあの子」。“スピッツ感”が何かと言うと、メロディの染みやすさというのが最たるところであろうか。イントロのクランチサウンドのギターで奏でられるメインメロディを簡潔に、そしてスピッツならではとも言える、人間味のあるちょっと跳ねたリズムを含み、メインメロディはサビで、最小限の尺で草野のボーカルが漂う――。

 3曲目の「ありがとさん」についてディレクター竹内修氏は、「ありがとう」という素直な言葉ではなく、「ありがとさん」と、ちょっとひねって照れ隠しのように言っているのが草野的なのかなという思いを明かした。単に感謝の言葉ではなく、そこに「この人達には一体何があったのだろう?」と思わせるような歌詞と捉え、それが草野の真骨頂だという思いを語った。

 また、「本作の代表曲の1曲ではあると思っている」と、竹内修氏はこの曲の存在感を示した。「ありがとさん」は、優しく、馴染みやすいポップスでありながらも“ロックという側面”が、濃過ぎず、薄過ぎず滲んでいる。例えるならUKロックのいなたさと言うか、ダーク・ビューティなギターの歪みサウンドと言うか、そういったギターアンサンブルのなかに草野のキュンとくるボーカルを乗せるという、スピッツ風オリジナリティを持たせたバンドサウンドの名トラックと言えよう。

■厳選されたロックのテイストは“スピッツ・サウンド”へと昇華

 ロックという視点で聴くと、本作にはどこかに偏りがあるサウンドではなく、あらゆるロック要素が織り込まれているのが興味深くも味わい深い点だった。4曲目「ラジオデイズ」の濃度の高いギターアンサンブルもそうだし、6曲目「ブービー」ではリズムの妙技も見せる。ラスト・トラックの「ヤマブキ」ではUSロックのテイストを感じる部分もあったりと、様々なロック・アプローチがありながらも「スピッツ」として成立しているのは30年というキャリアの深みと洗練された楽曲構成、アレンジ、パート選び、音色のバランスの厳選っぷりを感じずにはいられなかった。正に、「研ぎ澄まされている」のである。

 そして、スピッツの楽曲では、わかりやすくブラックミュージックやダンスミュージックに寄せたようなリズムアプローチは、さほど顕著には見られないと思われるなかで、スピッツというバンド独特のグルーヴがあり、それは今作でも感じられる。“踊れる”というグルーヴというより、“心が弾む”というグルーヴだろうか、“目に見えないワクワク感が引き出される”というのがスピッツのグルーヴの魅力と感じるのである。

 さて、トラック中盤に戻るが、7曲目「快速」のように、メロディの後ろで伴奏が絶妙に半音移動するという隠し味をさりげなくまぶすあたりは、スピッツの変わらぬ粋なアプローチと言えるだろうか。心地良いメロディ・アンサンブルに対し、各パートに着目して聴いて「心地良さの正体」に気づけるという楽しみも、ありとあらゆる部分に散りばめられているのである。「YM71D」での少し変化球的なギターとストリングスというアレンジは、音楽通が唸りそうなブレンド具合と感じられた。

 ディレクター竹内修氏が「今作でプログレッシブ・ロック的なテンポチェンジを含む楽曲への挑戦があることは、スピッツ初の試み」と語ったのは10曲目の「まがった僕のしっぽ」。6/8拍子と、通常の8/8拍子が混在し、かつ、セクションでのテンポチェンジがほどこされた本トラックは、『見っけ』の収録曲で、音楽的に最も興味深いものだった。

 草野の清涼感・透明感のあるボーカルと、生の息遣いを感じるバンドアンサンブルがそうさせるのか、確かに楽曲構成は“プログレ的”ではあるのだが、そこに“マニアックさ”は感じられないように思えた。この、「いままでにないアプローチを自然にスピッツ楽曲として描く」という点は、特筆すべき彼らの新しい魅力ではないだろうか。

 変化球でありながらもポップに聴ける“新たな挑戦”が含まれたトラックのあとは、アコースティックなナンバー「初夏の日」。この、さりげなく緩急がつけられた曲順構成には、アルバムを一枚通して聴いて楽しむという感覚を改めて感じさせてくれた。

■ディレクターによる歌詞の制作秘話も

 ディレクター竹内修氏は、草野マサムネの歌詞についての制作秘話も明かした。本作収録曲の歌詞の一部にある<サスティーン>というフレーズ(音楽分野では「音が持続する」という意味)に対し、「本来の英語は“sustain=サステイン”が正しいけど、“サスティーン”でいいの?」と草野に聞いたところ、「そのほうが普通に通るのでいいんです」というやりとりがあったという。

 草野は言葉の本来の言い方よりも、多くの人に伝わるような言葉の選び方をしているという。以前の作品でも、あえて“ら抜き言葉”を使ったりと、柔軟な言葉の選び方をしているという、ディレクター視点ならではの草野の作詞のポイントを明かした。その点に注目して本作を聴くと、歌詞の面でも新たな発見があり非常に興味深い。

 『見っけ』は、「今までにはないスピッツ」もあり、「スピッツらしさ」が芯にある、非常に味わい深くも心地良い聴きごたえのアルバム。そして、“お腹いっぱい”と“もう一杯”という、満足感とおかわり欲が湧き出る作品。“現在のスピッツ”を感じるにふさわしい内容だった。

 スピッツの16作目となるアルバム『見っけ』は、連続テレビ小説『なぞつら』主題歌「優しいあの子」も収録されている全12曲入りのフルアルバムで、アナログ盤を含めた全6形態でのリリースとなる。そして、本作を携えた全国ツアー『SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 “MIKKE”』の開催が決定している。

最終更新:9/19(木) 18:13
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