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日仏合作映画「真実」公開迫る!この際だから是枝裕和監督にいろいろ聞いてみよう

9/19(木) 10:30配信

まいどなニュース

「万引き家族」で昨年、カンヌ国際映画祭の最高賞を受賞した是枝裕和監督の新作「真実」が、10月11日から全国で公開される。フランスを代表する大女優カトリーヌ・ドヌーヴやジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークらをキャストに迎え、パリで10週間かけて撮影された日仏合作映画。今年のヴェネチア国際映画祭で、日本人監督としては初めてオープニング作品に選ばれたこのユニークな新作について、是枝監督に話を聞いた。話題は「真実」撮影時のエピソードにとどまらず、日本とフランスの労働環境の違いや文化としての映画のあり方、さらには昨年「万引き家族」を巡って起きたバッシングのことなどについてもじっくりと語ってくれた。ほぼノーカット、ちょっと長いです。

【写真】映画「真実」から 共演したカトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュ

―日本人の監督が、フランスで、フランスの俳優やスタッフらと制作する、というのはあまり例のないことだと思いますが、このやり方だからできたこと、逆にできなかったことはありますか?

「日本ではできたけど、フランスではできなかったことは『土日返上』。フランスの現場は週休2日、1日8時間厳守で、土日撮影とかあり得ないです」

―是枝監督が日本で撮るときは、そういう体制ではない?

「日本でそんな余裕がある現場なんて、経験したことない(笑)。週1で休みがあれば、本当に恵まれてると思うくらい。さすがに最近は『6時集合の30時終了』みたいなことはなくなりましたけど。もう夜中、僕がもたないから。だけど日本の多くの現場は、おそらく6時集合で、深夜0時までに終われば『今日はてっぺん回らなくてよかったな』という感じでしょうね」

―フランスでそれができている理由は?

「組合が強いから。それは俳優もスタッフも。みんな『私たちが闘って勝ち取ったんだ』と言ってましたね。仮に土曜に働くとギャランティ200%で、日曜に働いたら300%なんです。つまり『やるな』ということ。健全ですよね」

―健全だと感じたんですね。

「最初は『せっかくノッてきたのに20時で終わるなんて。もうちょっと撮ろうよ』と思いましたよ。日本だと『よし、ここから晩ごはん食ってもうひと勝負!』という感覚だったけど、そういうのが一切ないわけですから。金曜の撮影がすごく良かったのに、土日が空いてしまうと、月曜に同じシーンを撮っても繋がらないのではないかという不安もありました」

「でも途中から、そういうものだと思えるようになった。ゆっくり休んで、土曜に編集して、日曜には明日から撮る1週間分の脚本を直して…というペースができてしまうと、立ち止まって考える時間もあるし、体調崩さないし、結果的に良かったですよ」

―日本でもできたらいいなと思われましたか?

「やるべきだと思います。今回、撮影部のチーフの女性は3人の子供を育てるシングルマザーだったのですが、体制がこのようにしっかりしていると、毎日家に帰って子供にごはんをあげられる。それで土日も休みだし。こういう働き方をしている女性がたくさんいた。日本だと、そんな事情を抱えている場合、どうしても『現場は難しい』とならざるを得ない。そこは圧倒的に向こうの方がいいと思った」

―では今後、日本の現場でも実践を?

「個人的にはやろうと思っているし、広まった方がいいと思っている。ただ、そのためには予算が増えないと無理だし、意識改革もどこまで進むかですよね。組合がないからさ、日本は。労働環境、今、本当にひどいですから」

「とはいえ、僕もワーカホリックなところがあるから、フランスの現場を手放しで良いとは言えない気持ちも実はちょっとある。日本の映画の現場は、クランクインの前にみんなでお祓いをして、『さあ祭りが始まるぞ』って盛り上がって、3食、もしくは4食みんなで食べて、事務所の床に寝袋で寝て…っていうさ。そういう文化祭的な感覚で映画が作られていく、良く言えば“一体感”があるじゃないですか。僕自身はそういうノリはそんなに好きではないけど、その面白さというのは間違いなくあるわけで」

「逆に、フランスにはそういうのは全くない。映画がもっと日常的。撮影現場もそうだし、映画を見に行くということもそう。それは成熟度の違いだと思う。一長一短あるけど、映画を『仕事』として考えるなら、絶対にフランスの方がいい。『働き方改革』は、あの国ではもう終わっているんです」

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■台詞を覚えて来ないカトリーヌ・ドヌーヴとは「相性が良かった」?

―話を「真実」に戻します。もともと是枝監督の手元にあった未完成の戯曲を改訂してできた作品だそうですが、主演にカトリーヌ・ドヌーヴを迎えたことで、決定的に変わったことはありますか?

「最初に書いていた15年、16年くらい前は、その国の映画史を背負えるような大女優がキャリアの晩年を迎えて…という設定だった。正直に言うと、日本ではそれをリアルにできる人が思いつかなかった。でもフランスだったら、ドヌーヴだったらできるぞ、と。それでドヌーヴの出演が決まって、リライトを始めた。だから、ドヌーヴありきの脚本」

―ドヌーヴは「真実」のキャラクターそのまんまの人?

「そういう部分もある。彼女は強く役づくりをするタイプではない。現場にフラッと来て、サッと帰ってくからね。劇中で彼女が言っているように、『役者は存在感』を地で行く人です」

―彼女の軽やかさや明るさが、作品全体の雰囲気を決定づけているように感じられます。

「それに関しては、思っていた以上だった。ドヌーヴは子供みたいなんですよ。全然じっとしていないし、すぐ飽きちゃう。飽きちゃうというか、この仕事を60年もやっているから、よくできたかどうかが監督の僕より先にわかるんです。それから、早く帰りたい日はいつもより台詞の入りが早い(笑)。彼女は台詞を覚えて来ないけど、多分、家で台本を開くのが『美学』として受け入れ難いんだと思う。台本に線を引くこともないし、『役づくりって何?』みたいな感じ。既にベストなテイクがあっても、何度もトライしたがるジュリエット・ビノシュとは正反対のタイプでした」

「でも決していい加減なわけではなくて、役者としての動体視力が、圧倒的に優れている。僕はすごくやりやすかったですよ。台本を完璧に覚えてきて現場で動かない人よりは、ずっとやりやすい。相性は良かったんじゃないかな」

―現場では日本語で?

「そう、日本語しかできないから。『よーい、ハイ』って」

―外国語で演じられているのを見て、良いかどうかはわかるものですか?

「わかりましたね。オーディションで、自分の書いた台詞を言ってもらいながら、通訳を介して『もう少しやわらかく』などと指示を出せば、ちゃんと違う言い方で跳ね返ってくる。そういう経験を通じて、『あ、通じるな』と思った。例えば、言葉のわからない映画を見ても、『リズムがいい』『掛け合いがうまくいっていない』といったことは、なんとなくわかりますよね。台詞のニュアンスに関して言うなら、フランス語はわからないけど、かなり的確に掴めていたと思います。そんなにズレてないはず」

―「母と娘」という関係性だけでなく、「演じること」についての物語でもあると感じました。終盤には、母、娘、孫の3人がそれぞれ「演技」を交わす、「真実」というタイトルに込められた意味が浮かび上がる印象的なやりとりがあります。

「娘(ビノシュ)が自分の娘を使って母(ドヌーヴ)に向けて言わせた『台詞』は、もしかしたら彼女が子供の頃に母に言いたかった“本心”かもしれない。『演じることは嘘ではなく、むしろ真実に属するもの』というビノシュの演技哲学を聞かせてもらったことも、本作の出発点になっています」

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■「万引き家族」が受けたバッシングと、これからの映画作りについて

―以前あるインタビューで、日本の映画業界が国内のマーケットのことばかり考えている現状への危機感を語っていました。作り手や配給会社に海外へ出て行く意欲がほとんどない、と。今回の「真実」の試みは、そうした状況に一石を投じるようなものになったと思いますか?

「一石を投じるために撮ってるわけじゃないけどね(笑)。でもいろいろやって学ぶことがあった。さっきの働き方の問題もそう。やっぱり、日本の中だけで撮っていると、それが当たり前になっちゃうから、僕だけじゃなく、海外で撮っている人の経験が、国内の映画制作にフィードバックされていく形になればいいなとは思ってますよ。日本の映画は今、すごく閉じてるから」

―俺に続け、という気持ちはありますか?

「いや、それはもう、それぞれの監督の問題意識の持ち方によるから。外に出たくない人を無理に引っ張っていってもしょうがない。ただ、いろんな意味で視界は広がる。やめといた方がいいよ、とは絶対言わない」

―昨日(9月17日)NHKで、ご自身が師と仰ぐケン・ローチ監督と対談しているのを拝見しました。ローチ監督はイギリスの貧困や格差をテーマにした「わたしは、ダニエル・ブレイク」(2016年のカンヌ最高賞)で、「国から助成金をもらっておいて、反イギリス的な映画を作った」と保守系メディアなどからバッシングを受けたそうですが、是枝監督も昨年、「万引き家族」で全く同じような批判にさらされましたね。

「ケン・ローチが受けたバッシングに比べれば、俺のバッシングなんて大したことない。勇気づけられるよ(笑)」

「そりゃ、腹は立つよ。腹は立つけど、それはやっぱり、映画という文化を、というより文化というものを、私たちの社会の共有財産としてどう存続させていくか、発展させていくかという意識で語ってこなかった私たちの責任だと捉えるしかない。映画は消費されていくものだとしか思われていないからさ。そんなものになんで税金使うんだって発想でしょ」

「だけどフランスや韓国には、放置していたら私たちの大切な文化である『映画』が滅んでしまうかもしれないという危機感と、それをどうやって守っていくかという非常に明快なビジョンがある。国も、業界も、見る側も、それをわかった上で、映画入場料の一部を劇場支援や映画の多様性確保のために回す仕組みができている。そういう考え方がちゃんと定着している国と、そうでない国との差を痛感しますけど、じゃあやる気が失せるか、と言われると、逆ですね」

―燃えるタイプですか。

「意外とそのへんはタフなんですよ。理不尽だなと思うことはいろいろありますよ、正直言うとね。だけど、しょうがないじゃないですか。助成金をもらって僕がしなければいけないのは、いい映画を作ること。お礼を言いに行くことが必要なわけじゃない。行きたきゃ行けばいいとは思うけど、それは全然本質じゃない」

―その「国からの祝意を辞退する」という是枝監督の行動も、またハレーションを起こしましたが。

「そうそう、それは……もう『どうかしてる!』としか言いようがない。だけど、まあ、いい映画を作ることがお礼だから。いい映画を作っていきたいね」

…残念ながらここで時間切れです。ありがとうございました。

是枝監督自身が「秋のパリを油彩ではなく水彩で描いたような作品」と語る「真実」は、10月11日(金)ロードショー。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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最終更新:9/19(木) 10:30
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