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敏腕殺し屋の第2の人生は俳優!? ダークコメディドラマ「BARRY」2年連続エミー賞受賞狙い撃ちなるか

9/20(金) 17:30配信

cinemacafe.net

今年も目前に迫ったテレビ番組のアカデミー賞ことエミー賞授賞式。FOXチャンネルにて9月23日(日本時間)朝9時から生放送される第71回エミー賞は、近年テレビ番組黄金期を迎え各部門ともに良作ひしめく大接戦である。

【写真】ダークコメディドラマ「BARRY」

その中でも、最も激戦と言われているのはコメディ部門だ。一部メディアでは“ポストコメディ”とも呼ばれ、従来の面白おかしいコメディではない、ダークな笑いが光る作品が多く輩出されている。その代表格として2年連続受賞を狙うHBO製作、Amazon Prime Videoでシーズン1配信中の人気ダークコメディドラマ「BARRY」に改めて注目したい。

敏腕殺し屋が選んだ第二の人生は俳優!?

元海兵でありイラク戦争退役軍人の主人公バリー(演:ビル・ヘイダー)は、退役後父親同然のように慕っているフュークス(演:スティーヴン・ルート)の元、アメリカ北部オハイオ州クリーヴランドで雇われの殺し屋として生計を立てていた。殺し屋と言えば、スーツに身を纏い颯爽と任務をこなすダンディな男性を想像するが、バリーは腕は確かだが、見るからにくたびれた中年男性である。

そんな彼は中年の危機か、生きる意味をすっかり見出せなくなっていた。ある日休みが必要だとフュークスに告げると、「お前に必要なのは休みではなく変化。ロサンゼルスでいい仕事があるから行ってこい」と話を反らされ、半信半疑のままロサンゼルスへ旅立つバリー。いつも通り死んだ魚の様な眼をしながら、チェチェンマフィアの妻を寝取った男を暗殺する依頼をこなすため尾行を開始。すると事態は急展開! 男が通う俳優養成所に辿り着き、なんと、殺さなければならないその男と一緒にレッスンに参加することになってしまう。


生きる意味をなくしていたバリーは、俳優の卵たちと交流する中で、自分の第2の人生は俳優だと思い立ち、殺し屋から何とか足を洗おうとし始める。本作の興味深いところは、「殺し屋として生きる男」と「俳優を目指す男」という別々のストーリーとして描かれそうな題材がごちゃ混ぜになっているところだ。しかも、一見コメディではなさそうに思えるが、1話30分弱というコメディ作品でよく使われる形式で描かれている。通常のコメディ作品を連想すると驚くほどシリアスなストーリー展開であることも特徴だ。


夢を叶えたい男バリーを描くのは、苦難の末、夢を叶えた男ビル・ヘイダー

殺し屋業を辞めて第二の人生、俳優になる夢を叶えたい男バリーを描くクリエーター自身が、苦難の末この作品で夢を叶えたことも作品自体の味わいをより一層深くさせる。主演を務めるビル・ヘイダーは本作の共同クリエーターであり、第1話から第3話の監督も務めている。アメリカで国民的人気を誇る「サタデー・ナイト・ライブ」出身の人気コメディ俳優であるビルは、2018年SXSWでのインタビューで、映画オタクであり、映画監督になりたくて田舎からロサンゼルスに出てきた過去を明かしている。

テレビ番組スタッフとしてキャリアをスタート。「サタデー・ナイト・ライブ」抜擢以降は人気コメディ俳優の地位を確固たるものにし、遂に2018年「BARRY」で第二の人生として、見事長年の夢だった監督業デビューを果たしたのだ。「(監督業は)とてもリラックスできたんだ。すごく楽しかったよ! しくじったんだ。撮影初日まで監督としての準備に没頭しすぎて、撮影初日迎えた時にバリーをどう演じるか全く決めてなかったんだ(笑)」と語っていることからも、彼がどれほど監督という仕事に夢中になっているかが分かる。


「サタデー・ナイト・ライブ」以降順風満帆に見える彼だが、「サタデー・ナイト・ライブ」時代の特に最初の4年間は「いつかクビを切られるのでは」と常に大きな不安を抱えていたという。幼いころから不安に苛まれることが多かったビルは、人生の大半を不安と隣り合わせて生きてきたそうだ。全米を笑いの渦に巻き込み、コメディ俳優としての仕事を全うしながらも、その裏では強い不安を抱えていたビル。

「Indiewire」によると、共同クリエーターのアレック・バーグは「僕たちは、殺しに長けているが殺し屋業が嫌いというアイディアについて話し始めたんだ。つまり彼(バリー)は彼自身の才能の囚人で、それはビル自身の『サタデー・ナイト・ライブ』時代の経験でもある。ビルはコメディアンとして素晴らしいが、そこから楽しみを見出せなかったんだ」と語っている。苦悩の末、夢を叶えたビルは、職種は違えど、人生に苦悩するバリーそのものでもあるのだ。

コメディは面白おかしいだけじゃない”ポストコメディ”へ

そんなビル・ヘイダーの人生経験が大きく影響した「BARRY」は、コメディでありながら、面白おかしい演出で描くことを一切していない。シットコムでもないので拍手の音や笑い声が入ることもない。「Vulture」では近年のコメディ作品を”ポストコメディ”と呼び、その代表作の一つとして「BARRY」を挙げている。既存のコメディ作品の形式をとりながら、ジョークがないコメディ作品を”ポストコメディ”としている。

「BARRY」でも笑いがワッと巻き起こるようなジョークはない。バリーが必死に殺し屋から足を洗おうとする中で、思い通りに事が運ばなかったり、勘違いされたり、失敗したり、思わぬ良い結果が出たり…人間関係や人生の微妙なズレを笑いに変えている。特に、いま注目の若手日本人監督ヒロ・ムライが担当した第5話と第6話は、バリーの殺し屋としての顔と、俳優としての顔のバランスを次第に崩していくターニングポイントであり、”ポストコメディ”の作品としてより大きく舵を切るエピソードなので注目頂きたい。

今年度エミー賞では9部門にノミネートしている「BARRY」シーズン2、ビル・ヘイダー個人としては、「Documentary Now !」シーズン3(日本未公開)と併せて21部門でノミネートの快挙だ。シーズン2の日本配信が待たれる「BARRY」は果たして2年連続各部門での受賞を狙い撃ちできるか期待がかかる。

最終更新:9/20(金) 17:30
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