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『大人は判ってくれない』世界を魅了する、フランスからやってきた新しい波「ヌーベルヴァーグ」

9/20(金) 22:05配信

CINEMORE

子供たちの心を惹きつけた邦題

 『大人は判ってくれない』―― この邦題を映画雑誌で見かけ、一瞬で覚え、そして忘れられない言葉となった。当時中学生だった私の心に響く、魔法のような邦題だったのだ。近所のレンタルビデオ店では見つけられず、遠方の少し大きめのレンタルビデオ店でやっと出会えた時には、嬉しくてすぐに手が伸びた。当時の私と同じ年頃の、アントワーヌ・ドワネル少年の物語。見終えた私は、なぜか無性にアントワーヌのように、走り出したくなった。そう、中学生の私はすっかり感化されてしまったのだ。

 12歳のアントワーヌ・ドワネル(ジャン=ピエール・レオ)。学校ではやたらと怒られ勉強も嫌い、家でも母(クレール・モーリエ)と義父(アルベール・レミー)が上手くいっておらず、行き場がない。しかも家は狭いアパートで窮屈だ。親友のルネ(パトリック・オーフェー)と学校をサボっている時と、大好きな小説家バルザックの事を考える時だけが楽しい。

 けれど、そんな楽しい時間はずっとは続かない。サボっている時に、母が他の男性と抱き合っている所を目撃してしまう。そして学校には、サボった事とバルザックの文をコピーしたことがバレてしまう。それでも、親友のルネだけはかばってくれた。そして、お金欲しさに義父の会社からタイプライターを持ち出してしまい、アントワーヌは少年院に送られる……。

フランスからやってきた新しい波「ヌーベルヴァーグ」

 本作は、1950年代末のフランス映画界で起った”ヌーベルヴァーグ”の立役者、フランソワ・トリュフォーの初長編映画である。初長編映画ながら、トリュフォーはカンヌ国際映画祭にて監督賞に輝いた。一方、大賞であるパルム・ドールに輝いたのは、『黒いオルフェ』(59)。フランス出身のマルセル・カミュ監督による、ブラジルが舞台のギリシャ神話を元にした作品である。アカデミー外国語映画賞まで受賞している名作だが、ヌーベルヴァーグとは一線を画す。

 そして、日本の広島を舞台にしたアラン・レネ監督の『二十四時間の情事』(59)も同じ年に公開されている。ヌーベルヴァーグは、カイエ派(右岸派)・左岸派の2派に分かれ、トリュフォーがカイエ派の代表ならば、レネは左岸派である。そして、次の年にはカイエ派のジャン=リュック・ゴダールにより『勝手にしやがれ』(60)というヌーベルヴァーグの代表作が誕生し、トリュフォーも原案で関わっている。

 また、『大人は判ってくれない』を語る上で外せないのが、監督フランソワ・トリュフォーの半自伝的作品であること。そして、主人公アントワーヌ・ドワネルを描いた作品を、トリュフォーが生涯に渡って作り続けたことだ。『二十歳の恋』(62)というショート・オムニバスで『アントワーヌとコレット』の題でアントワーヌの20代の恋を描いた後、『夜霧の恋人たち』(68)、『家庭』(70)、『逃げ去る恋』(79)と続いた。

 本作のアントワーヌをオーディションで勝ち取ったジャン=ピエール・レオは、自身の成長と合わせアントワーヌを20年も演じ続けた。その中でも『夜霧の恋人たち』は、アカデミー外国語映画賞にノミネートされるなど評価を受けた。

 『恋のエチュード』(71)などのアントワーヌ役以外のトリュフォー作品でも主演を務めていたジャン=ピエール・レオは、トリュフォーの秘蔵っ子であったことは間違いない。しかも、トリュフォーだけでなくジャン=リュック・ゴダールからも愛され、『男性・女性』(66)や『ウイークエンド』(67)などにも出演した。トリュフォーとゴダールは、まるで競うかのようにジャン=ピエール・レオを起用しており、ヌーベルヴァーグの顔と言っても過言ではないだろう。

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最終更新:9/20(金) 22:11
CINEMORE

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