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ブラッド・ピットが語る俳優、プロデューサーとしての未来。憧れはデヴィッド・ボウイ

9/21(土) 9:30配信

Movie Walker

ハリウッドのトップスターで、いまやオスカー作品賞受賞作を3作も手掛けた名プロデューサーでもあるブラッド・ピットが、製作も務めた最新主演映画『アド・アストラ』(公開中)で来日。本作で初めて宇宙飛行士役にトライし、ヘルメットから覗く瞳で溢れでる感情の機微を表現したブラッドは、彼のキャリア史上最高の演技を見せたと称賛を浴びている。ブラッドにインタビューし、55歳となったいまならではの俳優業への向き合い方や、プロデューサー業に懸ける情熱を聞いた。

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『アド・アストラ』とは、“TO THE STARS=星の彼方へ”という意味のラテン語。エリート宇宙飛行士ロイ・マグブライド(ブラッド・ピット)に課せられたミッションは、地球から32億キロ離れた太陽系の彼方で消息を絶った宇宙飛行士の父親クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)の捜索だ。地球を旅立ったロイは、その後、父の衝撃的な真実を知ることになる。

■ 「自分と親、自分と息子との関係を見つめ直せる作品だった」

ブラッドは、本作に惹かれた理由をこう述べる。「自分と親との関係性を見つめ直すきっかけになると思ったし、父親である自分が、子どもの目にどう映っているのかと、子どもを育てることの責任についても改めて考えさせられたんだ」。

トミー・リー・ジョーンズ演じるロイの父親クリフォードは、宇宙飛行士として英雄視されながらも、家族のことは一切顧みないタイプで、ロイは幼少期から心に孤独を抱えていた。

「クリフォードは、宇宙を探求するという任務を最優先に考える人だったから、子どもを持つべきじゃなかったのかもしれない。でも、息子であるロイは、そんな父親の痛みを理解したいと思ってきた。子どものころは、なにか起こっても、全部自分のせいだと思い込んでしまいがちだけど、大人になると、親のいい面と悪い面の両方が見えてきて、初めて、そうではなかったと気づく。ただ、そういう父を見てきたからこそ、ロイは自分の痛みを遠ざけようと、人との間に壁を作ってしまう人になってしまった。やがて彼は、自分がなぜそうなったのかを、宇宙の旅を経てようやく理解していくんだ」。

メガホンをとったのは、『エヴァの告白』(13)のジェームズ・グレイ監督で、入念なリサーチの下、リアルな近未来を思わせるスペースアクションにこだわった。CGやブルーバックでの撮影も極力少なくし、例えば月でのバトルシーンなども、砂漠でロケを敢行している。プロデューサーとしても本作に関わっているブラッドは「これまでのSF映画で見たことがないアクションシーンを意識的に入れた」と言う。

「SF映画の傑作はたくさんあるから、今回、なにか新しい物を提示できる映画でなければ、作る意味がないと思っていたが、ジェームズ・グレイ監督は、おもしろいアイディアをたくさん持ってきてくれた。宇宙が舞台のSF映画は、未来的で洗練されたものが多かったが、今回は宇宙を旅することの煩わしさなど、現実的な面もちゃんと描いている。また、ほとんどのSF映画には宇宙人が出てくるが、もしも宇宙にそういうものが一切いなかったとしたら?という問いかけもしていくよ」。

今回、宇宙服を着用しての演技なので、必然的にヘルメット部分をクローズアップした表情が多くなる。実際、“目は口ほどに物を言う”という言葉のとおり、彼の瞳がロイの胸の内を雄弁に物語っている。

「役者が悲劇や喪失感をリアルなものとして受け止めていれば、きっとそれは観客にも伝わるんじゃないかと僕は思っている。ニュース番組で悲しんでいる人たちを見ると、視聴者である僕たちもその辛さを感じてしまうことと同じさ。実際、僕はロイとして現場にいたんだ。また、宇宙という空間は果てしない闇でもあり、孤独感を表すのに効果的だったと思う」。

■ 「僕もアカデミー賞を獲れたことには、驚いているよ」

本作で改めて演技派スターとしての円熟味を見せたブラッドだが、ニューヨーク・タイムズ紙で、俳優引退をほのめかせたことも話題となった。改めてその件を尋ねてみると「そんなこと言ったかな?僕はその記事を読んでいないし、正直、なにを言ったのかもハッキリ覚えてないんだ」と苦笑いする。

「世の中に溢れているのは、若者が主役の物語だから、そういう意味で自分が年をとっていくと、出演する作品が少なくなってくるのは確かだと思う。でも、いい作品があるなら、今後も俳優として出演したい。ただ、いまは興味が多岐にわたっているので、ほかにもいろいろなことを学びたいし、表に出ない裏方の仕事もやりたいと思っている」。

裏方といえば、ブラッドのプロデューサーとしての敏腕ぶりは枚挙にいとまがない。自身が率いる映画制作会社プランBエンターテインメントは『ディパーテッド』(06)、『それでも夜は明ける』(13)、『ムーンライト』(16)の3本をアカデミー賞作品賞に導いた。その勝因について彼に聞くと「僕にもわからないよ」と笑う。

「敢えて言うのであれば、やはり作品への情熱と、複雑で深いストーリーかな。映像業界全体でいえば、動画配信サービスの作品も入ってきて、ここ20年くらいで大きく様変わりしてきている。いまは本当に低予算でしか語れない物語か、超大作かどちらかが多く、その中間にある、非常に作家性の高い作品がなかなか世に出られないのが現状だ。僕は、彼らをサポートできる立場にいられたことがすごくラッキーだったと思う。彼らが手掛ける物語は本当にすばらしいし、共に同じような感性を持つパートナーもいてくれるので、いいものを作れたと思う。ただ、僕もアカデミー賞を獲れたことには、驚いているよ」。

現在55歳のブラッドだが、俳優としてもプロデューサーとしても脂が乗ったいい時期にあるという印象を受ける。そんな彼が、引き際の美学を語るうえで、名前を挙げたのがデヴィッド・ボウイだ。「デヴィッド・ボウイはすべてを受け入れて、優雅に去った気がする。そういう彼に憧れているし、僕もそんなふうになりたいよ」。

デヴィッド・ボウイといえば、世界的名声を得たミュージシャンであり、音楽プロデューサーや俳優としても数々の受賞歴を誇るマルチアーティストだったので、確かにブラッドと通ずるところがある。晩年のボウイは、引退説や重病説が報じられたなかで、突然現役復帰し新曲「ザ・ネクスト・デイ」をリリースしたり、遺作となった最後のアルバム「ブラックスター(★)」が、グラミー賞の最多5部門を獲得したりと、まさに“生涯現役”の人だった。ブラッドもこの先、好奇心や情熱の赴くまま、いろいろなことにチャレンジしていくのだろう。ただ、彼のファンとしては、やはり『アド・アストラ』のような主演映画の秀作に、これからもどんどん出演していってほしい。(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)

最終更新:9/21(土) 9:30
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