ここから本文です

「端末値引き上限2万円」の規制にアップルが猛反発する理由

9/23(月) 7:11配信

マイナビニュース

「分離プラン」の義務化や“2年縛り”の違約金大幅引き下げ、スマートフォンの値引き規制などがなされる、2019年10月に実施される電気通信事業法の改正。その省令改正に向けたパブリックコメントが公開されましたが、そのなかでアップルやクアルコムなどいくつかの企業が、改正案に猛反発するコメントを寄せています。一体なぜでしょうか。

【資料】総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令等の整備について」より

アップルが「端末値引き2万円」に反対するわけ

2019年10月は、携帯電話業界にとって大きな変化が相次いで起きることになります。その1つは楽天モバイルの新規参入、そしてもう1つは電気通信事業法の改正です。

今回の法改正に伴って、携帯電話料金と端末代金を明確に分離し、通信料金を原資として端末代金の大幅な値下げ販売を不可能にする「分離プラン」の導入がなされることが決まっています。それだけでなく、法改正に伴う競争環境の整備案で、2年間など長期的な契約を前提とした通信料金の割引サービス、いわゆる「2年縛り」の違約金上限が現行の10分の1水準となる1,000円にまで引き下げられるなど、携帯電話会社により厳しい規制が加えられることで話題を呼びました。

その後総務省は、法改正に伴って実施される省令の案、そして法改正に伴うモバイル市場の公正な競争環境の整備に関する基本的な考え方の案について、 2019年7月22日までパブリックコメント、つまり企業や個人などから公に意見を募っていたのですが、2019年8月23日にその結果が公開されました。

それらパブリックコメントの内容で目立っていたのが、米アップルが省令案に対して厳しい批判のコメントを寄せていること。実際、「総論」とされているコメントの一部を見ても、「残念なことに、この度の総務省令案のいくつかの条文は競争の抑制につながり、日本のお客様に対しさらに高い価格で今より少ない選択肢という状況をもたらすものであると考えています」と記述されており、明確に反対姿勢を示している様子がうかがえます。

特にアップルが強く反対しているとみられるのが、分離プランの導入によって大幅に規制される端末の値引きの中でも、在庫端末に関する特例について。法改正後の制度案では、通信契約に紐づいた端末の値引きは禁止され、通信契約に紐づかない値引きも2万円に制限されます。製造が中止された端末は例外として、中止から12カ月経過した後は半額、24カ月経過したあとは8割までの範囲で値引きができるという特例が設けられているのです。

アップルのiPhoneシリーズは、最新機種が出たからといって旧機種の生産を中止するのではなく、値下げして併売するなど、端末のライフサイクルが長いのが特徴となっています。ですが、今回の省令案では、旧機種であっても製造中止にならない限り、値引きは2万円までと限定されることから、パブリックコメントでも「この度の総務省令は、長く楽しんでいただける機能と価値を持った質の高い製品を創り出しているAppleのようなメーカーに対し、不当な扱いをするものです」と強い批判がなされています。

省令案に反対しているのはアップルだけではない

そもそも、省令案の在庫端末に関する特例がこのような形となったのには、携帯電話会社がiPhoneの大幅値引きに力を入れてきたことで、アップルが日本で圧倒的なシェアを獲得したことが強く影響しているとみられています。総務省はその原因が、携帯電話会社とアップルの契約に独占禁止法違反に抵触する内容があると考えていたようで、2018年には公正取引委員会と連携も図っています。

実際、公正取引委員会は総務省と連携する形で、アップルの日本法人であるApple Japanに対する調査を実施。2018年7月にはその結果を公表し、携帯電話3社と結ばれていた「iPhone Agreement」の内容を明らかにするに至っています。

この調査によって、アップルと携帯電話会社との契約に問題がないことは明らかにされました。ですが、一連の省令案からは、総務省がそれでもなおiPhoneの優遇販売を問題視し、携帯電話会社がiPhoneの旧機種の値引きを難しくする内容を盛り込んだと見る向きが少なからずあるようです。

ちなみに、先のパブリックコメントに対し、総務省側は「なお、通信契約とセットではなく端末単体で販売する場合の端末代金の値引きや、メーカによる端末の販売価格自体の引下げについては、いずれも制限はないものと承知しています」と回答しています。つまり、端末価格を引き下げたいなら、携帯電話会社ではなくメーカーが値引きすべき、というのが総務省側の考えのようです。

パブリックコメントで省令案などに批判の声を挙げているのは、実はアップルだけではありません。米国の半導体大手であるクアルコムも、端末代の値引きに関して「当該利益の提供の許容範囲を上限2万円と政府が定めることは、却って事業者間の競争を阻害し、結果的に、消費者負担を増加させることにもなりかねず、再考を求めます」と記すなど、強く反対する姿勢を見せています。

その理由は、クアルコムがスマートフォンの心臓となるチップセットや、通信を司るモデムチップなどを、端末メーカーに提供しているが故でしょう。省令案がそのまま通過した場合、端末値引きに大幅な規制がかかってスマートフォンの販売が大幅に落ち込むことが予想されます。そうなれば、チップセットなどを提供するクアルコムにとってもマイナスの影響が出てくることから、パブリックコメントで反対の意思を表明するに至ったと考えられます。

総務省はアップル、クアルコムいずれの意見に対しても、実質的に跳ねのけて現行の案を押し通しています。ですが、以前にも触れた通り、今回の総務省の省令案、特に2019年6月に公表された「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」で定められた内容に関しては、あまりに議論がなされぬまま、総務省側の方針を押し通そうという意思が強く見え隠れしています。

今回のパブリックコメントに対する反発は、そうした総務省側の強引な姿勢が強く影響したといえるのではないでしょうか。今回の法改正は、携帯電話市場を大きく変える内容でもあるだけに、やはり携帯電話会社はもちろんのこと、ビジネスに大きな影響を受ける端末メーカーや、それに関連するメーカー・団体も議論の場に加え、より慎重に議論を進める必要があったのではないかと筆者は感じています。

佐野正弘

最終更新:9/23(月) 7:11
マイナビニュース

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事