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「日向」中村地平 自分探しの先に見た故郷 【あの名作その時代シリーズ】

9/30(月) 18:00配信 有料

西日本新聞

「日向」に描かれている大淀川の河川敷。シルエットに浮かぶ女性の向こうに大きく伸びやかな朝焼けの空が広がっていた

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年7月22日付のものです。

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 〈べつだん、とりたてていうほど奇矯な風景ではない〉。所々に丘があり、川が流れ、竹やぶがあり、並木が連なる〈ごくありきたりな田舎の眺めをもっているにすぎない〉

 控えめな筆致で郷里、宮崎平野の叙述を始めた中村地平は〈しかし、そのくせ、その風景は、よその土地ではけっしてかんじることのできない、一種独特な調子、もち味といったものを持っている〉と続ける。

 〈どことなしに澄んだ、南方的なかがやきのある、そのくせ古典性に共通なあるふかい悲しみをかくした、一種の調子-うっかりすると、ついみおとしてしまいそうな、味のこまかい感覚的な調子を持っているのである〉

 風土記「日向」の一節である。

 論理的な文体で知られる中村にしては、やや抑制を欠き、もどかしい記述になったのは、古里に対する愛着と執着の大きさゆえだろうか。それでも、この短文には中村の郷土観だけでなく、その創作、さらには自身の存在の核までが描かれているような気がする。

     ◇

 中村が生まれ育った宮崎市を訪ねた。市街地を貫いて、大淀川がゆったりと流れ、陽光にあふれた大きな空が広がっていた。「日向」が書かれた時代から半世紀以上が過ぎた今も、〈この日向の国へはいればだれでも気がつく、一種気の遠くなるような明るさは、その土地いたるところの山河にゆらめいて〉いる雰囲気は濃厚である。しかし、〈古典性に共通なあるふかい悲しみ〉まではなかなか実感できない。 本文:2,599文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:9/30(月) 18:00
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