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アリババ・馬会長引退は「炭鉱のカナリア」か

10/3(木) 12:06配信

ニュースソクラ

【けいざい温故知新】国有企業と心中の道を歩む中国経済

 さまざまな景気指標が、失速のアラームを鳴らしている。建国70周年を迎えた中国経済は岐路に立つ。政府の介入にこだわるのか、市場に任せるのか。カギは、計画経済の象徴、国有企業の処遇だ。

 論語なら、40にして惑わず、70で矩(のり)をこえないはずが、惑える習近平政権は、非効率な国有企業を道連れに、経済を長期停滞に陥れかねない。

 9月10日、アリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)が55歳の誕生日に会長を退いた。政府との関係で心が折れそうだった、と証言する関係者もいるようだ。政府介入に愛想をつかせての引退なのか。

 引退公表は1年前。昨年11月、共産党機関誌「人民日報」が、馬雲が共産党員だと報じた。12月には、党・政府主催の「改革開放40年記念式典」で、テンセント創業者の馬化騰、バイドゥ創業者の李彦宏らと共に壇上で表彰を受けた。政権のけん制の臭いがする。

 世界銀行と中国国務院発展研究センターが9月半ばに共同発表した「創新中国」(InnovativeCHINA)リポートは、生産性を上げる改革を怠れば、2030年代の中国は年率1.7%成長に沈む、と試算している。

 両機関の共同リポートは7年ぶり。習政権発足前の12年2月に出た「2030年的中国」(CHINA2030)では、国有企業(SOE)が目の敵だった。民営企業より収益性も生産性も劣るのに、官のコネで銀行融資や商機へのアクセスなどで優遇され、競争を妨げている、と民営化など、SOEのリストラを求めていた。

 だが、新リポートでは、市場競争の促進を勧めつつ、SOEの存続を前提に、民営企業との公正な競争を求めるに留まる。政権への忖度がうかがえる。

 民営化に及び腰の習政権は、国有企業を「強く、優秀で、大きく」する方針をとる。SOE同士の大型合併や、民間資本を部分的に受け入れる「混合所有制」を進める構えだ。

 一方で、民営企業への党と政府のグリップを強めている。外資も含む民営企業に、社内に共産党組織の設置を促している。上場企業で、政府の下部組織や国有企業の出資を受け入れるケースも増えた。

 地方政府が、幹部職員を民営企業に派遣する動きもある。杭州市はアリババなど有力企業100社に派遣する。許認可を柔軟にするなど、企業との関係の円滑化が目的というが、民営企業の活力を損なわないか。

 中国の民営企業は、税収の50%超を納め、GDPの60%を稼ぎ、技術革新の70%を担い、都市部労働者の80%を雇用し、経済の主役になっている。政府の過剰な関与には、批判も多い。

 経済学者の張維迎・北京大教授は、過去40年の高度成長は「市場経済への移行、起業家精神の発揮、西側からの技術学習などでもたらされた」とし、国有企業の強化、政府の権限拡大、産業政策への依存は「改革プロセスを逆転させ、経済は停滞に陥る」と警告する。

 米クレアモント・マッケンナ大のミンシン・ペイ教授は、中国経済の持続的成長には、SOEの民営化などラディカルな改革が不可欠だが、現政権は私企業の犠牲の上に、一党独裁の経済的基盤であるSOEを守ろうとしている、と見る。

 リーマン危機後の4兆元対策に始まる投資主導の景気対策で、インフラ整備などの受け皿となった国有企業が幅を利かせ、民営企業を圧迫する「国進民退」が顕著になった。

 投資に次ぐ投資は、効率の悪い資本を積み上げた。この間、SOEへの銀行融資(SOEの債務)が急増している。8月に出たIMFの対中年次報告によれば、SOEの3分の1は赤字経営という。

 SOEの多くがゾンビ企業化していることは、容易に想像がつく。銀行側から見れば、不良債権の山だ。いつ金融危機に火がついても不思議はない。習主席が恐れる「灰色のサイ」である。

 そうなれば、壮大な投資の失敗であった日本のバブル崩壊後のように、中国経済は長期停滞に迷い込む。馬雲の引退は、炭鉱のカナリアかもしれない。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:10/3(木) 12:06
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