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松岡茉優&松坂桃李が明かす、役へと導くアプローチ法

10/7(月) 14:00配信

映画.com

 [映画.com ニュース] 史上初の快挙となる「直木賞」(第156回)と「本屋大賞」(2017年)をダブル受賞した恩田陸氏の小説を映画化した「蜜蜂と遠雷」(監督・石川慶、10月4日公開)は、天才たちが集う国際ピアノコンクールに参加する4人のピアニストが成長し、葛藤する姿を描く青春ストーリーだ。主演の松岡茉優と松坂桃李が、映像化不可能と言われた名作で天才ピアニストを演じた苦労を語った。(取材・文/平辻哲也 撮影/江藤海彦)

 劇中では、ライバルのピアニストを演じた2人。「松松コンビですね」というと、松岡は「松竹梅の一番いいやつ!」と笑顔いっぱい。直木賞と本屋大賞のダブル受賞という話題作の出演にはプレッシャーが大きかったが、恩田氏からは映画としての完成度の高さ、俳優陣の自然な演技を褒められ、ホッとしたという。松岡は「そのおかげで、こんな笑顔で宣伝活動ができています。最初は贖罪のような気持ちで宣伝活動をしようと思っていましたから。恩田先生がこう言ってくださったら、ある種のゴールですよね」と笑顔が弾けた。

 「万引き家族」の松岡、「娼年」「孤狼の血」の松坂。映画賞の授賞式で顔を合わせることはあったが、共演は初めて。松岡は、母親の死をきっかけに表舞台を去り今回のコンクールで再起をかける、かつての天才少女、栄伝亜夜役。松坂は、年齢制限のため「これが最後」と覚悟を決めコンクールに出場した楽器店勤務のサラリーマン・ピアニスト、高島明石役だ。

 互いの印象を聞くと、「テレビで拝見している松岡さんはすごく話してくださる明るい感じがあったんですけど、現場に入ったら真逆。『あれ?本来はどっちだろう』と思いつつ、この映画の宣伝で集まったときに、すごくトークを繰り広げていて、頭の回転も速く……なるほど、使い分けているんだな、と思いました」(松坂)。

 松岡にとって、代表作「勝手にふるえてろ」以来の主演。この映画にかける思いは強く、ヒロインになりきるために役作りに没頭したようだ。「(松坂は、安藤)サクラさんが大好きな方というイメージです(笑)。授賞式でもラブをすごい感じていましたから。サクラさんが大好きなら、きっと最高に素敵な方なんだと思って、現場に入りました。今回は天才3人に対して、生活者の音楽を求めている高島明石というキャラクターですが、本当に私たち3人を常に見守りつつ支えてくださっている感じが映画にも出ています。そのバランスも原作通り」と評する。さらには今年のヒット作となった「新聞記者」で、憧れのシム・ウンギョンと共演したことが羨ましかったという。

 互いにタイプの違う天才ピアニストを演じた2人。そのアプローチはどうだったのか。松坂はピアノ経験ゼロで、ドレミファソラシドの鍵盤も分からないほどだった。「まずはピアノを弾くことを好きになることから始めましょうっていう段階だったので、それをとっぱらうのがまず難しかった。僕を指導してくださった先生は初対面の時に、1枚の紙を渡してくれたんです。紙には明石についての特徴、行動、コンテストの前の彼はどういう準備をするのか、どういう心持ちでいるのかが書いてあったんですよ。この人、すごい!と思いました。そこからは演奏に向け、一つ一つ指の動きを丁寧にやっていきました」と話す。

 松坂自身はイメージを持って役に入るものの、プロフィールのディテールまでは用意しないそうで、「紙には『カバンの中はハンカチと楽譜と水のみだと思われる』みたいなことが書いてあって、そこまでは考えてなかった。こういうアプローチも面白いなと思いましたね。明石は生活に根付いた音楽を心の中で宿しながらコンクールに参加しますが、何かちょっとした生活感みたいなものが見え隠れしているので、先生が作ってくださった明石氏のプロフィールが心の支えになりました」と俳優顔負けの周到な準備に大いに助けられたと語る。

 一方、役作りに当たって、「毎回、プロフィール作りが楽しみ」というのは松岡だ。「高校生の頃から、『誕生日大全』という本を大事に使っています。その誕生日の星占い、恋愛・仕事・相性のいい人、長所と短所が書いてあるんです。短所を作ることをすごく大事にしていて、作品の主人公やヒロインになりうる人は素敵な面ばかりに見えがちですが、短所はとても人間味において必要。『この誕生日がいい』と思って決めた誕生日の有名人が(オーストリアの世界的な指揮者ヘルベルト・フォン・)カラヤン(1908年4月5日生まれ)だったんですよ」と明かす。

 松岡も、実際のピアノ奏者、河村尚子氏の演奏する姿を参考にした。「レコーディング風景の動画を常に持ち歩いていました。河村さんはピアノと喧嘩をしているようにも見えるし、愛し合っているようにも見える。きっとこれは亜夜にも通じることだと思いました。亜夜はおそらく理解者がそんなに周りにいなくて孤独な人だと思うんですけど、その中でピアノだけには本音が言えて、本当の気持ちが伝えられるというところは、演奏を見て気がつきました」。劇中、重そうなショルダーバックを斜めがけしているのが印象的だが、これも河村氏のスタイルを参考にしたもの。「楽譜、水、教本、ノート、化粧ポーチとか亜夜が持っているだろうものを全部詰め込んでいるので、実際に重いんです。だから、肩こりがひどかった(笑)」と語る。

 ピアノの演奏シーンは河村氏らプロの演奏に合わせた当てぶり。約1か月弱という短い期間で猛特訓した。2人が最初に出会ったのもレッスン場。「私はマネージャーさんと一緒でしたが、松坂さんは本当にフラッと1人でいらっしゃるんですよ。終わっても、お一人で帰られるので、驚きしました。本当に自然体な方なんだなあと思いました」と松岡。

 大勢のエキストラを動員してのコンクールでの演奏シーンは緊張の連続だった。「各々の演奏シーンで本当にそれぞれの葛藤とか思いみたいなものが、思いっきりガンっと表現されるので、弾き始めや、弾く瞬間に思いが出るので、そこは一番緊張したかもしれない」(松坂)。原作は4人のピアニストの心理描写に主眼が置かれており、劇中でも、主演の松岡もせりふは少なめ。「この映画の宣伝活動をする中、『セリフが少ないですね』と言われてから、初めて気が付いたんですよ。今回の亜夜のテーマとしては、1回戦2回戦と自分とピアノの対話であり、孤独でエゴもあるような演奏なんですが、最後本選で初めてお客さんに向けてエンターテイナーとして羽化するというふうに捉えていました」と話す。

 松岡の見せ場は、プロコフィエフのピアノ協奏曲3番の演奏シーン。「プロコの3番はピアノコンクールで愛され、プロのピアニストの方もオーケストラと一緒に弾くような曲なので、映像がたくさんあったんですよ。いろんな方の弾き方を見て、ここはこう弾こう、ここはこの人のこれといった感じで組み立てていきました。楽しかったですけど、頭はパンパンでしたね。撮影ではお客さんもノってくれたんですよ。手拍子をしているわけでもないですし、演奏もレコーディングしたものが、流れるんですけど、その場のグルーブ感っていうのは、俳優をやっていては、なかなか感じられないものでした」と振り返る。

 今、書店では、キャラクター4人のビジュアルをメインにした帯が巻かれた文庫本が並んでいる。松岡は「今、本屋さんの実写化作品コーナーに平積みされているんだけど、多分、恥ずかしくて買えない。見ていませんよみたいな感じですが、実は超見ています。上巻は松坂さんのものと、私のがあるけど、どっちを買うんだろうみたいな……」と笑い。2人がともに印象的なシーンに挙げたのは、4人のピアニストが砂浜を歩くもの。「石川監督はポーランドで学ばれていることもあって、映像が独特です。色彩がない世界の中で、自然の緑や海の青が眩しく、ピアノの黒と色が印象的。映像の切り取り方、編集やカメラのワークも日本離れした新しい音楽映画になったと思っています」と出来栄えに自信を見せていた。

最終更新:10/7(月) 14:00
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