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歌舞伎俳優・坂東玉三郎 天命の女形「命がけで」 ジャンル越え世界とコラボ 世界文化賞・演劇映像部門受賞

10/10(木) 16:56配信

夕刊フジ

 舞台に登場すると、その美しさに、客席からため息にも似た感動の「じわ」がさざなみのように広がる。

 「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」の花魁(おいらん)・八ツ橋では、謎めいたほほえみで田舎商人を結果的に破滅に追いやり、「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)」の傾城・阿古屋(あこや)は、舞台で実際に琴、三味線、胡弓の三曲を演奏、その至難さのため、長く玉三郎ひとりしか演じる人がいなかった。いま、現代歌舞伎の女形の最高峰として、歌舞伎の奥深い魅力を体現する。

 「女形を極めるということは、一生かけて、命がけで取り組まないとできないことですね。女形が不自然と思われないためには、細かい技術と大変な修練、そして何より品格が必要ではないでしょうか」

 普段も手指の先まで神経の行き届いた美しいしぐさに静かな物腰。だが、芯に強い意志を感じさせる。

 女性よりも女性らしい艶(あで)やかさで、若い頃から「玉三郎ブーム」を巻き起こした。1984年にはニューヨークのメトロポリタン歌劇場百周年記念公演に招かれ、「鷺娘(さぎむすめ)」を踊って世界中の人々をも魅了した。

 「女形というのは大変不思議な役柄です。男でありながら女を演じるということなんですけれども、究極、自分の体を使って、他人になる一つの作品というふうに考えています」

                  ◇

 「私は大変運のよかった人間だと思います」と半生を振り返る。

 50年、東京の料亭に生まれ、踊りが大好きだった少年は幼いころから歌舞伎に魅せられた。

 「いまでも鮮明に覚えている舞台があります」。玉三郎は懐かしそうな顔をした。その舞台とは六世中村歌右衛門が八ツ橋を演じた「籠釣瓶花街酔醒」。

 「あの美しさ、最後に切られて死んでゆく姿、舞台となった吉原の仲之町の華やかさも印象深いものでした」

 56年、十四世守田勘弥(もりた・かんや)に弟子入り。才能を見込まれ、14歳のとき、勘弥に「養子にならないか」と声をかけられる。五代目坂東玉三郎の誕生であった。

 「私が選んでこの道に進んだというよりも、いただいたものを一生懸命やってきたら、今日になったという感じですね」

 当時、女形としては173センチと長身で、立役(たちやく)の俳優より背が高いことが多く、舞台での見せ方に苦労もあった。そのとき、助けになったのが浮世絵の美人画。

 「鳥居清長の浮世絵など、8頭身、9頭身もあるような江戸時代の女性が描かれていて、日本の美というのは、必ずしも女性が小さくなければいけないこともない、ということを学びました。描かれている体のしなやかな線、衣裳の曲線、醸し出される雰囲気など勉強になりました」

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 希有な美しさや存在感は、国内外の一流アーティストにひらめきや霊感を与え、東西の壁を越えて多くのコラボレーションを行ってきた。

 三島由紀夫は、19歳の玉三郎を、自作「椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)のヒロイン、白縫姫(しらぬいひめ)に抜擢した。

 世界文化賞の歴代受賞者との共同作業も多く、ポーランドの映画監督、アンジェイ・ワイダの「ナスターシャ」では、映画版、舞台版ともヒロインのナスターシャと彼女に恋する純粋な青年、ムイシュキン公爵の男女2役を演じ分けた。世界的なバレエダンサー、ミハイル・バリシニコフとも20年ほど前、ダンス共演を果たし、芸術の新しい地平を切り開いてきた。

 「ジャンルを越えたコラボレーションは大変な困難を伴いますが、このような経験は、私が舞台に立つとき、また、演出の仕事をしていく上で大きな影響を受けました」

 それが、歌舞伎の女形を超越した「世界の玉三郎」を創り上げていったのであろう。

 「演劇の根本でもあるのでしょうが、美と醜、善と悪、そういうものが複雑に絡み合った作品やお役に引かれますね」と話す。

 近年は歌舞伎の次代を担う女形の育成に力を注ぐ。

 「ただ、私自身のことでいうと、将来何をしたいとか、あまり考えていないんです。いつも来月の舞台のことで頭がいっぱい」

 そう言って、希代の女形はふわりとほほ笑んだ。(ペン・亀岡典子 カメラ・桐山弘太)

 ■坂東玉三郎(ばんどう・たまさぶろう) 1950年4月25日、東京生まれ。69歳。57年、坂東喜の字を名乗って初舞台。64年、十四世守田勘弥の養子となり、五代目坂東玉三郎を襲名。歌舞伎界を代表する女形であり、海外の一流アーティストとのコラボレーションも多い。太鼓芸能集団「鼓童」の芸術監督を務めたり、演出家、映画監督としても活躍。人間国宝。フランス芸術文化勲章コマンドゥールを受章。

最終更新:10/10(木) 16:56
夕刊フジ

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