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楢崎智亜が世界王者になっても「一番強い」と言えない理由 世界最強を証明する挑戦の物語

10/12(土) 18:10配信

REAL SPORTS

8月に行われたIFSCクライミング・世界選手権2019の結果を受け、2020年東京五輪のスポーツクライミング男子日本代表第1号に楢崎智亜が内定した。誰もが代表枠争いの行方に注目する中、楢崎は大会前から一人見ている先が違った。

「代表枠ではなく、世界一を狙いにいく」

楢崎が大会前にあえて五輪代表ではなく世界一と口にした意味。そして東京五輪での金メダル獲得で掴み取りたいものとは。楢崎のその頂への挑戦の物語を紡いだ。

誰に聞いても一番強いのは楢崎智亜だと言われたい

「世界選手権では日本人の最上位選手が五輪代表枠をもらえるという話ですが、僕は代表枠というより世界一を狙って大会に臨みたいと思っています」

東京五輪の出場権が懸かったIFSCクライミング・世界選手権2019の前日記者会見での一幕だ。野口啓代と並んで登壇した楢崎智亜は、その冒頭で自信に満ちた視線を満員の会見場に向けながらそう宣言した。それはじつに楢崎らしい言葉だった。

東京五輪の追加種目にスポーツクライミングの採用が決まった2016年。当時20歳の楢崎は日本人男子初のボルダリングワールドカップ年間総合優勝と、日本人初の世界選手権ボルダリング種目優勝の2冠を達成した。それは野口でさえ未だ成し得ていない日本人選手にとって前人未到の快挙だった。しかもこの時、楢崎は国内タイトルをまだ一度も取ったことがなかった。

筆者が初めて楢崎を見たのは、そんな快挙を達成した直後に収録されたテレビ番組のインタビューだった。そのインタビューでこれからどんなクライマーになっていきたいかを聞かれ、楢崎はこう答えていた。

「誰に聞いても一番強いのは楢崎智亜だと言われるようなクライマーになりたいですね」

名も無い選手ではなく、2つの世界一を極めたばかりの選手の口から“一番強いと言われたい”という言葉が出てきたのだから面白い。“自分が世界で一番強い”と息巻いても誰も文句は言わないし、否定もされないのではないか。それとも2つの世界一を取ってもクライミングにはそう言わせない何かがあるのだろうか。世界王者のなんとも純粋で無垢なアスリートとしての欲求に強く興味を引かれた。そして次の言葉でその理由がわかる。

「今、その質問をしても違う選手の名前が出てくると思います」

楢崎は“違う選手”の顔をしっかりと頭の中に描きながら答えていた。2つの世界一を取ってもなお、そう言わせない存在が。たまたまつけたその番組を気がつけば食い入るように見ていた。

「いつか、世界で一番強いクライマーになりたいですね」

まるでまだ何も成し得ていない20歳の若者のように、楢崎は照れ臭そうに笑いながらインタビューを締めくくった。近い将来、照れ笑いではなく、確信を持った目で“世界一”を口にする日がくる。テレビ画面の楢崎を見ながらそう確信めいたものを感じた。その“いつか”をこの目で見るため、楢崎の世界一強いクライマーへの挑戦を追い始めた。

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最終更新:10/12(土) 20:43
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