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『イエスタデイ』ダニー・ボイル監督が語る、ビートルズファン垂涎の名シーンの舞台裏

10/12(土) 21:30配信

Movie Walker

なんとも斬新なアプローチ!『ボヘミアン・ラプソディ』(18)や『ロケットマン』(公開中)など、音楽映画の傑作が相次ぐなか、ザ・ビートルズをフィーチャーした『イエスタデイ』(10月11日公開)は、奇想天外な映画である。描かれるのは、主人公しかビートルズを知らない世界!にも関わらず、涙腺と琴線を刺激するビートルズファン垂涎のシーンが満載だ。そんなトリッキーな作品を手掛けたダニー・ボイル監督に、本作とビートルズへの熱い想いを聞いた。

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主人公は、売れないシンガーソングライターのジャックで、演じたのはオーディションで見出された新星ヒメーシュ・パテルだ。ある日、世界規模で謎の大停電が起こり、交通事故に遭ったジャックが昏睡状態から目を覚ますと、そこはビートルズが存在していない世界になっていた。ジャックは自分が覚えているビートルズの名曲を歌い、スターダムを駆け上がっていく。本作に人気ミュージシャン、エド・シーランが本人役で出演していることも話題となった。

脚本を手掛けたのは、「Mr.ビーン」シリーズなどの爆笑コメディから、『ノッティングヒルの恋人』(99)や『ラブ・アクチュアリー』(03)などのロマンティックコメディなど、ウェルメイドな作風で知られる脚本家で監督のリチャード・カーティス。「トレイン・スポッティング」シリーズや『スラムドッグ$ミリオネア』(08)など、エッジのきいたパワフルな映像作品で知られるボイル監督の作風とはまったく違うが、両者ともイギリス人で、ビートルズの映画を手掛けるにはふさわしい大物コンビかもしれない。

ボイル監督は初タッグを組んだカーティスについて「すばらしいコラボレーションができた」と手応えを口にする。

「リチャードはテレビシリーズも含め、イギリス人にとって、なくてはならない秀逸なストーリーを紡ぎだしてきた人気フィルムメーカーであり脚本家だ。ただ、本作については彼が『僕には、ビートルズの映画に見合うだけのダイナミックなビジュアルを作りだせない。僕は今回、脚本に専念するから、君に監督をしてほしい』と言ってくれた。それで僕は彼の意向を汲み、普通のサクセスストーリーではなく、ビートルズの音楽にのせて、躍動感がある画角の広い映画を撮ることにした。僕はリチャードのことを敬愛しているし、彼とはとても馬が合ったので、意見が食い違うこともまったくなかったよ」。

ビートルズのヒットナンバーを次々と歌い上げるヒメーシュ・パテルのライブシーンを撮影するなかで、監督が最も印象的だったのは「Help!」と「The Long And Winding Road」を歌うシーンだったと言う。

「ジャックが屋上のステージで歌ったパンクバージョンの『Help!』は、今回使用したなかで、原曲を一番大胆にアレンジしたものだ。ジョン・レノンの曲で、当時レノンが名声を得て、ものすごいプレッシャーのなか、どこにも行けない囚われの身になったような気持ちや、ある種の怒りを吐露した曲なんだ。それはまさに、ジャックが置かれた状況と重なっていて、ヒメーシュはその気持ちを力強く歌い上げた。参加してくれた大勢のエキストラ全員が、彼のすばらしいパフォーマンスに反応してくれたから、僕はなんの演技指導もしなくてよかった。最高の1日だったので、天国にいるレノンの感想を聞いてみたいものさ」。

ポール・マッカートニーの名曲「The Long And Winding Road」は、エド・シーランと作曲バトルをするシーンで歌われる。「エド・シーランがジャックの歌を聴いて『いままで自分の人生で聴いたなかで最高の名曲だ』と絶賛するシーンだ。ヒメーシュのパフォーマンスも見事だったが、エドの自然なリアクションもすばらしかった。実は、非常におもしろいことに、ヒメーシュがオーディションの際、立ち会ったエドの前で披露したのも同曲だった。彼はトップスターであるエドの前で、生歌を歌うということで硬くなっていたと思うけど、エドはその歌を聴いて『彼ならいける。魂を込めた歌だ』と太鼓判を押した。それは、僕も初めてヒメーシュの歌を聴いた時に感じたもので、まさに彼が持つ、生まれながらの才能であり、今回のジャック役にはピッタリだった」。

大ブレイクしていくジャックだが、彼は大停電以降、ビートルズ以外にも、世界的に有名なキャラクターや商品のいくつかが消えていることに気づく。例えば、「コーラ」や「ハリー・ポッター」「オアシス」などが存在しないことになっているが、これらはどういう基準で消されたのか?

「そもそも映画の設定自体に突拍子がなさすぎるので、なぜ、あんなふうに世界が変わったのかを合理的に計算したとしたら、ものすごく複雑なアルゴリズムを求められることになる。だから割り切って、ランダムに決めていったよ。なかにはタバコのように、消えたほうが健康にいいと喜ばれるものもありそうだ。個人的には、ハリー・ポッターがいない世界はとても悲しい。ただ、逆に言えば、今回消えたものと消えないものを入れ替えたら、『イエスタデイ』の続編が作れるかもしれないという下心も芽生えたよ(笑)」。

そして、ビートルズファンが観たら、心を鷲づかみにされるだろうサプライズシーンも用意されている。ネタバレは避けるが、ボイル監督自身も「脚本であのシーンを読んだ時、思わず息ができなくなるような感覚を覚えた。本作は、コメディタッチで物語が進むけど、あのシーンだけはかなりヘビーだったから」と衝撃を受けたことを告白。

「僕自身がビートルズについて、深く思いを馳せた瞬間だった。ただ、それを描くことが、映画による魔法のすばらしさだとも感じたよ。悲しいけど、希望みたいなものも感じられる名シーンになると思った。“たられば”を描く空想の世界ではあるが、偉大なミュージシャンが生きた証をしっかりと刻みたいと思ったんだ」。

ボイル監督は、本作を撮り終えたあと「ビートルズが世界に与えた影響は計り知れないものがある」と改めて実感したそうだ。

「僕がどれだけストーリーに感情を込めようと、どれだけビートルズの曲を使おうと、映画では、ほんの一部しか伝えられない。ビートルズは、音楽シーンだけではなく、ポップカルチャーの火付け役的な存在だった。それまでは、モーツァルトなど、古典音楽の作曲家だけが芸術家として認められていた世の中だったが、すばらしい曲を書けば、誰だってアーティストになれるというインスピレーションを与えてくれた。そこから大衆文化がどんどん育っていった。そんなビートルズのすごい功績を描くことに、僕もリチャードもすさまじいプレッシャーと責任を感じたが、それと同時に、いまはとてつもない誇りも感じている」。(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)

最終更新:10/12(土) 21:30
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