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【この人の哲学】売野雅勇氏 阿久さんから学んだ“偶然”の意味

10/14(月) 20:23配信

東スポWeb

【この人の哲学(4)】リバイバルヒットしている「め組のひと」や中森明菜の「少女A」、チェッカーズ、矢沢永吉の数々のヒット曲で知られる作詞家の売野雅勇氏。今回は音楽業界の2人の偉人との出会いを通して知った“偶然”の持つ意味を語る。

 ――ゴルフ場で大変なことがあったんですか

 売野氏:これは「砂の果実」という本にも書いたんだけど、静岡県にある阿久悠さんの別荘近くのゴルフ場に行った時、忘れもしない8番ホールです。クラブを取ろうとした瞬間、突如、下半身に激痛が走ったんですよ。足元に転がるボール、向こうから謝りながら走って来る男…。隣のホールから飛んできたボールが、急所を直撃したんです。

 ――そ、それは、男としてお悔やみ申し上げるしかない惨事です

 売野氏:あり得ないでしょ。芝生の上をのたうち回りましたよ。すぐ病院に行って、治療後に阿久さんの別荘でその話をしたら、阿久さんは「股間にボールが…。そんな話、聞いたことがない」とつぶやいて、うちの事務所の斎藤正毅社長に「斎藤君、これは超ド級のヒットが出るよ」と真顔で言ったんです。

 ――冗談で、ではなく

 売野氏:真顔です。つまり、阿久さん自身がそういう考え方をしていたということだね。あの人ほどヒット曲を書いた人はいない。ヒットの神様は、こういうレアな悪いことは何か良いことの前触れだと、僕たち以上に感じたんだと思う。

 ――実際にその後は

 売野氏:ゴルフが1982年9月の終わりで、半年後の83年3月に久留米から上京したチェッカーズに出会うんですね。で、9月にデビューし、翌年1月に僕と芹澤(廣明)さんとで書いた第2弾シングル「涙のリクエスト」で大ブレークしました。

 ――チェッカーズの2~8、10、11枚目のシングルはお2人の作品。ことごとくヒットしました。阿久さんの言葉通りに!

 売野氏:言われた時は「面白い考え方だな。でも関係ないだろう」と思ったけど、言葉が現実になったから、ますます尊敬しましたよ。ほんとすごい方ですよね。“偶然”から意味を読み取るという点では、長戸大幸さんも面白かったな。

 ――B’z、TUBE、ZARD、大黒摩季など数々のアーティストを育てたビーイング創設者の!

 売野氏:作詞家になる前、勘違いからお会いしてね。僕たちが作ってた「LA VIE」という雑誌の音楽記事を、「パイドパイパーハウス」というマニアックなレコード店を経営している長門芳郎さんにお願いしようと思ったんですよ。

 ――青山にあった“伝説のレコード店”ですね

 売野氏:会ったことがなかったから、連絡先を探してもらってね。教えてもらった番号に電話したら「今なら時間がある」と言われて行ったんだけど、話がどうもかみ合わない。思い返すと電話では「ナガトさんですか?」「ナガトです」と下の名前まで確認しなかった。こりゃ人違いだと、正直に「すいません、長門芳郎さんと間違えました」と言ったんです。すでに30分はたってたかな。

 ――気まずいですね

 売野氏:いやいや、長戸さんは「気にしないでいいよ。偶然には意味がある。こんな形で君と出会ったのも意味がある」と言うんだね。「偶然の意味を信じてるから、電車で偶然何度も会うやつは会社に入れちゃうんだよ」とも。話は面白いし、魅力的な人だったな。

 ――すごい考え方です。影響は受けましたか

 売野氏:以後、偶然を大切にするようになりました。うっすらと気にしていたものを、明確に意識するようになってね。詞でも絵でも、アートの完成は制作をやめた時。直そうと思ったら違う作品になるぐらい直せるのを、例えば猫が鳴いたとか、腹が減ったとか、たまたまの要素をきっかけに作業を終えるんです。手に取った本にヒントが落ちていることもある。偶然は大切です。(続く)

★プロフィル=うりの・まさお 1951年生まれ。栃木県出身。上智大学文学部英文学科卒業後、コピーライター、ファッション誌副編集長を経て作詞家に。82年に中森明菜の「少女A」が大ヒット。チェッカーズ、郷ひろみ、矢沢永吉、SMAPなど数々のアーティストに作品を提供。映画・演劇の脚本・監督・プロデュースも手掛ける。著書に「砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々」。ロシア出身の美貌のデュオ「Max Lux」をプロデュース。

最終更新:10/15(火) 11:47
東スポWeb

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