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晩秋の夜に音楽を、“レコードの日”に再生したい5曲

10/14(月) 18:02配信

OKMusic

固く締め切った雨戸を漸く開けた昨晩。台風の目の中に突き落とされた東京でコンビニの明かりを求めて彷徨う人々とすれ違っても、視線がかち合うことは決してなく、テラテラ光る夜の街の中では暴風で引きちぎられた枝葉の血のような青い匂いと、鈴虫の命をむき出しにしたかのごとき鳴き声だけが鮮やかで、まるで死後の世界のようでした。さまざまな催しに体と脳を酷使する日々から少しだけ離れた1日、久々にレコードの溝の中で繰り返されるまっさらな音楽に触れる時間ができて、もうここには自分と音楽しか存在しないかのようなただの錯覚が横たわっていて、それはとても幸福なことでした。前置きが長くなりましたが、そういうわけで今回は「レコードの日」にリリースされる作品から5曲ピックアップします。今の私たちに必要なのは、繊細な盤の溝にゆっくりと針を落としたりだとか、そういったことで得られる時間という贅沢なのかもしれません。

「I’ll BE YOUR MIRROR」(’67)/The velvet underground & Nico

いくらサブスクでポケットサイズになっても、お金や労力を使わずして音楽が聴き放題になっても、ひもじさの余りあらゆる収集物を断腸の思いで売り払ってしまっても、「これだけは墓場に持っていく!」と死守したいアルバムの収録曲。真夏のコンクリートの木陰を思わせる乾き切った鬱屈さや液状化する壁のようなグロテスクさで構築された作品の中で、タンバリンとギターの穏やかな音色に寄り添って《I’ll be your mirror Reflect what you are, in case you don't know》と軽やかに朗々と歌われるこの曲の、日差しの中で光る埃にも似た明度は、いつの日もお守りのように美しいままです。

「どんぶらこ」(’90)/たま

みんな大好き「オゾンのダンス」「学校にまにあわない」「ロシヤのパン」「さよなら人類」「らんちう」などが収録された名盤から、すり足で忍び寄る「どんぶらこ」を。ふと省みれば童話『桃太郎』でしか耳にする機会のないであろう“どんぶらこ”という擬音が孕む怪しさに刃を入れて、放出される生温かい液体で綴ったような怪曲です。極彩色のぶつ切りの悪夢を淡々と歌い上げる柳原陽一郎の声やきゅるりきゅるりと鳴る弦の間幕に緩慢なパーカッションの反復が、爛熟した果実や開ききった花を想起させる気だるさを形作っていきます。それにしても《紳士淑女のみなさん指輪をならす》という比喩だけで無限に織りなされるこの詩情よ!

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最終更新:10/14(月) 18:02
OKMusic

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